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兵庫“メディアの敗北”の真相㉝実は記者たちは元局長の「私的情報」を見ていた…報じない理由とは

1年以上にわたって兵庫県に混乱と分断をもたらしている“文書問題”。「メディアの敗北」とまで言われる事態はなぜ起きたのか。当時、NHK神戸放送局で報道の責任者を務めてきた小林和樹氏が、「表の報道」からだけではうかがうことができない、メディアの内幕や兵庫県の動きの全てを記録に残します。

長期連載「兵庫“メディアの敗北”の真相」、今回は元県民局長の「私的情報」を知っていたメディアが、なぜ報道しなかったのかを検証します。

「私的情報」は報道に値しないと判断。その理由は

兵庫県知事選挙の際に、「国民の知る権利に応えろ」と言われながらも、新聞やテレビが報じなかったのが元県民局長の「私的情報」の内容だ。

候補者だった立花孝志氏が、県職員から入手したというファイルなどを示し「新聞・テレビは事実を隠している。斎藤知事は悪くない」という主張を、候補者という立場を利用して政見放送や街頭宣伝、そしてSNSで広げた。その主張の中には、事実ではない情報も含まれていたが、新聞・テレビは沈黙し、触れることはなかった。

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イメージ(Adobe Stock)

選挙後、報道機関に取材すると、事実でないことを否定する報道はすべきだったと言うが、私的情報の中身については、報じることはないと口をそろえる。なぜ新聞やテレビは、非難されても「私的情報」を報じないのか。

その理由は、一つには「事実かどうか確認できない」こと、そして「情報に公益性がない」ということだ。

立花氏は、記者などとのやり取りをネット動画で発信し「私的情報の中身を見たんですか?見てなければ事実かどうかわからないじゃないですか」と問うていた。

しかし報道機関は、内容を知らないまま「事実かわからない」「公益性がない」と言っているわけではない。実際には、多くの報道機関が「私的情報」の中身がどのようなものか、選挙の数カ月前には知っていた。

報道機関は「私的情報」の中身を知っていた

さらに、あえて明らかにするが、紙に刷りだされた「私的情報」を元県民局長が亡くなる以前に見ていた記者が、複数の報道機関で何人もいることが、この連載の取材で判明した。

取材活動として見ているから、誰から見せられたかなどの詳細は、取材源の秘匿の原則に照らして明らかにできない。しかし、一定の詳細な内容を複数の報道機関が把握していた。

それでも報じないのは、内容が事実として確認できたとしても、告発文書の内容とは全く関係がなく、公共性もないからだ。それでも敢えて使おうという人物がいるとすれば、内部告発には定番の「告発者の人格を貶めることによって、告発を封じる」という意図に他ならないだろう。

それが〝既存メディア〟の勝手な言い分ではないことは、違う立場で文書を見た複数の人たちの言葉からもわかる。情報漏えいに関わる第三者委員会の委員として調査にあたった中村真弁護士は、2025年5月の報告書公表の際の会見で、記者から「知事選の中で、(私的情報は)県民の知るべき情報だという人もいたが?」と問われて、こう答えている。

「内容は言えないが、極めてプライベートなものです。委員は、県が持っているものであるが中身は見ました。開示されることで、県政に対して何か影響があるものではなく、一方で、特定の個人に深刻なダメージをあたえるものです」

組織としての兵庫県も「根回しであっても個人情報を伝えるべきではなく行動を正当化できるものではない」として元総務部長を懲戒処分の対象とし、2025年3月に元県民局長の「私的情報」を非公開情報と決定した。司法と行政、報道は、当然ながら別々の判断基準を持っているが、今回は、県政という公益に関わる情報ではないという、同じ判断をしている。「知る権利」とは全く次元の違う問題だ。

「自分のプライバシーが理由なくさらされる世界に住みたいのか」

報道におけるプライバシーの侵害については、「他人に知られたくない私生活上の事柄をみだりに公表されない利益を犯す行為」として、真実であっても不法行為が成立する場合があり、名誉棄損よりも厳しい条件が課されているとされる(「取材と報道」日本新聞協会)。

