休日の風景
喜吉学園の一年生が交流目的のイギリス旅行から帰ってきて十日程経った頃、静希の住む部屋にまた新しい同居人ができ、新しい生活にも慣れ始めたころのとある休日
その新しい同居人オルビアは憤慨していた
腕を組み眉間にしわを寄せソファに腰掛ける悪魔メフィストフェレスと神格邪薙原山尊に怒りを向けている
「ねえオルビア、私達にそんなことを言っても仕方ないでしょ、私はあくまで対等な契約者、貴女のように正規の従者ではないのよ?」
「まったくだ、私とてシズキを守る誓いはしたが忠誠を誓ったわけではないのだぞ?」
「だとしても、その態度はさすがに目にあまります、マスターの言葉もあり少しは看過していましたがさすがに見過ごせません」
五十嵐家の人外三人が何やらいい争いをしているのを完全に無視して静希は機器を動かして気体の作成に没頭している
突然何を理由に言い争っているかと思えば始まりはオルビアの生活からだ
『この家にいる間は好きに動いてくれて構わない』
そのようにオルビアに言ったところオルビアの生活たるや熟練の家政婦を思わせるほどの働きっぷりを見せていた
オルビアは静希が目を覚ます少し前に部屋の空気を入れ替え軽く掃除をし、洗濯や家事のほとんどをやってしまう
使い方すら知らなかった機械類も一度指導すれば即座に使い方を理解し簡単に操って見せる
しかもオルビアの学習能力は異様に高く、機械を操るためにある程度の日本語と漢字をあっという間に習得してしまったのだ
発音もほぼ完璧で未だカタカナ発音のメフィと邪薙を差し置いて各人物の名前をしっかり発音できる唯一の人外である
なんにせよ静希からすればとてもありがたいことだ、今まで自分がやっていた家事をやってくれるのだから
だがオルビアが気にしたのはそんな中まったく動かない二人の人外の態度
『何故貴方達は居候の身でありながら全く働かないのですか?』
事の発端はその一言だった
オルビア曰く
『マスターの家に置いて頂いているのですから家事をこなすのは当然のことです』
とのことなのだが、それを聞きながらもメフィや邪薙はまったくとして動こうとはしなかった
「特にメフィストフェレス、貴女は酷い、マスターに絡むだけ絡んで我がままを押しつけておきながら一体この家で何をしているというのですか?」
「なによ、私だけ悪者扱い?邪薙はどうなのよこの犬っころは」
「喧嘩を売っているのかメフィストフェレス?私は悪魔には容赦しないぞ?」
「上等よやってみなさいよ犬」
旅行にこの二人を連れて行ったのはある意味正解だったかもしれない
静希がちょっと口を挟まないだけで殺意と殺意がぶつかっている、下手すればこのマンションごと消滅しそうだ
「話をそらさないでください、邪薙はよいのです、彼はこの部屋に結界を施し防護している、信仰の少ない神にも関わらずその技巧は非凡であると言えます」
その評価に邪薙は得意げに鼻を鳴らすがメフィはおもしろくなさそうだ
「ですがメフィストフェレス、私はこの家に来てから貴女が何かしたところを見たことがありません、一体あなたはこの家で何をしているのですか?」
「何って・・・私はシズキの契約者よ?シズキが望むのならある程度のことはしてあげるわ」
「私はマスターが貴女に何かお願いしたところさえ見たことがありませんが」
「わ、私は非常時に輝くんですぅ!平穏は私には似合わないのよ!」
「ほう?なら貴女は日常においては役立たずだと、そうおっしゃるのですか?」
「う・・・!わ、私は何か代価を貰わないと願いはかなえないの!対等契約はそういうものなんだから」
「ならなおさら、この家に御厄介になっているのですからマスターに奉仕するのは当然ではないのですか?貴女はどのようにしてマスターに貢献しているのですか?」
正論だ、ぐぅの音も出ない程の正論だ
「うぅ・・・・シズキ~!オルビアがいじめる~!」
たまらなくなったのか半泣きになりながらメフィは静希に救いを求めて飛んでくる
「いやいやなんとも、正論は聞いていて気持ちがいいな」
「なによう!シズキまでオルビアの肩もつの!?」
「あぁもうわかったからそれくらいで泣くなよ、オルビアもその辺にしてやってくれ、こいつの機嫌損なうと後で面倒なんだ」
静希に頭を撫でられながらメフィはオルビアに舌を出してわずかながらの反撃を行う
その様子を見てオルビアはため息をつく
「だけどお前の意見は正しいんだ、これからもどんどん言っていいぞ」
「なにそれ!?私に働けというの!?」
「その通りだこのニート悪魔、言われたくなければテレビばっか見てないでなんかしなさい」
「かしこまりました、それではどんどんメフィストフェレスに対して指導していくことにしましょう」
「くぅ、新人のくせに生意気よオルビア!先輩をもっと敬いなさい!」
「貴女はマスターをもっと敬いなさい、この家の家長なのですから」
どうやらメフィとオルビアは徹底的に相性が悪いようだ
メフィの生き方に対してオルビアは正論と理屈でねじ伏せようとしている
しかもオルビアの言い分は確実に正しい
それがメフィ自身理解できるからこそ静希に泣きつくのだろう
背後で口論をしている中静希は思った
ようやく自分の代わりに正論を言ってくれる人が家に来た
と、しみじみと
自分の周りにやたらとめちゃくちゃな奴が多いものだから非常に肩身が狭かったが、こうして自分の味方ができるというのは非常にありがたく、嬉しいものだった
改めてオルビアを連れてきてよかったなぁと思う
インターフォンの音がして静希はいったん機器を見るのを止め来客に備える
「邪薙、誰だ?」
「メイリとユキナだ」
「了解」
さっさと実験器具を片付けるとオルビアがてきぱきと片づけを手伝い静希が玄関先まで向かう
邪薙の予告を裏切らず扉の前にいたのは幹原明利と深山雪奈だった
「やっほ静、暇なんで遊びに来たよ」
「べ、別の用事もあるんだけど・・・ごめんねこんな早くに」
悪びれない雪奈と申し訳なさそうにしている明利
こうして対比すると人柄がよくわかる
「二人がセットでいるのは珍しいな、まぁあがれよ」
「おっじゃまっしまーす!」
「おじゃまします」
靴を脱いで早々に家の中に入る雪奈と靴をそろえてオルビアの用意した来客用のスリッパを履いて中に入る明利
やはり人柄が出るなぁと何度かうなずく
「雪奈様、おはようございます」
「お、オルビアちゃんその服よく似合ってるよ、うんうん、我ながら良いセンスだ」
「ありがとうございます」
リビングに着いた雪奈はさっそく新しい居候のオルビアに絡んでいる
最初にあった時あれほど敵意をぶつけていたのによくもあそこまで仲良くなったものだ
今回から五話開始
なおこの五話に限り試験的に一日二話投稿を実施しようかと考えています
これから更新していく上でのちょっとした判断材料になればと
これからも楽しんでいただければ幸いです