マガダンの英雄、先生になる   作:コルディアムに脳を焼かれた阿慈谷ヒフミ

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Project Wingmanの第59戦線最終ミッションに出てくるDescendantsって曲凄い好きなんですよ...
カスカディア人が「自由を求めし者達(=アメリカ人)」の子孫であること、彼らと戦うマガダン人もまた大厄災後にアメリカ大陸から渡ってきた者達の子孫であることを踏まえると、もう、ね
Jose Pavliをすこれ


Protocol 1-6: Emergency Landing

「...はぁ」

 

ため息をつかずにはいられない。今のキヴォトスの状況ははっきり言って手に余る。だからといって逃げる訳にはいかない。そういう訳で、連邦生徒会首席行政官にして、連邦生徒会長が居なくなった今はその代行を務める私──七神リンは、自身の鬱屈した気持ちをため息という形でなんとか吐き出す他なかった。

 

現在のキヴォトスの状況といえば、それはそれはもう、悲惨なものだった。あまりの酷さに、その具体的な内容を頭の中に浮かべたくないくらいに。ここ最近は、この学園都市が連邦生徒会長という、正真正銘の超人によって成り立っていた事実を嫌という程認識させられていた。

 

──私は連邦生徒会長にはなれない。それでも、私の成すべきことをしなければならない。当たり前の事を再認識して、数週間前からの友である膨大な書類の山に手を付ける。その頂点を取った時だった。

 

「電話...一体誰ですか」

 

せっかく、鬱屈した気持ちに少しは折り合いを付けられたと思って仕事を始めようとしたのに、なんてタイミングなのだろう。少々の苛立ちとともに、私は相手の名前すら確認せずに乱雑に通話ボタンをタップする。

 

「もしもし。連邦生徒会長代行の七神リンです」

『あっ、リン先輩?忙しいところ悪いね〜』

 

電話の相手は交通室所属の後輩、井原木モモカだった。普段はお菓子を食べてサボりがちな彼女だが、今回は...何かありそうだ。喋り方は至っていつも通りの彼女だが、どこか違和感を感じた。

 

「モモカ?何かありましたか?」

『いやーねぇ、ちょっと厄介事に巻き込まれちゃって。これは先輩呼んだ方がいいかなーって』

 

厄介事。ただでさえ仕事が多いのに、さらに厄介事とは。痛む額を抑えながらモモカの話を聞く。

 

「...聞かせてください」

『さっきさ、D.U.のキャピタルATCが不明機の接近を通告してきたんだよね』

「不明機?それがどうかしたのですか?」

 

不明機が来たからといって、私になにか関係があるとは思えない。通常の手続きなら...確か、まず退去勧告、従わなかったら強制着陸させる、という手順のはず。そこに私が関わる余地はほんのわずかも無い。

 

『聞いて驚かないでよ。来た不明機は5機、その全てがこのキヴォトスに存在しない機体だったんだよね』

 

──キヴォトスに存在しない飛行機。一体どんなものなのか...。非常に興味深いし、摩訶不思議ではある。そうだとしても、私が関わるような事項ではないだろう。そうモモカに言おうとした時だった。

 

『──その人達さ、連邦生徒会長の言ってた人達じゃない?』

 

 

 

 

......

 

 

 

 

.........

 

 

 

 

............?

 

 

 

 

............!?

 

 

 

 

「...あああああ!!」

『うわっ!びっくりしたじゃん...』

 

そうだ。今日だ。連邦生徒会長が言っていた、先生。そして、その先生を補佐する人達が来る日は、今日だ。まずい、仕事が多すぎて完全に抜け落ちていた。

 

「モ、モモカ。いま先生達はどちらに...」

『んー?空域への不法侵入容疑でD.U.新第1空港に強制着陸させたとこだけど...』

「あああああああああ!!」

 

先生ともあろう人を、まさか領空侵犯容疑で強制着陸させるなんて。あまりの事態に自分でもらしくない、と思いながらも叫ばずにはいられない。

 

「と、とにかく先生達に無礼のないようにしてください!すぐに向かいますから!」

 

私は急いで外行きの準備を整える。働き詰めで他人にあまり見せられる格好ではなかったのを整える。──そうだ、連邦生徒会長に託された“アレ”も持っていかなければ。

 

どうか、先生達が無事でありますように。彼らこそが、今のこの状況を打破する切り札なのだから。

 

 

 

 

同時刻、D.U.新第1空港──

 

 

管制に従って空港に降りると、すぐに俺たちの機体のまわりに武装した、警官風の姿をした少女達が集まってきた。間違ってエアインテークの前やエンジンの後ろに立たれたら大変だ。慌ててエンジンを切る。ちくしょう、飛行機のことを何も知らないのか?

