永遠に解けない仮説
「どうなってんだこりゃ・・・あんなに雨降ってたのに・・・」
突然の快晴に混乱していると皆が寝ているのをいいことにメフィが勝手に外に出てくる
屍の近くで打ちひしがれているオルビアをよそにその死体を細かく調べているようだった
「おいメフィ、勝手に出てくるなって」
「なによ、この不思議現象、知りたくないの?」
どうやらメフィはすでにこの現象の理由がわかったようだった
「どういうことだよ、何が起こったんだ?」
「簡単な話よ、この嵐も、異常な魔素の少なさも、全部この物言わぬ死体の仕業だったってこと」
「は?」
死体が何かをするわけがない、いやそもそもできるはずがない
だがメフィはそれを確信しているようだった
「ねえオルビア、この子、ソフィアの能力ってなんだったかわかる?」
「・・・それは・・・幻を見せることです、彼女のおかげで何度救われたことか」
幻、幻覚を見せる能力
それが知覚に作用するものか、それとも光をベースにしたものかは分からないがメフィは仮説を立てていく
「この子はきっと、追手から逃れるためにこの島全体に幻をかけて周囲から見えないようにしたのね、でも一人が使う魔素じゃあ足りない、そこでこの島で発生する全ての魔素を使用しての大魔術、ならぬ大能力を発動した、それだけだったら今の今まで能力が発動するはずはないけど」
そこでメフィはオルビアに目を向ける
この時代まで能力を保持し続ける能力者、オルビアがその常識を覆した
「貴女がかけた、意志と思いを残す能力が意志だけでなく、能力までも保存してしまった、そのせいで大能力は発動され続け、この島は魔素が極端に低いままその姿を隠匿させ続け、誰も訪れずに数百年眠ったままだった・・・」
「じゃあさっきまでの嵐は」
「今まで異常だった魔素の流れのせいで生まれた嵐、でも島を隠匿しているせいで誰も嵐に気付けない、そして今、保存の役割を終えたことで保存されていた意志とともに魔素を大量消費していた能力も消失、魔素の流れも正常に戻り、嵐が消失した・・・そんな感じじゃない?」
「でも、そんな量の魔素を使ったら、身体が持たないんじゃ・・・」
大量の魔素を取り入れれば異形となって死に絶える
以前城島から聞いた実験の顛末だ
仮に大量の魔素を取り入れ能力を強化できてもその肉体が魔素に耐えられず急速に姿を変える、そして生き物はその急速な変化に耐えられず死にいたる
だがこの死体は先ほどまで人の姿を保っていた
「保存の力のせいで、無理やりに人の形が保たれていたんじゃない?保存が効かなくなったから、異形になろうとするもすでに物質になってしまっているから変形ができず、砕けてしまった・・・」
ま、真実は分からないけどねとお茶らけながらメフィは静希に抱きつく
魔素の大量消費、身体ではなく別の部位に魔素を集めて能力を発動する手法、物語などで魔法陣などとして取り扱われているものがあるがそれと近しいものだろうか
どちらにせよ彼女が行った行動は自殺行為に等しい
それほどまでのことをしてオルビアを守ろうとしたのだろう
「約束破って御免なさいね、今の情報料ってことにしておいて」
「お前何しに出てきたんだよ」
「私だって気になってたのよ?魔素が多いならともかく、こんなに魔素が少ないのって珍しいんだもん」
気まぐれな悪魔を抑えることはやはり不可能だなと呆れながら静希は大きくため息をつく
だがこの状況の理解はできた
静希はソフィアの能力の反作用によりこの地に来ることとなり、そしてオルビアと出会った
そう考えれば彼女が静希をこの地に導いたとも言える
それが正しい真実かどうかは分からない
あくまで仮説だ
だが妙な信憑性があった
「どちらにせよだ、皆を起こすから入っててくれ」
はいはいと笑いながらメフィは静希のトランプの中に収納されていく
オルビアはその場に留まっている
なんと声をかけたものか、静希も言葉をかけにくかった
「ソフィア、私は生きるよ、貴女の声、確かに聞いた」
小さく呟いてオルビアは立ち上がる
「申し訳ありませんマスター、お時間を取らせて」
「いや、構わないけど・・・もういいのか?」
オルビアは腰を落とし、自らの本体である剣を水平に静希に向けて掲げる
「別れは済ませました、この剣は、貴方の為に」
「・・・そうか」
オルビアから剣を受け取ると、その体は光となって剣の中に消えていく
トランプの中にオルビアを収納し粉々になった亡骸を前に静希は一度手を合わせて全員を起こしにかかる
誤字報告いただいたのでお詫びとして複数投稿
もう誤字を報告されるまでもなく一日二回投稿にしようと本気で悩んでいます
これからもお楽しみいただければ幸いです