こころのーと@こども家庭庁、はじめました。
こんにちは。こども家庭庁でアドバイザーをしている、小澤いぶきと山口有紗です。
えっ、アドバイザーがいるの?と驚かれるかもしれませんが、私たちは「こどものこころの専門家」という立場から、こどもたちの心の健康やウェルビーイング、こどもの権利の視点で、職員のみなさんと一緒に考えたり、研究の知見や現場の声を共有したりしています。
実は、こども家庭庁の創設に向けた準備室の頃から、こどもにかかわる政策や発信などにかかわり、100か月の育ちビジョンの策定や、こどもの心の健康に関する調査研究、こどものウェルビーイングに関連するデータ・統計に関する調査などに関わってきました。
そんな私たちが、今回から「こどものこころとウェルビーイング」についてお伝えするミニ連載―「こころのーと」 をはじめることにしました。
この「こころのーと」では、こどもの心の健康やウェルビーイング、そしてそれを支える柱であるこどもの権利のこと。さらに、こどもの心に影響を与えるわたしたちの関わりや、家庭・園や学校・地域・企業・社会全体の文化や制度についても、読者のみなさんと一緒に考えていけたらと願っています。
🍀読んでいてちょっとしんどいなと感じたら🍀
「こころのーと」では、心の健康やウェルビーイング、そしてそれに関わるさまざまなテーマについて、情報を発信していきますが、その中では、傷つきの体験や、つらい環境、人や環境との関係性のことにふれることもあるかもしれません。
読んでいて、ふとしんどくなったり、気持ちがざわざわしたり、もっと誰かに話したいと思ったら、読むのをお休みしたり、ストレッチをしたり、お茶を飲んだり。ご自身が日々されている、少しだけ自分を楽にできる方法を、どうか大切にしてください。そして、もしも顔見知りではない誰かに相談したいなと感じたときのために、相談先も共有しておきます。
お読みくださるみなさんにとってちょうどいいペースで、ご自身のウェルビーイングを大切にしながら、ご一緒できたらうれしいです。
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今回の記事の担当は、山口有紗です。
5歳のこどもと一緒にベランダで草木を育てています。最近、あじさいが咲きはじめて、なんだか嬉しい6月です、と思っていたら、今度は「ベランダで蟻を飼いたい」とこどもが言い出しました。その気持ち、大切にしたいなと思いつつ、どうなることかちょっとハラハラしています(笑)。
さて、今回は「こどものウェルビーイング」についてお伝えします。
こどもの「ウェルビーイング」とは?
こども政策の基本方針を定めた「こども大綱」にも掲げられている「ウェルビーイング」。
この言葉は、なんとなく聞いたことはあっても、改めて考えると少し難しそうにも感じます。
けれど、実は私たちの日常のすぐそばにある感覚です。
みなさんが、毎日の生活の中で、大切にしていることはなんですか。
ほっとする時間は?ワクワクするのは?
だれといると、安心したり元気が出たりしますか。
自分が自分でいてよかった、という感じは?
社会とつながっているなって感じるときは、どんなときですか?
世界がこんな場所であったらという願いや、そのためにやってみたいことは?
ウェルビーイングとは、「well(よい)」+「being(状態であること)」つまり、「よい状態で存在すること」。大切な視点として、次の3つがあります。
1. ウェルビーイングにはさまざまな要素がある
世界保健機構(WHO)は、ウェルビーイングを「健康と同様に、社会的・経済的・環境的な状況によって決定される、個人や社会のよい状態」と定義しています(※1)。
また、この「健康」とは、「病気でない」とか、「弱っていない」ということではなく、「肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態(ウェルビーイング)にあること」だとされています(※2)。
「心の健康」も、ウェルビーイングの土台となる大切な構成要素のひとつです。こころの健康もまた、病気かどうかだけではなく、その人にとって心がちょうどよく満たされている状態のことであり、ウェルビーイングを構成する大事な一要素だととらえることができます。
2.「ちょうどいい状態」は人によってちがう
なにが「よい状態」なのかは、人によって、そして同じ人でも時と場合によって異なります。
ウェルビーイングは、 「完璧によい」というひとつの状態を目指すのではなく、揺らぎながらも、その人にとって「ちょうど心地いい」状態であるという、動きのあるプロセスです。なので、「ちょっと疲れたな」と立ち止まれることもまた、その人の力であり、ウェルビーイングの一部です。
3.ウェルビーイングは個人だけでなく、社会全体のもの
誰かが「よい状態」でいるためには、実は、周囲の人や社会全体のあり方も大きく関わってきます。私たちはみんな、誰かのウェルビーイングをつくる「かけら」とも言えます。