私的情報の内容を知っていたという新聞社の幹部は「私的情報は、公益に適う時、何かしら社会に価値を還元できる場合にだけ、報道が許されると考えています。そうでない場合に、関係のないプライバシーを次々に暴くことは報道の役目とは言えないし、世の中の多くの人も、それを望んでいるとは思えない。立花氏を支持した人たちには、自分自身のプライバシーが理由もなく晒される世界に住みたいのですか?と問いたい」と話す。

私の意見も、これと同じだ。テレビで言えば、ニュースといえどもプライバシーを侵害したとして適切でないとされた事例が、BPO(放送倫理・番組向上機構)放送人権委員会の「判断ガイド(放送人権委員会 判断ガイド 2024)」の中にいくつも掲載されている。新聞やテレビは、過去に何度も失敗をし、その中で報道とプライバシーの距離感を定め、同じ失敗を繰り返さないよう努めている。そこに照らしても、元県民局長の私的情報は、報道に値しない、してはならない情報だった。

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報道関係者にとっての「後悔」とは

ただ一つ、2024年の兵庫県知事選に関わった報道の関係者たちが、口をそろえて悔やんでいるのは、選挙期間中に事実でない言説が流されたのを放置したことだ。詳しくは別稿で書くが、SNSの扱いが定まっていなかったことや、選挙の公平性に捉われたというのが理由だった。

ある在阪民放の報道の幹部は「当時、フェイクを正す行為は、立花氏潰しにしかならなかったので立候補者の公平性が保たれるのかという不安があった。一方で、やればやるほど注目が集まり、立花氏のプラスになるのではないか、既存マスコミが潰しにかかっているという風にみられるのではないかということも考えた」という。

こうした報道機関の姿勢の中で、元県民局長への人格攻撃が放置され、事実に基づかない言説が広がったことについて後悔してもしきれないという報道関係者は多い。

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なぜ「もう一つの情報漏えい」について報じなかったのか

最後にもう一点、なぜ元県民局長の私的情報が漏えいされている=地方公務員法に違反している疑いがあることについて報じなかったのかという点について述べたい。

この問題について、最初に報じたのは週刊文春だった。2024年7月25日号(17日発行)で、「兵庫県知事 パワハラ告発 元局長を自死に追い込んだ「7人の脅迫者」というタイトルで3ページにわたる記事を掲載した。内容は以下の3点に要約できる。(肩書はいずれも記事のまま)

  • 4月頃、総務部長が文書を県職員や県議らに見せて回っていた

  • 県職員の1人は、産業労働部長から文書の中身について聞かされたと証言している

  • 6月ごろから、維新会派の県議たちの間にも私的文書が流出したようだ

記事では名前の挙がった関係者に話を聞いているが、いずれも否定するか取材に応じていない。

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週刊文春2024年7月25日号より

一方、新聞やテレビがニュースの中で情報漏えいについて触れた記事は、文春より1カ月以上あとの8月下旬に初めて掲載された。

その一つ、8月29日の読売新聞は「パソコン内には告発とは関係のない男性職員の私的な情報があり、7月中旬に週刊誌が、4人(の幹部:筆者注)が県職員や県議への漏えいに関与した可能性があると報道していた。/斎藤知事は29日、県庁で記者団に、人事当局が調査の必要があると判断し、弁護士に相談していると説明。『報道が出ているのであれば、何らかの対応が必要だということで(調査を)検討している』と述べた。自身も4人に事実関係を確認し、否定されたという」などとして、文春をきっかけに調査の検討が始まったことを伝えている。

その後、新聞やテレビは、百条委員会での元総務部長や県議の証言、それに第三者委員会の動きなどについて、それぞれのタイミングで報じている。

「取材」と「情報漏えい」の境界

しかし、自社の記者に情報が漏らされていたことを記事にした報道機関はない。また、第三者委員会の調査に、記者に情報漏えいがあったと申し出た報道機関もない。報道機関は、地方公務員法違反の疑いのある事実を自ら見逃したのだろうか。これについて私的情報の内容を把握していたある新聞社の報道幹部は、次のように話す。

