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J/53  作者: 池金啓太
四話「異国の置き去りの時間」
157/1032

忠臣

静希達の生まれる何百年も前、未来でイギリスと呼ばれることとなる土地の一角にその国はあった


そこでオルビア・リーヴァスは女の身でありながら性別を偽り騎士の地位を持ち国に奉公していた


幼いころ主に拾われ、それからずっと騎士としての訓練を積み、一流の騎士になりその名は王国の中でも随一とされていた


オルビアの所属する軍は隣国との戦争に明け暮れ、民も兵も疲弊していたそんな時、ある事件が起こった


王の暗殺


どこの誰ともわからぬ何者かが王宮に侵入し王を暗殺しようと企てた


結果的に王は無事であったが、王宮では暗殺を企てた者を捜し出そうと躍起になっていた


そんな中、暗殺者が落としたと思われる物品の中にオルビアの仕える主の家紋の入ったナイフが発見されたのである


宮殿の者達はオルビアの主を犯人と決め付けた


「もはやここまでか・・・オルビア、お前達だけでも安全なところに」


「なりません、これは何者かの謀、他に手はあるはず」


当時軍師としても才を発揮していたオルビアであったが、政治に関しては人並み程度の見識しか持たず、この問題に対し物理的な解決法しか見いだせずにいた


「オルビア、どこに行く」


「何も問題ありません、どうか私にお任せください」


主の元を去り、オルビアは自らが率いる部隊の者達に市街全域にこの情報を流すように指令を飛ばした


『オルビア・リーヴァスが謀反を企て、自らの主を陥れようとした』


オルビアは忠臣と誉れの高い騎士であった、だから誰もそのことを信じようとはしなかったが、オルビアは自らの部下に証拠をでっち上げさせ、オルビアが犯人であるかのように仕立て上げたのである


情報は王の下にも広がり、オルビアこそが暗殺の首謀者であるということがまるで事実であるかのように決定づけられた


「オルビア、お前は何と言うことを・・・」


オルビアの主は嘆いた


もちろんオルビアが暗殺などするわけがないとわかっている、自分をかばってのことだとわかっている、だからこそ嘆いた


「申し訳ありません、ですが私はすでに逆賊、今宵が最後の忠義に御座います」


オルビアはそれ以上何もいわずに部下の集まる国の近くの森に来ていた


「お前達を巻き込んでしまい、すまないと思う、私はこの地を去る、今ここで私の首を取り王宮に戻ろうと私はお前達をとがめはしない」


「・・・隊長、我々を拾っていただいた恩、まだ返し終えてはいません、我らは隊長とともに」


その部隊は隊員の多くを女性で構成した物だった


当時多くの孤児が生まれ、時に傭兵として時に娼婦として、または奴隷として女性は虐げられることが多かった


オルビアはそんな女達を戦場で保護し、騎士としての指導をしながら部隊に引き入れていったのだ


この部隊の多数がそうしてオルビアに手を差し伸べられた者達である


「馬鹿ものばかりか・・・お前達は・・・ならばついてこい、我々は今日、国を捨てるのだ!」


自らその道を選び、困難を迎え入れてもなお主に尽くす


忠誠


その言葉に尽きる


それからのオルビア達はまさにどこにも行けず、どこにも逃げることのできない追い詰められた状況にあった


王国からのお触れでほぼどの町にも指名手配として晒され、追手により部隊の者も一人、また一人と倒れていった


そしてオルビアは最後に海に出る選択をし、わずかな隊員とこの地にたどり着く


だがそのわずかな隊員はオルビアと副官のたった二人のみ


打ち捨てられた教会に倒れ込むように逃げ込んだ二人は憔悴しきっていた


「ここまでか・・・すまないな、こんなところまでお前を巻き込んで」


「なにをおっしゃいますか、貴女がいなければ私はどこかで死んでいたでしょう、それよりはずっとましですよ」


彼女もまたオルビアが救った一人、最も近くでオルビアを支えてきた人物と言えるだろう



「隊長、地下があります・・・隊長はここに、私は追手をここで食い止めましょう」


「馬鹿を言うな、私も戦うぞ」


オルビアは剣を抜き、まだ自分が戦えることを誇示するが、その姿はあまりにも痛々しく弱弱しい


「隊長には我らの声を聞いて頂かなければなりません、そのためにも生きていただかなくては」


それはオルビアが部下すべてにかけた魔術


死の直前の意志や想いをその遺品に保存する、オルビアの持つ特異な力だった


「オルビア、貴女は生きて、私の声を聞いてほしいの」


それは長く苦楽を共にした部下でも何でもないただ一人の友としての言葉だった


だからこそ死なせたくないのに


その想いをわかっていながら、オルビアにそう告げる彼女は笑いながらオルビアを抱きしめた


鎧同士がぶつかるが、温かい頬がオルビアに触れる


「大丈夫、私がこの地を封じる・・・誰にも見つからないようにする、だから、貴女は生きて」


槍を持ちながら抱きしめる彼女に、オルビアはなすがままにされるしかできなかった


「・・・バカ・・・・・・バカ・・・!」


オルビアはそれ以上何も言えず、半ば押し込められる様に地下にもぐった


その後戦闘の音と悲鳴が幾多も聞こえる中オルビアは、この教会自体に保存の魔術を行使しこの場所が崩れることのないようにし、最後に自らに魔術を使った


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