川を渡った烏と首なき天使   作:ガスマスク二等軍曹

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可愛い子には銃を持たせよ

 ニケ専用兵器庫──

 白光が無数の銃火器を照らす。

 監督官である私は足元の拘束具が軋む音を聞きながら、

 黙ってレイヴンを見つめていた。

 

 なぜこんなところに居るのかって……? 

 以前行った精密検査の結果を見た所長を含めた主任たちが「現状のデータのみでは分からず仕舞いだから、早急に戦闘データがほしい」と言い出したのだ。

 

 それを受けて、検査報告終了後翌日に兵器庫まで足を運ぶことになった。

 

 私も研究員だ。

 彼らの指示も行動も……そして気持ちも分からない訳ではない。

 軍から「飼い慣らす」という決定が下ったのだ。

 彼らとしても、眼前にある”爆発物”の威力を早急に知りたいのだろう。

 それは保身からか知識欲からなのか……

 

 彼女にもNIMPHは埋め込まれている。

 精密検査の際にNIMPHの活性有無も調べるよう通達が来ていた。

 勿論、言われるまでもなく元々調べる予定ではあった。

 彼女のNIMPHも問題なく活性化している。

 

 NIMPHは、万が一ニケが人間に危害を加えることのないようにする抑制機能であり、安全装置としての役割も果たす。

 つまりNIMPHがある限り、彼女は私たち人類に対し牙をむくことは無いはずだ。

 

 しかしそれは、彼女が人類の知る規格内のニケであればの話だ。

 

 NIMPHが作用しない可能性を考慮に入れる必要があるほどに”彼女”という存在は大きすぎたのだ。

 

 そんな”我々”の気持ちなどつゆ知らず、その渦中の存在は棚いっぱいに並んだ兵装群を目を輝かせながら見ていた。

 

 見ているものがショッピングモールのおもちゃコーナや洋服であれば”どれだけ微笑ましい”ものか。

 まるで新しいおもちゃを買い与えられる子供のように銃を吟味する。

 まさしく異様な光景だろう。

 

 だが、その異様な光景に”微笑ましい”ものだと感じてしまっている自分がいる。

 見ているものは違えど、その眼差しと無邪気さは「本物」だと分かるからだ。

 

 

 ──―

 

 

「……ここ……最高……」

 小さく漏れた声は幼い子供のような無邪気さを帯びていた。

 私は別に銃が好きというわけではない。

 訳ではないのだが、

 私がここまで興奮しているのには別の理由が在った。

 

 指先が小銃のボルトに触れ、静かにカチンと鳴る金属音に思わず頬が緩む。

 

 前はさ……

 銃もブースターもジェネレーターも、どこにどれを積むか考えて「この構成ならやりたいことができるっ!」って思っても実際組んでみたら腕部重量不足だのEN出力不足などが出てきてた。

 

 まあ、それを踏まえて考え直すことも好きだったんだけどね? 

 

 私の顔がどんどん明るいものへ変わっていく傍から見れば、ものすごく不気味だろうが知ったことではない。

 

 でも

 この体なら、もうEN出力の容量とかそんなの気にせずに

 “何でも積める”んじゃない……!? 

 

 そう! 

 つまりは、私の考えた最強アセンが作れるのだ! 

 勿論、ロマンを捨てはしない。

 しかし、自分の考えた最強アセンも一周回ってロマンなのでは? 

 

 赤い瞳がぱっと輝く。

 拘束具ごと肩を震わせ、両手で銃を撫でる姿は子供のように無邪気だった。

 

 その瞬間──

 脳内に澄んだ声が差し込む。

《……レイヴン……。

 期待を裏切るようで心苦しいのですが……

 出力はコーラル由来ですので……

 当然、容量上限というものは……あります……》

 

 その声を聴き一瞬で、レイヴンの肩が落ちた。

「……そうだよね……

 ……何でも……なんて……甘くないよね……」

 

 見ていた監督官は思わず呻いた。

「……お前さっきから……

 顔がぱっと明るくなったと思ったら、何でいきなり落ち込むんだ……」

 

「いや……いいの……現実そう甘くないってわかったから……」

 

「???」

 不思議そうに首をかしげる監督官。

 

 そんな監督官をよそにショーケースに陳列されている銃の物色を再開する。

 すると見つけてしまった……リボルバー式のスナイパーライフル……! 

 ロマンすぎる! これなら一丁持ちでも悪くない……! 

