ハマスは設立以来、イスラエルには存在する権利がなく、イスラエルの民間人など存在せず、イスラエル国民はすべて国家の兵士であり、したがって合法的な標的であると宣言してきた。
それでも、西側諸国はハマスがテロ組織だと捉えながらも、パレスチナ自治区ガザ地区に詰め込まれたパレスチナ人を統治することに集中していると見てきた。ハマスは実際、社会サービスを提供していたし、過激なグループと見なされるものを抑制する存在とさえ考えられていた。
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おそろしさが際立つハマスの「攻撃」
イスラエルでは、歴代の政府がハマスと静かな取引を行い、特に2005年にイスラエルがガザ地区から一方的に撤退した後は、ハマスが支配するガザ地区の安定を保つことを望んでいた。
しかし、ハマスが始めた攻撃では、これまでに900人以上のイスラエル人が殺害され、150人以上が人質や人間の盾としてガザ地区に連れ去られたと見られている。ハマスによるイスラエルへの攻撃は、制服組の兵士だけでなく、女性や子どもを含む民間人も標的にした、そのおそろしさが際立っている。
イスラエル政府高官は現在、ガザの安定を回復するためにも、イスラエルが中東の不滅の一部であるという信頼を回復するためにも、ハマスが破壊されなければならないと語っている。
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イスラエルの国家安全保障研究所の所長であるタミール・ヘイマン元少将は、「われわれは構想が間違っていたことを認めなければならない」と語る。
西側諸国、特にガザに多大な援助をしてきたヨーロッパの人々の間でも、同じような幻滅が広がっている。週末の惨劇は、ハマスに新たな光を当て、今後の出来事に大きな影響を与えそうだ。
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若者はガザをどう見ていたのか
欧州連合(EU)はアメリカと同様、ハマスにテロ組織としてのレッテルを貼り、公式にはボイコットしているが、多くのヨーロッパ人はハマスを、パレスチナの国家としての存続を徐々に不可能にしているイスラエルと闘う自由の戦士として見ている。
ブルッキングス研究所中東政策センターのナタン・サックス所長は、「欧米の多くの人々、特に若者や左派の人々にとって、ガザは悲惨な状況で生活する封鎖された飛び地に対するイスラエルの残虐性を一言で言い表したものだ」と語る。
彼らにとってハマスとは、「基本的にガザという文脈における民族主義的な抵抗運動」だった。その考えは、「10月7日、すべてではないにせよ、一部の人々にとっては」打ち砕かれた。
ヨーロッパでは、一様に公的に攻撃を避難し、イスラエルへの支持を示している。だが、9日にはブリュッセルで混乱が生じた。EUのオリバー・ヴァルヘイという高官が、パレスチナ人に対する6億9100万ユーロ(約7億3000万ドル)の援助を見直すと発表したのだが、この発表はすぐに軟化し、人道的援助は継続されることになった。
イスラエルでは、軍部はハマスに対してほとんど幻想を抱いていなかった。ハマスがパレスチナの武装グループの中で最も極端であるとみなし、パレスチナ自治政府の中心であるファタハとは異なり、いかなる形のイスラエル承認も決して受け入れないだろうと認識していたからだ、とヘイマンは取材で語った。
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1990年代のオスロ合意後に設立されたパレスチナ自治政府はヨルダン川西岸地区を支配しており、イスラエルは自治政府と協力してヨルダン川西岸地区のハマスの弱体化を図りながら、自治政府を強化しようとしてきた。
しかし、イスラエルの指導者たちにとって、ハマスも有用な存在だった。イスラエルがガザへの本格的な攻撃を控えてきたのは、ガザを支配しているハマスと話をすることで、安定を保つことができたからだとヘイマンは言う。「この構想は失敗した」。
以前の政権でベンヤミン・ネタニヤフ首相の国家安全保障顧問を務めたヤーコフ・アミドラー元少将も同意する。
「テロ組織がそのDNAを変えられると信じたのは、私の犯した大きな過ちだ」と同氏は話す。「ハマスには責任があり、テロ組織であるだけでなく、ムスリム同胞団の小さな支部であり、未来についての考えを持つ組織でもあるため、より責任があると思っていた。だが、やはりテロ組織はテロ組織だった」。
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「イスラム国の残虐行為よりひどい」
現在、エルサレム戦略研究所の上級研究員であるアミドラーは、単刀直入にこういった。「同じ過ちを繰り返したくはない」。ハマスは「殺害され、破壊されるべきだ」と同氏は言う。
ヘイマンはまた、イスラエルの強力かつ長期的な対応を予見している。「今の状況は、イスラエルが見たこともないような、残忍で不屈のテロ活動の後であり、人々を虐殺し、女性を拷問し、子どもや老人を誘拐するイスラム国(ISIS)の残虐行為よりもひどい。これはわれわれが想像もしなかった狂気の沙汰だ」。
イスラエル軍は7日の朝からガザへの報復攻撃を開始した。ガザ当局によれば、すでに680人以上のパレスチナ人がイスラエルの攻撃で死亡したという。
元イスラエル政府高官で政治学者のシュロモ・アビネリは、「イスラエルはハマスのレトリックの戦略的意味を理解していなかった」と語る。同氏によると、ガザ近郊のキブツ(イスラエルの集産主義的協同組合)のように、イスラエルがいかに脆弱であるかを考慮することなく、レトリックとして片付けられた」。
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ハマスが「『すべての民間人は兵士である』と言ったとき、これはレトリックではなく、イスラエル国内のイスラエル人コミュニティの脆弱性を示すものだった」(アビネリ)。その代わり、軍はヨルダン川西岸地区での個人テロに、政府は物議を醸す司法改革の取り組みに集中していた、と同氏は語る。
多くのパレスチナ人にとって、ハマスとは、はるかに優勢なイスラエル軍に抵抗するための唯一の手段ーー自爆テロやテロ行為ーーを用いてイスラエル占領に抵抗する軍事組織である。
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国際社会はどう反応するのか
イスラエル人にとって、ハマスの残忍さは1990年代から2000年代初頭にかけての自爆テロ作戦から明らかであり、「ガザは、一方的な撤退とパレスチナ支配への信頼の危険性を一言で言い表すものだ」とサックスは言う。
今後の展開は、ハマスが防衛態勢を整える時間があったガザという狭い空間で、避けられない民間人の死に対して国際社会がどう反応するかかかっている。
また、2006年のようにヒズボラがレバノンから戦闘に参加するかどうかにも大きく左右されるだろう。当時イスラエルがヒズボラを慎重に痛めつけようと尽力した結果、今回は双方とも関与に限界があるとする見方がほとんどだ。
ヒズボラの指導者であるハッサン・ナスララは、2006年のイスラエルへの攻撃を後悔していると伝えられているが、イランによってはるかに洗練されたロケット弾も装備されており、相互に抑止力があると見られている。
しかし、アミドラーの言う通りであれば、イスラエルは欧米の意見や批判をほとんど気にすることなく、ハマスとの戦争を追求するだろう。「ハマスがイスラエルを攻撃できるほど強くなるのを許せるのは、これが最後だ」。
イスラエルがハマスの壊滅に成功すれば、「本当の試練があったとき、イスラエルは代償を払う用意があり、戦う用意があり、違いを生み出す用意があることを示すだろう。サウジアラビアだけでなく、中東のすべての人々からもっと評価されるようになると思う。イスラエルの反応が十分でなければ、中東での支持を失うかもしれない」。
(執筆:Steven Erlanger記者)
(C)2023 The New York Times
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