最近では、ウェルビーイングを「自分の生活や関係性をどう感じているか」という主観的な視点でとらえることが重視されがちですが、その「感じ方」もまた、置かれている環境や周囲の関係性に大きく左右されることに注意が必要です。
特にこどもの場合は、発達の段階や日々過ごしている環境によって、その感じ方も大きく変わってきます。
だからこそ、こどもの主観的なウェルビーイングを考えるときには、そのこどもの発達、今置かれている状況や関係性、社会のあり方などにしっかりと目を向けながら、その声や感覚を丁寧にとらえていくことが大切なのです。
こどものウェルビーイングを支える3つの視点
こどものウェルビーイングを考える上で、大切にしたい3つの視点をご紹介します。
1.エコロジカルモデルの視点
エコロジカルモデルは、心理学者ブロンフェンブレンナーによる理論で、こどもを取り巻く「世界」がどのようにこどもの育ちとつながっているかを示したものです。
・こどもの世界(こども自身の年齢、脳や身体の発達の特徴、それらを土台とした行動)
・こどもを取り巻く世界(一緒に暮らしている人や先生、友達などのこどもと直接対面する大人、その相互の関係性、こどもが所属している園や学校などの組織)
・さらに大きな世界(地域社会の環境やつながり、文化や慣習、法律・政策)
これらすべてが影響し合い、こどものウェルビーイングは形づくられます。
例えば、コロナ禍では多くのこどもたちの心の健康が影響を受けたとされています。
新型コロナウイルス感染症の流行という社会環境の大きな変化から、こどもたちは直接的に影響を受けただけではなく、感染対策の政策により地域の居場所が閉じられたり学校が休校になったり、感染者への差別が起きたり、友だちとの遊び方が変わったり、養育者の働き方が変わったり、家庭内での経済状況や心身の健康が変化したり、さらには家庭と地域の関わり方、政策と学校の関わり方の変化など、複雑な相互作用の中での影響を受けているわけです。
地球環境も含めたすべての存在が、こどもたちに直接・間接的に影響を与えていることを意識すると、わたしたち一人ひとりが、こどものウェルビーイングの構成要素の一部でもあることに気がつけるかもしれません。
2.ライフコースの視点
こども時代の体験や環境は、そのときだけでなく、人生全体(ライフコース)にわたって影響を与えるとされています。
近年の研究でも、こどもの頃にどんな体験をし、なにを感じたかが、大人になったときの心身や社会との関係にまでつながることが示されています。だからこそ、いまを生きているこどもたちの「いまこのとき」を大切にすることが、将来に向けてもとても大切なのです。
この視点については、改めて「こころのーと」でさらに詳しくご紹介します。
3.育ちの土台の視点
こどもたちのウェルビーイングな育ちを考えるとき、「自分」と「社会」との関わりがどう育まれるかをとらえていくことが大切です。そのカギになるのが、たとえば、アタッチメント(愛着)、自己調整、そしてエージェンシーといった視点です。
●アタッチメントとは?
アタッチメントとは、つらさや苦しさが誰かとのつながりの中でケアされ、心地よい状態に戻っていく仕組みです。
例えば、赤ちゃんが泣いたときに養育者が気づき、近づいてニーズをくみ取り、応える。
そうしたやりとりが繰り返されることで、こどもは「自分はこの世界にいてもいい存在だ」「しんどいときには助けてもらえる」と信じられるようになります。
アタッチメントは、自分や世界への基本的な見方の雛形をつくるものでもあります。
●アタッチメントと自己調整・社会性の発達
安定したアタッチメントが形成されると、こどもは心身の状態や感情、行動を自己調整しやすくなります。また、「つらい」「うれしい」といった気持ちを鏡のように映してもらう体験を通して、他者の心への理解や社会性の土台が育まれていきます。
●自分や社会に対して主体的に働きかける力へとつながる(エージェンシー)
こうしたプロセスを経て、社会の中で言語非言語の「声」が聴かれ、社会に参加していくことを重ねると、こどもは、「自分には社会に働きかける力・影響を与える力がある」と感じられるようになります。
この感覚が、自らの想いを持って自分や周囲に働きかけていく力(エージェンシー)にもつながっていきます。
こどもたちの状態や育ちを考えるときは、こうした発達の過程や関係性の中で育まれる力を、広く豊かににとらえることが欠かせません。
こどもたちは、いままさに育ちの途上にある「進化し続ける存在」。
その時々の発達や環境に合わせたアプローチをすることが、ウェルビーイングを支える基盤になります。
「こどもの権利」とウェルビーイング
ここまで、ウェルビーイングの意味や構成要素、大切にしたい視点を見てきましたが、その土台にあるのが「こどもの権利」です。
すべてのこどもには、ウェルビーイングでいる権利があるのです。