 

「──!──!?」

 

何言ってるかわからんが──ジェスチャーで降りろ、と言っているのは分かる。とりあえずキャノピーをオープンにする。

 

「よし、そのまま降りるんだ!」

 

随分と可愛らしくない言葉遣いだ。しかし、降りるといっても、そのままじゃ降りれるわけが無い。機内からはタラップを操作できないのだ。

 

「タラップを下ろしてくれ!」

「ああ!?つべこべ言わずにさっさと降りるんだ!」

「だから降りるためにタラップを下ろしてくれと言ってるんだ!」

 

まずいな、こいつら飛行機のことを何も知らないのか。空港なのに。

 

「言うことを聞かないなら引きずり下ろすまで!」

 

そう言い、彼女らのうちの1人が、主翼下のMLAA-2(マルチロック対空ミサイル・デュアルボレー)を足場に機体に登ろうとする。

 

「ミサイルを足場にするな!ああ、そこに足をかけるんじゃない!」

 

ミサイルを足場にするだけじゃない、主翼の“NO STEP”ゾーンに足をかけようとする。何度も押し問答を繰り返して、ようやくタラップを出してもらえるところまで漕ぎ着けた。なんで強制着陸させられた側がこんなことしなきゃならん。

 

何はともあれ無事に久しぶりに地面に足をつけることが出来たが、心は休まらない。彼女らに銃口を向けられる。手を上げて抗戦の意思は無いことを示すのがいいか。

 

「所属と名を名乗れ!」

「太平洋連邦空軍マガダン方面治安維持軍所属、ライアン・ジョナサン・ゴズリング!階級は大尉!」

「分からん、ついてこい!」

 

銃口を向けられたまま別の場所に移されるらしい。クソ、キャピタルATCと同じだ。誰も太平洋連邦や治安維持軍を知らない。これは面倒事になるな...。

 

 

「所属と名前を聞いた...大人なのにふざけているんですか?」

 

俺は空港の中の尋問室に移された。あれだ、税関とかに引っかかった奴が税関職員とお話するとこ。...ああ、同じ空港の尋問でも密輸とかで捕まってた方がマシだった。

この尋問にはいいニュースと悪いニュースがある。いいニュースはこんなに可愛い女の子と面合わせて喋れること、悪いニュースはこれが領空侵犯の尋問ということだ。

 

「ふざけちゃいない。何度でも言うぜ。俺は太平洋連邦空軍マガダン方面治安維持...「うるさいですよ!いい加減しつこいです!」

 

ふざけてなけりゃ、嘘もついちゃいないんだけどな。ましてやこんな子につく嘘もない。この状況には流石の俺もため息をつかざるを得ない。戦争や競争には慣れてるが、あいにく特に交渉は得意な方じゃない。こうなると向こうが根負けしてくれるのを待つか、こっちが豚箱に放り込まれるかのどっちかだ。どう考えてもオッズは根負けの方が高い。つまり十中八九豚箱行きだ。クソが。

 

(クソッタレめ...。こんなことになるくらいなら戦闘機奪ってクリスタル・キングダムに爆弾落としとけばよかった)

 

治安維持軍にあるまじき考えが頭をよぎる。どうしようもねぇ、と向こうからの質問に適当に答えながら椅子にもたれかかった時だった。

 

「全く、こんなだらしない大人を見るのは初めてです!次の質も...電話ですか。逃げようなんて考えないでくださいよ」

 

カリカリした尋問官ちゃんが、電話に応える為に部屋を出る。全く、あんなに怒ってたらせっかくの可愛い顔が老けちまうぞ──なんて、昔ブリックがコブに言ったみたいなことを帰ってきたら言おうと思っていると、尋問官が部屋に入ってきた。...顔色悪いな。調子悪いのか──

 

「──すみませんでした!」

「...?」

 

唐突な謝罪に流石に困惑を禁じ得ない。いや、不可抗力で犯罪者に仕立て上げられたことに文句が無いわけじゃないが。

 

「たった今、連邦生徒会長代行から連絡が入りまして...今のキヴォトスの状況を変える切り札だから即座に解放するようにと...」

「連邦生徒会長代行?」

 

名前からして、このD.U.を統治する連邦生徒会のボスであることは間違いないだろう。ただ、代行という肩書きからして、本来その立場では無い者なのは明らかだ。──気になるのは、それだけでは無いが。俺の事など気にも留めず、彼女は解放の準備を進めた。

 

「現時刻をもって、ライアン・ジョナサン・ゴズリング大尉。あなたを解放します」

「はいよ、お勤めご苦労様。──そうだ、名前を教えてくれないか?」

 

俺の要求に、彼女は怯えたような顔をする。後から報復をされるのでは、と恐れているのか。別にどうこうしようって訳じゃない、と努めて笑顔を作って彼女に言う。

 

「──このキヴォトスで初めて面と向かって話した子の名前が知りたいって、ただそれだけだ。口が悪いけど謝れる、そんな君の、ね」

「...口説いてるのか、おちょくってるのか、どっちなんですか?」

「まさか、そのどれでもないさ。ピュアな気持ちだよ」

 

そう答えると、彼女はクスリと笑って、俺に告げた。

 

「──黒鷲モイラ。ヴァルキューレ警察学校D.U.新第1空港支所所属です。覚えててくださいね」

 

──俺はまだ、彼女との関わりが思った以上に多くなるとは、露ほども思っていなかった。




兵器解説 VX-23VTL
太平洋連邦の兵器会社、イカロス・アーモリーズが製作した最新鋭戦闘機であるVX-23を垂直離着陸仕様に仕立て上げた試作戦闘機。
何故3週間程度でそこまでの大規模改造が出来たのかと言うと、元々VX-23の開発者が趣味で垂直離着陸機能を付けようとしており、結果的に量産型にはその機能が付けられることは無かったが、後付けで付けられるように余地を残していたため。
兵装搭載スペース減少を防ぐために、ホバリング用リフトファンスペース分機体の全長を伸ばしているほか、エンジンも推力強化と、垂直離着陸用に推力偏向を下90度まで出来るようにノズルを変更している。
兵装搭載能力も強化されており、マルチロール性能と対空性能が向上している。
イカロス・アーモリーズとはこういう会社である。
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