炎上トラブル解決の専門家です。東洋水産「赤いきつね」のプロモーション動画が「頬赤らめてクネクネしながらうどん啜る女なんて気色悪い!」「AVみたいでキモい!」「女性を性的に扱った、男性視線の広告だ!」などと一部界隈から批判を受けているようですね。
私はちょうど夜に当該動画を見たものですから、普通に「飯テロだ!」「赤いきつね食いてえ!」と感じましたが、世の中には様々な考えを持った人がいるものです。
思い返せば、この種の二次元美少女キャラクターが広告やポスター等に起用される度に何かしら厳しい批判を受け、「表現の自由派」との間で賛否両論がぶつかり炎上する、という歴史は過去何度も繰り返しています。直近10年の主なものだけでもこれくらい列挙できるほどに。
・人口知能学会表紙イラスト騒動(2014)
⇒箒を持った女性型ロボットが充電ケーブルらしきものに繋がっている様子が「女性蔑視」「女性差別ではないか」と批判を受ける。
・志摩市ご当地キャラクター「碧志摩メグ」騒動(2015)
⇒頬を赤らめた笑顔、身体のラインを際立たせる着物のひだ、腿まではだけた足などが「過度に性的」「エロを連想させる」と批判を受ける。
・TVアニメ「のうりん」美濃加茂市コラボレーション騒動(2015)
⇒強調されたキャラクターの胸が「セクハラではないか」と批判を受ける。
・東京メトロ「駅乃みちか」鉄道むすめver騒動(2016)
⇒頬を赤らめうっとりとした表情、足をくねらせ、黒いスカートから下着らしきものが透けて見えるようなデザインが「性的」「男に媚びている」「公共交通機関のキャラクターとしてふさわしくない」と批判を受ける。
・環境省「君野ミライ」「君野イマ」騒動(2017)
⇒「身長158㎝の女子高生」との設定や、ミニスカート、内股の萌え絵キャラクターに対して「なぜ温暖化対策のキャラクターが女子高生の必要があるのか」「政府が性差別ともとれる『萌え』の概念を推進するな」と批判を受ける。
・Vtuber「キズナアイ」NHKノーベル賞解説サイト騒動(2018)
⇒胸が強調され、ヘソ出し衣装のキャラクターが専門家の話を聴く役割を担っていることに対して「乳袋やヘソを出した性的なイラストを、ノーベル賞受賞サイトで使う感覚を疑う」「女性を相槌しか打たない補助的な役割に押し込めている」と批判を受ける。
・「宇崎ちゃんは遊びたい」赤十字献血ポスター騒動(2019)
⇒強調されたキャラクターの胸が「環境型セクハラだ」「女性の性が断片化され、人格から切り離されたモノと扱われることが、女性蔑視・女性差別だ」と批判を受ける。
・「ラブライブ」沼津みかんポスター騒動(2020)
⇒短い丈のスカート、Vラインに描写された影のせいで下着が透けて見えてしまっているかのようなデザインに対して「スカートが透けているようで性的だ」「農産物の広告にふさわしくない」と批判を受ける。
・ご当地Vtuber「戸定梨香」交通安全PR騒動(2021)
⇒キャラクターの服装に露出が多いとして「性的対象として描いており、女性の定型化された役割に基づく偏見を助長している」「性犯罪誘発の懸念すら感じさせる」と批判を受ける。
・「温泉むすめ」プロモーション騒動(2021)
⇒全国各地の温泉を擬人化した少女キャラクター設定の中に「スカートめくり好き」「夜這い待ち」といったものが含まれていたことに対して「女性蔑視」「性差別で性搾取」「性的消費だ」と批判を受ける。
・「月曜日のたわわ」日経新聞全面広告騒動(2022)
⇒胸が強調されたミニスカートの女子高生のイラストが「未成年の女性の肉体に欲望を抱く男性目線」「『見たくない権利』を侵害している」「広告として不適切」と批判を受ける。
・JR大阪駅「雀魂」×「咲-Saki-全国編」コラボポスター騒動(2022)
⇒水着やバニーガール姿のキャラクターイラストに対して「性の商品化」「公共空間でゾーニングされていない」と批判を受ける。
・三重交通公式キャラクター「神都あかり」騒動(2024)
⇒23歳女性運転士との設定の制服キャラクターイラストに対して「制服がタイトで身体のラインが強調されている」「クネクネポーズでクビれている」「男が思い描く女の虚像」「時代錯誤で吐き気がする」と批判を受ける。
