帰還
全員が起床すると嵐が去っていることに驚きながらもようやく帰ることができることと、能力が使えるようになっていることに喜び、出発する準備をしていた
準備を終えるころにはあたりはすっかり晴れ、夜空には月まで見える始末、先ほどまでの大雨が嘘のようだ
「さっさと移動しよう、また降ってこないとも限らないからね」
「そうしよう、明利、ナビよろしく」
「了解」
ここに来るまでにマーキングしておいた草木をたどりながら静希達は元来た道を戻って船を目指していく
「これで船が流されてたら笑えるんだけどな」
「笑えねえよ、そうなったら鏡花のお仕事が増えるぞ、船作って、エンジンも欲しいな」
「ふざけないで、構造理解もしてないのよエンジンなんて作れないし仮に作れても燃料がないじゃない」
「燃えるだけなら陽太君じゃダメかな」
「おぉなるほど、ヨータエンジンってやつだね、楽ちんじゃないか、希望が見えてきたね」
「マーカスもふざけないの、あれが流されたら損失どれだけだと思ってるのよ、シャレじゃすまないわ」
「あれくらいの船だと一体いくらくらいだろうね、弁償とかできるのかな」
「マイナス方向に考えるのはやめましょ、流されてないことだってあるんだから」
全員でマイナス方向に考えかける中ローラの言葉で少しずつプラスへと修正されていく
船に戻るころには十時を回り、徐々に深夜へと移ろうとしていた
「よかった、流されてなかったな」
「とりあえず陽太と鏡花はロープと固定を解除して船を動かせるようにしておいてくれ、俺らはさっさと乗り込んでるから」
「なによ最後まで仕事させる気?ちょっとは手伝いなさいよ」
「割れたガラス片を集めるって仕事もあるんだよ、あれも直しておいた方がいいんだから」
先刻の嵐で割れたガラスは放っておいたら誰かが怪我しかねない
明利やハワード達とともに船に乗り準備を進めていく
「終わったわよ」
「おぉさすがに早いな」
「能力が戻ればざっとこんなもんよ、どいて、窓も直しちゃうから」
集めて置いたガラス片に能力を発動し窓を何事もなかったかのように新品同様に修復する
「若干薄くなってるところもあるけど問題ないでしょ、いつ出せるの?」
「いつでも出せるわ、この気色悪い島ともおさらばね」
シェリーがエンジンをかけ少しずつ船が動き出す
『オルビア、最後に島を見ておかなくていいのか?』
ずっとこの島に留まっていたオルビアにとって、この島は何かしら思い入れがあるかと思った、故に気を利かせたのだが
『いえ、その必要はありません、すでに別れは済ませましたから』
『・・・そうか』
徐々に島が離れていく中喜びに周囲が浮かれる中静希ははっきりと聞いていた
『さよなら・・・ソフィア』
自らを支えた副官としてか、それとも最後まで自分とともにいた友人としてか
いやそのどちらもだろう
オルビアは祈るような声で別れを告げ、それ以上言葉を続けることはなかった
暗く深い海、昼間は美しく見えるのに今は少しだけ恐ろしく見えた
まるでどこまでも続く闇のよう、煌々と輝く月の光も海の影にのまれあっという間に消されてしまいそうだった
「なんかあれだな、初めて海に来たかと思えば、災難だったな」
「本当にな、もうこりごりだ」
甲板に出て座り込む静希と陽太は操舵室に背を預けて空と海と陸の見える眼前の風景を目に収めていた
肉体的にではなく精神的に疲れていた
今までは能力に守られ自由に行動できていた
能力があるのが当たり前で、野生動物が出てきたって何の問題もなく撃退できた
だが先ほどの島で静希と陽太は、いや鏡花と明利も、命の危機にさらされ続ける恐怖を味わった
緊張の連続で周囲への警戒を怠れない、失敗=死に直結するかもしれないという根源的な恐怖
「あれが無能力者の気持ちってやつかね」
「普通の人は危険な場所にはいかねえよ、もし行くやつがいたらそいつは大馬鹿野郎だ」
「違いない」
お互いに疲れを隠さずに大きくため息をついた
船に揺られてどれほど時間がたっただろうか、陸が近付き、港が見えてくる
エディンバラの街はまだ光がともっているところもある、川を上り船の止めてあった桟橋までたどり着くと、ようやく自分たちが生還したのだと実感できた
「あー・・・まぁその、トラブルもあったけど、今日のエディンバラ観光、楽しんでいただけたかな?」
まとめるように告げるハワードに全員が呆れながら苦笑する
「あぁ、最高だったよ」
皮肉に満ちた言葉をぶつけて静希達はその場を後にする
鏡花の携帯に城島から電話がかかって来て静希達に雷が落とされるまで、後七分