決議案は差別という概念を悪用し、軍事組織を批判する市民の表現の自由を封じ込める内容だ。
差別の定義は人間の歴史の中で定まってきた。自分の意思で簡単に変えられない属性に基づく不合理な区別を言う。決議案にある「職業差別」は被差別部落に結びつけられてきた職業に対する差別などを指し、職業を自由選択した自衛隊員には当てはまらない。
もちろん、自衛隊員に対しても誹謗(ひぼう)中傷は許されない。ただ、今回のエイサーまつり出演を巡り、市民団体が隊員個人を攻撃した形跡はない。
市民側が問うたのは自衛隊という軍事組織が地域のまつりに出演することだ。それなのに、決議案は隊員の人権が抑圧されたかのようにすり替えている。
近年、社会には差別は駄目だという合意がある。それを逆手に取り、差別でないものを差別と呼んで「こっちはどうなんだ」と混ぜっ返すレトリックだ。
「自衛隊批判は許さない」とストレートに封殺するのと違い、聞いた人が信じてしまう可能性がある。対処が必要なマイノリティーの深刻な差別問題も矮小(わいしょう)化、相対化してしまう。差別概念の誤用は、危険だ。(多文化社会論、談)