「記者、報道機関というのは、突き詰めていけば守秘義務違反に問われかねない作業をしているんです。特に公務員に取材して隠されていた事実を書くという作業は、その事実を明かしてくれた取材源が地方公務員法違反などに問われる恐れだってある。
記者に対して情報漏えいしたという行為は、記者から見れば取材活動で情報を取る行為でもあるわけで、それをことさら地方公務員法違反だと指摘する行為は、とてもできない。
また、取材源の秘匿、取材源を守るという意味でも声をあげることはできない。それをすると、わが社の記者は以後、あらゆる場面で情報を取ることができなくなる」

記者が公務員に秘密情報の提供を働きかけることは、それが真に取材を目的としていて、社会観念上、是認されるものであれば「正当な業務行為」と認められる。1978年に最高裁で判例が確立していて、公務員が記者の良識的で根気強い要請に応じて情報提供することは、直ちに違法行為となるものではない。そして取材源を秘して守ることも、報道倫理上、最高に重要なこととされている。

一方で、今回起きていた情報漏えいの実態は、3人の県議に対する元総務部長の情報漏えいだけとした第三者委員会の結論とは異なり、事実とはかけ離れている疑いがある。それに対して、報道機関は知っていて何もしなくていいのかという批判にさらされてもおかしくはない。

1985年に起きた豊田商事会長刺殺事件では、取材中のマスコミの目の前で、犯人が会長宅に不法侵入し殺害した。多くの記者やカメラマンがその場にいたのに、ただ記録するにとどまったことに批判が巻き起こった。それを受け、取材中でも殺人などの明らかな犯罪を覚知すれば、警察への通報などが必須とされている。

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しかし、こと情報漏えいについては、報道機関は口をつぐむ。ジャーナリストの中には「もう匿名で情報を取る時代ではなく、公の場で追及して、発言は実名で書いていく時代なのではないか」という意見を言う人もいる。その手法であれば、もしかしたら「10聞いたうちの1つを書く」のではなく、10すべてを書くこともでき、「既存メディアは事実を隠している」という批判も少なくなるのかもしれない。

一方で、私は、この原稿のほとんどを匿名で書いている。実名で取材を受けるという人もいるが、匿名でなら話すという人も少なくなく、その人でしか知りえない情報を持っている場合もある。とりわけ内部告発などのケースでは、匿名が絶対条件となる場合がほとんどだ。

「伝える情報を選別する」「取材先を匿名にする」それを精緻な取材の結果から、そして良心から行ったとしても、兵庫県の混乱をめぐる一連の報道ではそのことが理解されず、事実を伝えきれなかったという結果だけが厳然として残った。いま振り返れば、私的情報の内容には配慮しながら、どうして報じないのか、そして漏えいがあったことも伝える方法もあったのではないか。

自分自身を振り返り、それまでの「常識」にとらわれていたことが最大の失敗だったのではないかと、いまは考えている。

(つづく)

※前回までの記事はこちらから👇

小林和樹(こばやし・かずき)

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1992年NHK入局。報道局社会部で警視庁など担当。兵庫県警キャップ、大阪府警キャップ、ニュース番組の編集長を歴任。NHKスペシャル「ヤクザマネー」「未解決事件File.06 赤報隊事件」など番組も多数制作。番組の取材・制作統括として坂田記念ジャーナリズム賞を3度受賞。著書に『逸脱する病院ビジネス』『生活保護3兆円の衝撃』『公益法人 改革の深い闇』(いずれも代表執筆者)。2025年よりフリーのジャーナリストとして活動。

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兵庫“メディアの敗北”の真相

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コメント

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嵐の夜に

この問題は感情論でなく客観的に時系列で証拠をもとに論じられるべきもの。メディアはまとめて「私的情報」と扱ったが県民の真に知りたかったことは倫理的問題のある多くの部分ではなく、不正目的の証拠の可能性のある部分。実際に送られた誹謗中傷の投書の下書きの存在、W氏がまめに知事就任直後から…

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lumi123

公用PCには私的情報だけではない政治・行政的なメモ書きと思しきものも多々含まれていて,選挙戦のときからすでにその存在は噂になっていました.いわゆる不倫については明らかにする必要はないと思いますが,県政に関わる情報の存在については報道する必要があります.その点を分けて対応できなかった…

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