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J/53  作者: 池金啓太
五話「五月半ばの家族の一日」
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斬り裂き魔と剣の出会い

雪奈がオルビアに出会ったのは静希が旅行から帰ってすぐのこと


時間は遡り帰国当日


静希がつかれた体を引きずって家に帰って荷物を置きトランプの中の同居人を全て部屋に出してから数秒後、呼び鈴が鳴り響き静希は嫌気がさしながら扉を開けると掌を差し出して目を輝かせている雪奈がそこにいた


静希が帰ってきた音を聞きつけてすぐに部屋からやってきたのだろう


「一応聞いておいてやる、その手はなんだ?」


「お土産!」


お帰りの言葉でもなく楽しかった?などの感想を求める言葉でもなく土産物の要求


静希は無言で扉を閉めようとするが雪奈の反応速度にはかなわなかった


扉と壁に手と身体を強引に入れて閉めさせまいとする


「ま、待つんだ静!お姉ちゃんだよ!静の大好きな雪奈お姉ちゃんだよ!決して押し売りでも何でもないんだよ!だから入れておくれ!そして私にお土産を!」


「厚かましいとはこのことを言うんだろうな雪姉、帰ってきて一言目が『お土産』ってどうなんだ?弟分として悲しいぜ」


ギリギリと扉に力を込める、まるでいつかの再現のようだと思いながら力を込めていると奥からいつかとは違う人物が現れる


「マスター、来客ですか?」


「客とは言えないな・・・というかある意味客なんて性質のいいものじゃない」


新しい居候が不慣れながらも部屋を確認中どうやら異変を感じ取ったらしい、近くにやってきて鎧姿のまま会話を続けていると


「・・・誰?」


現状についていけない雪奈は目を丸くしながらオルビアを見てそして静希を見る


全力を込めていたはずの扉は雪奈の力によって軽く押し返され容易に侵入を許してしまう


「静!この子はいったい誰!?あんた明ちゃんというものがありながらこんな金髪美人にうつつを抜かすなんてお姉ちゃん許しませんよ!」


「いや待て雪姉これには訳が」


「訳なんて知らないよ!どんな訳があればこんな美人を家に連れ込むって言うのさ!お姉ちゃんはそんなふうに静を育てた覚えはありません!」


育てられた覚えもねえよと言いたいのだがもはや何を言うにも聞く耳持たず、首を絞められながら上下左右に振り回されていると殺気とともに雪奈の首筋に白銀の刃が添えられる


「貴女が何者かは知りませんが、マスターに危害を加えるのであれば容赦なく切り捨てます、その手を離しなさい」


「お、おい待てオルビア、この人は」


「へぇ、それを私に向ける意味がわかってやってるの?」


殺意と刃を向けられたことで雪奈のスイッチも入ってしまったようで先ほどとは打って変わった鋭い眼光でオルビアを睨む


まずい、非常にまずい


このままでは玄関先が戦場になる


何とかしなければいけないのに身体が動かない


一流の殺気に挟まれると身体がすくむものなのだなと実体験から学んだ静希、経験がまた増えたと楽観視している場合ではない


「オルビア!剣を収めろ!雪姉も喧嘩腰になるな!」


雪奈とオルビアは数秒にらみ合った後、オルビアが剣を引き鞘に納める


静希が安堵の息をつく、何で旅行から帰ってきたばかりでこんな精神的疲労を受けなくてはならないのか


「雪姉、まずは紹介する、俺が旅行先で見つけた霊装オルビアだ、今日からここに住む、メフィや邪薙と似たようなものだと考えればいい、オルビア、この人は深山雪奈、俺の姉貴分で幼馴染だ、危険人物ではあるが敵じゃない」


紹介を終えても両者は睨み合ったままである


どうにかこの状況を打開したいがどうすればいいものか


「ちょっとシズキ?お土産どこに入ってるの?・・・って何やってんのよ?」


「おぉメフィ!ちょうどいいところに!」


やってきたのは荷物を持ってふわふわと浮遊しているメフィだ


どうやら荷物の中から土産物を出そうとしていたようだがどこに入っているのかを探すのすら億劫だったらしい


「あぁそうだ、雪姉の土産」


「なんだ、ちょうどいいのがあるじゃないか」


「え?」


雪奈はメフィの持つ荷物の中から目ざとくそれを見つける


それは旅行先で見つけたことにされあてがわれた西洋剣


荷物の中からそれを引き抜きオルビアに向ける


「ちょっ!雪姉何やってんだよ!こいつは別に敵とかじゃ」


「わかってるよ静、この子どちらかと言えば私よりだ、強い剣士だ、いや騎士かな?どちらにせよだよ」


「何言ってんだ、剣をしまえ!」


「断るよ、メフィはあんなんだけど静を信頼してる、わんちゃん神様は静希を守ると誓ったし私もその人柄を見てる、けどこの子は違う、静と一緒にいるって言うなら私に断りを入れてくれなきゃ」


「・・・何故貴女に断りを入れる必要があるのかわかりかねます、私はマスターの剣だ、マスターの所有物だ、貴女の許可が必要な謂われはない」


「いやあるね、剣だって言うならなおさら、私は静の姉貴分だ、弟分が持ってる剣がどれほどか、信頼に値するか見る義務がある」


「あっちゃー・・・もしかして私タイミング最悪だった?」


「いやタイミングはよかったんだけど・・・ちょっと面倒だから居間に戻っててくれ」


メフィはやっちまったなといった顔をして了解と敬礼しながら荷物を持ってリビングに退避していく


静希は理解していた


雪奈の口上は半分は建前、雪奈の目はまるで獣のように鋭くなっている


戦闘において、いや剣術に置いて右に出る者はいない雪奈の嗅覚が、静希の近くに現れた剣を名乗る女性から何かを嗅ぎ取った


それは研鑽された武の証


たった一瞬自分に向けられた殺気と刃の切先だけで雪奈はそれを感じ取り理解した


先の建前とて半分は本音だろう


本当に静希の隣にいるのにふさわしいか


悪魔と神の時は実際に静希が判断したその様を雪奈は傍で見ていた


だが今回は雪奈は見ていない


だから判断する


だからこそ刃を向ける


この剣を名乗る女性が静希の隣にいるにふさわしい刃かどうか


そしてこういった気持もあるのだろう


自分が見ていない間に幼馴染が美人を連れてきた


昔から静希を見ていた彼女からすれば面白くないだろう


半分は戦士として、半分は姉貴分として、そしてその中にどれほどかの割合で含まれた女としての嫉妬、それがオルビアに剣を向ける理由となっていた


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