 そうしてほしい旨を監督官に伝えようと口を開いた刹那

 

「……やめておけ。

 それは取り回しが難しいぞ。

 お前の体格なら、こっちの方がまだ扱いやすい」

 

 まさかの却下である。

 さらに監督官が勧めてきた銃を見て顔をしかめる。

 

「……要らない。

 そっちだと何かちょっと物足りないし……かっこよくないし」

 私の要望に苦言を呈したかと思えば、ダサいアサルトライフルをおすすめしてきた。

 やだ……ダサいのやだ。

 

 私からも断固拒否の旨を伝える。

「……物足りない、ねぇ……」

 

 再びショーケースに目を向ける。

 ……が、その途中、ふと視界の端に入った一丁の銃に目が止まった。

 艶やかに黒光りする小型PDW。

 旧米国製の小銃をベースに、取り回しを極めた短機関銃だ。

 

「面制圧をするなら一つじゃ火力不足だし……

 それならショットガンのほうが……でも……いや……」

 考える。

 絶対的な火力はないが安定した火力と面制圧できる連射力。

 ありだ……でも問題は絶対的火力と物足りなさかな……。

 ひとまずは……

 

「これ……二丁欲しい」

 気になる奴は”とりあえず買っとけ作戦”だ。

 そう思い監督官の彼に要望を伝える。

 

「……。何を言い出すかと思えば、二丁だと……? 

 2丁だと精密射撃なんか出来るわけがない。

 ここは―」

 

「だからこそ……だよ。

 あと……同じ武器を2丁持つのってかっこいいじゃん……」

 静かながら確信を持ったような声に、

 監督官は言葉を失う。

 

 監督官がショーケースから銃を取り出し試しに1丁私に渡してきた。

 恐らく実際に持ってみて感触を確かめろということなのだろう。

 その行動に私はふと思ったことを口にする。

 

「要注意人物にポンポン渡していいものなの?」

 そう、私は自分で言うのもなんだが規格外だ。

 実力はまだ未知数と言ってもいい。

 そんな得体のしれない”ニケ”に鬼に金棒となり得る銃を渡していいものなのかと。

 

 そう言うと監督官がフッと笑う。

「安心しろ。

 それはダミー銃だ。装填もできなければ引き金も引けない。

 それに、お前の実力なら銃なんて必要ないだろ?」

 

 なーんだ。

 私を信用しだしてくれたわけじゃないんだ。

 まあ確かに……? 拳と蹴りだけで行けない事もないでしょうよ。

 でももっと言い方というモノがあるでしょうよ……

 

「そーですね……」

 まあ信用を勝ち取る様な事してないし、気にしてないですとも。

 

 そう悪態をつきながら監督官の持つ銃を2丁手に取り構えて想像していたものと実際に持ったときの感覚を合わせてゆく。

 思った通りの感覚に満足し監督官に銃を返す。

 

 リロード時に手元が使えなくなってしまうことを考え「予備用」の銃としてショットガンも2丁選択する。

 あとはハンガーユニットみたいなものが在ればいいのだがと隈なく探してみる。

 探してみたが、それらしいものはなく代わりにショーケースの奥にあった強化外骨格のフレームに目が止まる。

 

 カッコいい……

「これ……肩に付けてもいい?」

 

「肩だと……?」

 そう言いながら、監督官が私が指さす外骨格の詳細データをタブレットで確認する。

「……強化型外骨格? 

 これにお前の言うハンガーユニットのような機能は付いていないぞ……。

 あるのは実戦向けの汎用補助ブースターくらいしか……」

 

「……かっこいいから」

「は?」

「かっこいいから……!」

 レイヴンの瞳が赤く揺れる。

 視線は完全に外骨格に釘付けだった。

 

《合理性は……ともかく、見た目の好みは大切ですからね》

 脳内に響くエアの声もどこか楽しそうに肯定する。

 そう、ハンガーユニットが無いのは残念だが、

 その代わりとしてかっこよさを取る! 

 

「……監督官のつもりだったが、これでは保護者だな……」

 監督官が眉間に手を押し付け考え込む。

 え、かっこいいのだめ? 

 そう思っていると

 

「……好きにしろ。

 俺は知らんからな……後で何が起きても……」

 よし、許可はとった。

 何か起こる可能性だって? 

 無いでしょ~だって単なる外骨格だよ? 

 

「はーい」

 気休め程度の返事をする。

 その後、使用予定の銃を登録し実践テストを行う施設へ向かう。

 

《レイヴン、次は実践テスト……楽しみですね》

 

『うん! ……絶対、楽しいよ』

 

 

 ◇◇◇

 

 

 実践テストを行う施設の準備区画。

 

 監督官が手をかざしセキュリティを解除すると、

 武器庫で選んだサブマシンガンが受取口まで自動で運ばれる。

 

 私は瞳を輝かせ、嬉々として銃を手に取る。

「うわ……すごい……! 重量バランスも完璧……!」

 構えを何度も変えながら撫でるその様は、

 まるで子供がおもちゃを選んでいるかのようだった。

 

「……準備はいいな?」

 監督官が短く声をかける。

 

