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第26回毎月短歌 三首連作部門(鈴木ベルキ選)

こんにちは鈴木ベルキです。

第26回毎月短歌の三首連作部門を担当させていただきました。
今回も特に心に残った連作を、特選、準特選、佳作(2作品)で選ばせていただいています!


特選 『開放弦』/軽井める

左手の方が得意なこともある涙を拭いて笑うときとか
あの人が繋いだ右手あの人が繋がなかったままの左手
もう会わない人のことを忘れながら耳を澄ませる開放弦に

■選評
開放弦は、弦楽器で弦を押さえずに音を出すこと。ギターを想像しながら読んだ。ギターは左手で弦を押さえて、音を変える。右手で弦を弾いて音を出す。それぞれの役割があり、音楽を奏でる。
一首目、主体は右利きなのだろうか。普段は器用にこなす右手だが左手でできることもある。例えばで提示された行為がせつない。だが拭くだけではなく笑っている機微が揺れ動く感情を増幅させる。
二首目、あの人と主体の関係性が暗に示される。あの人が左手では繋がなかったことは何かの比喩と捉えた。完全な関係になるまで至らなかったのだろう。主体の一方通行の思いなのかと想像する。繋ぐという動作を通じて気持ちの流れまで表現されている。
三首目、あの人とは離れた。右手と左手で描かれているが、右や左はあなたや自分、ふたつで一つという解釈もできる。左手を使わずに開放弦を鳴らすときどんな生活になるのだろうか。忘れながらも耳を澄ますことでしばらく心に留まっているのだろう。

三首の少しずつ核心に迫っていく展開と、三首目の開放弦の余韻がさみしくも美しく響いている。


準特選 『ただいま』/海

さおりんのこと好きだった さおりんはスナイパーが上手い浪人生
「sanbashi」と言った記憶のあかるさが降った小雨で浮かびあがるね
心臓と心臓の惑星がある うんそう 人が光のすべて

■選評
一首目の唐突に始まる強引さに、一気に引き込まれた。
一首目、さおりん/ろうにんというリズムがまず面白い。内容も好きだったから始まって、理由や具体的な状況ではなく、さおりんの紹介。それもスナイパーが上手いとのこと。ゲームだろうか。さおりんは本名だろうか、ゲームの中でのニックネーム的な感じもする。リアルと虚構かもしれない部分の境界が曖昧な現代を端的に捉えている一首。
二首目、桟橋ではなくsanbashiの表記に、直接の会話でのコミュニケーションではなく、文字を通してのやりとりを感じる。小雨が降ることで記憶がよみがえる。ふたりの共通の体験がそこにあるのだろう。何があったかはわからない。水辺のすっきりとした光景が目に浮かぶ。
三首目、ふたりの距離のことを惑星と捉えている。離れているからこそそれぞれが存在している。それを肯定しながら余韻が広がる。二句目、三句目の句またがりが惑星がつながっているような効果を感じた。

三首の根底にふたりの描かれていない過去を感じることで連作がうまくまとまっているのではないだろうか。リズムや構造も工夫されていて心地良く読むことができた。


佳作 『祝宴』/萎竹

空腹をうずめるために切りひらくケーキの山を分ける宴席
きんいろの液体のどにはじけては囁くように しゅくふく しゅくふく
イッヒビンアイネブルーメ花束を受ける覚悟をいつも持ちたい

■選評
表題と内容から結婚式などのお祝いごとのシーンと読んだ。
一首目、空腹をうずめるのは、その宴席での食事には集中できなかったことがあるのだろうか。背景を想像させられた。
二首目、ひらがなで開いている言葉が心情とリンクしているように思う。シャンパンの立ち昇って弾ける泡のひとつひとつが感じられる。
三首目、私は花であると自分に言い聞かせているのだろうか。下の句の「覚悟」「持ちたい」からは今は持っていないけど、という状況がわかる。この花束は結婚式であればブーケトスのように次に結婚できる言い伝えやもしくは直接的に求婚を受けることを想起させる。その覚悟とは結婚に対しての決意なのだと読み取った。私は花である、花束を受ける覚悟を持ちたい。一見矛盾しているようだが、花が花束を受けるとそこには花がたくさんある状態となる。花で満たして欲しいというさらに奥の感情があるというのは深読みしすぎだろうか。

一、二首目では情景や物に焦点を当てながら、その奥に心情がある。三首目はそこにさらに踏み込み二句切れの力強さとともに主体の気持ちが伝わってくる。祝宴というお祝いごとという舞台でありながら主体に少し影を感じる。そこにリアルな質感があり人間の感情の立体的な部分が浮かび上がってくる点が魅力と感じた。


佳作 『炎症反応』/奈路 侃

両耳が塞がったように聞こえない 深く潜った海 泡 心音
遠くから波と遊んでいる人を見ている 肌が火傷のように
カタル性口内炎の大宇宙どうやら孤独になれないみたい

■選評
病床にいて発熱などの症状と対峙している場面と読んだ。体内に細菌やウイルスが入ると炎症反応を起こし異物を排除しようと働くという。
一首目、中耳炎的な症状だろうか。聴覚の閉塞感があると自分の声が自分の中でこもって聞こえる。水の中にいるようで海や泡の表現は共感がある。またそこに心音も並列されることで、自分の音のみならず、胎内も感じさせる。自分の中に深く深く潜ることで、生まれる前にも回帰する不思議な感覚がある。
二首目、夢を見ているのか昔の記憶だろうか。朦朧とした頭では現実と夢が混ざりあうことがある。波、肌、火傷、と夏を想起するが、発熱時の体温も火傷するくらい熱いと表現することもありその熱さが伝わってくる。
三首目、口内炎を大宇宙と表現した点が秀逸。口の中に無数にできる口内炎に宇宙の銀河や惑星を感じている気持ちはわかる。なんでできちゃうんだろうという発生の起源の謎具合も相まってくる。そこに孤独さはなく、騒がしいのだろうか。口の中の宇宙で何かしら起きている感覚も伝わる。

どの歌もその症状が詩的な世界につながっていて、日常と非日常を行き来する。体の内部と対話するとき、その患部は自分のものでありながら自分ではないところに連れてゆく。そんな感覚を味わえた。


以上です。
読んでいただきありがとうございます。

なんか偉そうな口調で書いてしまった気がしますが、ご容赦ください!!
これからもよろしくお願いします。

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