過去の我が国では、性的表現はかなりオープンだった時期もありました。ただし近年、とくにジェンダー表現に関しては世界的にセンシティブになっており、広告や出版物の表現もその例外ではありません。公共の場での掲示についてもガイドラインが設定され、掲示物はそれらを逸脱しないよう慎重に検討がなされるようになってきています。
私は炎上対応の専門家として、普段「自組織側に非があるトラブル事案は、初期段階でキッチリと謝罪し、問題の原因を解消しておくに尽きる」とアドバイスしていますが、一方で自組織に非がない、言いがかりに近いクレームを起因とした炎上の場合は、「不必要に騒がず、反論もせず、泰然自若の構えで『当社には何ら問題はないと認識している』として屈しなければよい」とも助言しています。騒いでいる連中は単に何かしらを燃やしたいだけで、そもそも「お客様」でさえないケースも多いですからね。
そして、余計な騒動に巻き込まれないようにするためか、これまでクレームや批判を受けた表現やイラストを取り下げるばかりであった企業(広告主)側も、2022年頃から対応スタンスが変化してきた感があります。
たとえば「月曜日のたわわ」騒動では、新聞社、出版社、作者全員が完全スルーし、かつそれで何の問題もないことが証明されました。
また「雀魂」×「咲-Saki-全国編」コラボポスターを取り扱った広告代理店「JR西日本コミュニケーションズ」は、「複数の担当者で検討し、修正を重ねて出来上がったもので問題ない」とし、クレームに取り合わなかったことで却って評価される結果となっています。
そして直近の三重交通グループでも、「炎上に対してさまざまな意見が寄せられていることは把握している」とした上で、「キャンペーンに変更はない」と明言し、批判があった同月からキャラクターのラッピングバス運行を開始。このスタンスは「毅然としている」とむしろ好評を博しました。
ちなみに三重交通のキャラクターは、パンツスーツの制服姿で露出もなく、胸も過度に強調されておらず、過去「性的だ!」と批判を受けたような材料は皆無でした。あれにクレームをつけている人たちは、一体何が気に食わなかったんでしょうか。
今般の赤いきつねのキャラクターもその点同様で、未成年女児でもなく、肌の露出も特段なく、服装はむしろ地味な印象だし、胸も強調されてないし、髪をかき上げるしぐさなんて武田鉄矢もやってるし。文句をつけられる可能性があるポイントは慎重に回避されてるんですよね。
それでも批判してる人たちは、明らかな問題があって声を上げているのではなく、「単に何かしら文句をつけたいがために、文句をつけられる対象をわざわざ捜し出し、重箱の隅をつつくように指摘しているのでは?」とも勘繰ってしまいます。
先ほど「炎上騒動に対する企業側の対応が2022年頃から変わりつつある」と述べましたが、企業側が局所的なジェンダークレームに対して毅然とした対応を示した(私の知る限り)最初期の例が、実は今般の被害者でもある東洋水産なんですよね。
2020年末、「マルちゃん正麺」の公式アカウントが投稿したプロモーション漫画において、「夫と息子が昼食で使用した食器を、仕事帰りの妻が洗う場面」姿に「ジェンダーロールから脱却できてない!」などと批判が寄せられたことがありました。
この際の東洋水産の対応は、いまだに企業のSNS対応の教科書的事例として語り継がれています。ポイントは3点です。
(1)投稿を安易に削除せず、次回作漫画の投稿を延期し、その間に批判内容を分析し対応を検討したこと
(2)「漫画は自社の責任のもとで制作・公開したもので、作画担当者に責任はない」とイラストレーターを守ったこと
(3)批判意見も真摯に受け止めつつ、批判者はごく一部であり、擁護意見が大半であったことから、漫画公開を再開したこと
今般も同様、局所的な「非実在型炎上」かと思われますが、ぜひ東洋水産さんは理不尽なクレームに屈することなく毅然と対応頂き、新しい魅力的なキャラクターに活躍の場を数多く与えてあげてほしいです。そのうえで、「好きなものを好きと言える社会」を我々自身で維持していきたいですね。
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