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J/53  作者: 池金啓太
四話「異国の置き去りの時間」
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思い出と晩御飯

静希達が教会にたどり着いてからどれほど時間がたっただろうか


嵐は一向に収まる気配はなく、風と雨の音をしきりに静希達の耳に届けていた


時計を見るとすでに十九時、集合時刻はすでに過ぎた


これは城島の雷を落とされることを考えなくてはならないかもしれないと思っていると、陽太の腹から空腹を知らせる虫の声が聞こえる


「あぁちくしょう、腹減ったな・・・」


「同感だ、昼から何も食べていないからね、非常食も船にあった乾パン程度しかないし」


全員が空腹に顔を沈ませている中、静希はナイフを眺めてため息をつく


「明利、さっき俺が殺した猪、今どうなってるかわかるか?種入りの小石が近くにあるだろ」


「え、わかるけど・・・」


先ほど猪の奇形種を倒す際に合図に使った小石、あのまま放置していたことを思い出したのだ


明利が集中するとその場にまだあの死体が打ち捨てられていることを認識できた


「よし、陽太、マーカス、手伝ってくれ」


「なんかするのか?」


「手伝えることならなんでもしよう」


それぞれにナイフを渡して静希は立ちあがる


「鏡花、また働いてもらうけどいいか?」


「なによ・・・今度は何させるつもり?」


「フライパンと皿をつくっておいてくれ、フライパンは一つ、皿は人数分」


「はぁ!?何でそんなもの」


さすがに能力をほとんど使えない状態とはいえ、完全に使えないわけではない


そして鏡花の能力は強弱の調整が利く、時間をかければ能力は十分に使えるのだ


「頼むよ、それっぽいものであればいいから」


「まさか料理でもするつもり?」


「その通り、ちょっと荒っぽいけどな」


静希は教会の大きな扉を少しだけ開けて周囲になにもいないことを確認する


「俺らが出たらすぐに閂で扉を閉めろ、三回ノックしたら開けてくれ」


「うん、気をつけてね」


明利に見送られながら静希と陽太とマーカスは扉を越えて走り出す


距離的にはそれほど離れていない、走って数分、そこに血でできた水たまりとともに先ほどナイフで仕留めた猪の奇形種はいた


「で、やるのか?」


「やるっきゃないだろ、懐かしの野営を思い出せ」


「あんときはマジ死ぬかと思ったからなぁ」


そういって静希と陽太は苦笑いしながらナイフを駆使して猪を解剖していった


いや解剖というより解体といった方が正しいだろう


鱗状の体毛を剥ぎ落とし、そこから骨と肉を分離させ関節部分を外してさらに分解していく


マーカスは一瞬その光景に吐き気を催していたようだが、二人は構わず血を浴びながら猪から食べられる肉の部分を摘出していく


周囲の警戒を怠らず問題なく教会に戻ってくると鏡花がその場で倒れていた


そしてその近くにはフライパンと皿がいくつか


どうやら作ってくれたらしい


だが相当消耗したようで息を荒くしながら「うぅ」だの「あぁ」だの言いながら苦しそうにしている


「お疲れ様だな、せいぜい元気になるもの作らなきゃな」


「あ・・・あんたね・・・こんな状況で、こんなもん作らせんじゃないわよ・・・収納とかしてなかったわけ?」


「フライパンなんて収納しててどうするってんだよ、箸とフォークならいくつか持ってるけどな」


箸とフォークもただ入れてあるわけではなく陽太による投擲作業済み、もっぱら攻撃目的である


それはさておき先ほど回収した猪の肉を収納してあった清潔な布の上に置いていく


「・・・これって・・・やっぱり」


「さっきの猪の肉だ、普通に美味いと思うぞ」


「ハワード、やっぱり日本人はクレイジーだ、笑いながら解体していたんだ、恐ろしいの一言に尽きるよ」


「人聞きの悪いこと言うなよ、昔山で遭難した時に似たようなことしてただけだ」


「はっはっは、懐かしいな、小学校の時だっけか?」


「そうそう、雪姉と一緒に虫とり行ったら道間違えて、戻ろうとしてまた間違えて、五日くらい放浪してたよな」


「あんた達の幼少時代って一体何なのよ」


料理の下ごしらえをしながら静希はかつてのことを簡単に思い出していた


「あの時は明利は一緒じゃなかったんだよな」


「うん、家の法事だったからね」


「明利がいればすぐに帰れたものを、まったく苦労したよ、野生動物と遭遇しながら狩りして焼いて食って・・・我ながらすごいことしてたなぁ」


カードの中から調味料を取り出しながら下味をつけたりナイフで適度な大きさに切り分けたりと着々と準備を進めていく


「昨日の朝も思ったけど、こうしてみるとあんたって収納系統の能力者よね」


「あぁ、攻撃は俺の本分じゃないからな、俺の役目はあくまで支援だよ、いわば裏方だな・・・んん、明利紫蘇あるか?」


「うん、今用意するね」


近くの露出した地面に種を植え能力を発動すると芽が出て急激に成長し数枚の青々とした紫蘇の葉をつける


「陽太は全身じゃなくていい、掌だけ火をつけろ、その位なら火を維持できるだろ?」


「やってみるよ」


掌だけ能力を発動ししばらくしても炎が消えることはない


どうやらこの程度の能力発動なら魔素が少ない今の状況でも使えるようだ


明利にも手伝ってもらい出来上がった料理を各員の皿に盛り付ける


照り焼き、焼き肉、ソテー、焼いてあるような料理しかできないが味付けは少しばかりこだわった静希と明利の特製料理だ


誤字報告をいただきましたのでお詫びとして複数投稿


もはや一日二話投稿にしたほうが早いような気がしてきた今日この頃



これからも至らぬところあるとは思いますが、お楽しみいただければ幸いです

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