ここで、みなさんとぜひ共有したいのが、「子どもの権利条約」です。
「子どもの権利条約」は、すべてのこどもがもつ権利と、それを守るための国やおとなの責任を定めた国際条約です。例えば条約には、以下のような権利が定められています。
心身ともに安心して安全に過ごせること
いかなる差別もされないこと
適切な養育を受けられること
情報にアクセスし、意見を表明し、参加できること
学び・遊び・休むことができること
暴力から守られ、傷ついたときにはケアを受けられること
そして、そのこどもにとってもっともよいことを第一に考えること
こうした権利がすべて守られている状態こそが、こどものウェルビーイングが実現されている社会だと言えるでしょう。
世界保健機構(WHO)の定義でも、ウェルビーイングには「生活の質」だけでなく、「主体性を持って世界に働きかける力」も含まれるとされています。
こどもたちは、単に護られる存在ではなく、豊かな力のある存在です。権利の主体であるこどもたちと一緒に、こどもたち一人ひとりのウェルビーイングを大切に考えていけたらと願っています。
こども家庭庁とウェルビーイング
こども家庭庁は、こどものウェルビーイングを「目指す社会」として明確に掲げています。令和5年12月に閣議決定された「こども大綱」では、次のように述べられています。
「こどもまんなか社会」とは、全てのこども・若者が、日本国憲法、こども基本法及びこどもの権利条約の精神にのっとり、生涯にわたる人格形成の基礎を築き、自立した個人としてひとしく健やかに成長することができ、心身の状況、置かれている環境等にかかわらず、ひとしくその権利の擁護が図られ、身体的・精神的・社会的に将来にわたって幸せな状態(ウェルビーイング)で生活を送ることができる社会である。
さらに、その土台となっている、令和5年4月に施行された「こども基本法」には、同法律が、日本国憲法および児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)の精神にのっとることが書かれています。
さらに、こどもにかかわる施策の基本的な6つの方針の最初には
「すべてのこどもは大切にされ、基本的な人権が守られ、差別されないこと」
と書かれており、この方針は「子どもの権利条約」の原則を反映したものとなっています。
こども家庭庁が進める指針づくりや調査・研究などは、基本的に、こうしたこどもの権利に基づいたウェルビーイングの実現を目指すものです。
今後の「こころのーと」では、こども家庭庁が行っている政策や調査が、こどものウェルビーイングやその基盤となるこどもの権利とどうつながっているのかを、実際に現場で関わっている人との対話なども交えながら、ご紹介していきます。
【この連載を書いた人】
山口有紗
小児科専門医・子どものこころ専門医、公衆衛生学修士、子どもの虐待防止センター医師、国立国際医療研究センター共同研究員、こども家庭庁アドバイザー。
高校中退後、イギリスでの単身生活や国際関係学部での学びを経て医師となる。現在は子どもの虐待防止センターに所属し、地域の児童相談所などで相談業務に従事。国立成育医療研究センター共同研究員、こども家庭庁アドバイザー。近著は「子どものウェルビーイングとひびきあう――権利、声、「象徴」としての子ども」(明石書店)、「きょうの診察室: 子どもたちが教えてくれたこと」(南山堂)。
小澤いぶき
児童精神科医/精神科専門医、京都大学研究員、こども家庭庁アドバイザー、NPO法人PIECESファウンダー、一般社団法人Everybeing 共同代表。
児童相談所、病院等での子どもの診療、心のケアを行いながら、シリアやイラクなどの紛争地域、日本のさまざまな地域で子どもと共に、子どものトラウマケアや集合的•歴史的トラウマのケアと回復に携わる。現在は、日本と中東で、子どもたちの主体と声を大切に、子どもの権利の保障及び子どもの権利に根差した子どものメンタルヘルスとウェルビーイングの実践と研究を行う。2017年に、ザルツブルグのグローバルセミナーにて、子どものウェルビーイングのステートメントに関わる。
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【参考URL】
※1
World Health Organization. Promoting well-being.
https://www.who.int/activities/promoting-well-being
※2
World Health Organization. Constitution. https://www.who.int/about/governance/constitution
こども家庭庁
はじめの100か月の育ちビジョン|こども家庭庁
こども大綱|こども家庭庁
こども基本法|こども家庭庁
こども家庭庁 相談窓口