「大丈夫。むしろ早くテストがしたくてウズウズしてる」

 拘束具越しに手渡されたPDWを構え、わずかに笑い目の奥に、熱が走る。

 

 だが──

 

 銃を構え直した瞬間、背中の奥で何かが“刺さる”ような、

 同時に身体の奥と銃が“繋がる”ような、奇妙な感覚が走った。

 

「……ん?」

 

「おい、どうした?」

 監督官の声が不安気に響く。

 

「……いや……何でもない……気のせい……かも……」

 

 その発言に監督官の眉間にしわが寄る。

「少しでも異常があると感じたら報告しろ。

 本当に大丈夫なんだな?」

 

「……うん、大丈夫……」

 

「その間が一番怖いんだがな……。

 まあいい、こちらが異常だと感じた時点でテストは即時中止だ。

 いいな?」

 

「……わかった」

 頭を振る。

 余計なノイズを排除するように意識を一点に集中させる。

 それがトリガーになるとは知らずに。

 

 カチ、カチチ……ッ。

 

 鈍い金属音と共に、手にしたPDWの銃身が赤い粒子を纏い、

 内部フレームが蠢くように変形を始める。

 砕けたように外装が割れ、サブマシンガン【だった】はずのフォルムは一瞬で中型のショットガンへと形を変えていく。

 

「え、えぇ!? ……ショットガン……!?」

 なんで!? 

 そんなギミックあったの!? 

 てかこれじゃあ、ショットガン4丁になっちゃうじゃん……

 種類変えた意味よ……

 

「お、おい……一体何が──!」

 

 監督官の声が詰まる。

 目の前で展開されたのは、銃の変形だけではなかった。

 背中──そこでもうひとつの“変化”が始まっていた。

 

 外骨格──

 兵器庫で「かっこいいから」と気まぐれに選んだ装甲フレーム。

 だが今、その関節部からスラスターが唸りを上げ、

 骨組みのような機構がさらに展開されていく。

 

 背中から伸びた連結フレームが、まるで“翼”のように広がった。

 

「背中の……ソレは何だ、レイヴン……!」

 

 問いかけられた彼女は、静かに鏡越しに自分の背を見やる。

 赤い光が脈打つように脈動し、装備の輪郭を照らす。

 

「いやいやいや……私が聞きたいよ……!」

 彼女も相当焦っているのだろう。

 変わり果てた元PDWのショットガンを持ったままアタフタしていた。

 背骨に沿って伸びる骨組みの先端から、微細な粒子が光を纏って浮かぶ。

 

 それは“何か”の武装ユニットのようにも見え、先端には何かを発射する形状になっていた。

 

《……適応構造の自動最適化ですね。

 コアと外部武装の伝導効率を上げる補助外骨格と推察されます。

 ……多分》

 

「たぶんってなに!?」

 思わず”声”としてではなく口で話してしまった。

 

 私はハッとし慌てて監督官を見る。

 しかし監督官にはそんな言葉は届いておらず生成されてしまった武装を見たまま思考停止を起こして固まっていた。

 

 その姿を見て安堵する。

 不測すぎる事態の中、

 エアの存在について完璧な説明をすることは不可能だ。

《……私も完全には解析できていません……。

 でも、今のところ制御可能です》

 

『それって私が?』

 

《恐らくは……。

 同調域がレイヴンの意志により拡張されています。

 銃自体が“あなた向け”に構造を変えたのだと思います……》

 

『いやいやいや、私そんなの頼んでない……!』

 そんなことが分かっていれば、

 先にショットガンの方を持っていただろう。

 

 しばしの沈黙。

 やがて所長が通信越しにボソリと吐き捨てた。

『──中止しろ。装備を解体して再調整だ』

 

 その言葉にレイヴンの眉がピクリと動く。

 せっかく楽しみにしていたテストが”こんな事で”中止なんてとんでもない。

 

「……ちょっと待って。調整、できると思う」

 そう言ったものの、実のところ自信はなかった。

 出力の制御なんて、やったこともない。

 だが、どうにかしなければ。

 

 一度、深く息を吸い込む。

 

「ふぅ……」

 心の中で繰り返す──“落ち着け、落ち着け”。

 頭の中でノブを締めるようなイメージを思い描き、出力を“抑える”方向へ意識を集中する。

 肩に装着された新型の外骨格が、わずかに低く唸る。

 直後、モニターに表示された出力値が、じわじわと緩やかに下がりはじめた。

 

 少しずつ──だが確かに、制御されていく。

 

 所長はが小さく息を呑んだ。

『……問題はなさそうだな……再開を許可する』

 

 すると監督官が急ぎ口を挟む

 

「お言葉ですが、

 現在のレイヴンは今初めて調整を行ったように思います。

 そのような状況で再開するなど―」

 

『お前の意見は聞いていない。

 当事者である彼女が大丈夫というのだ。

 信じてやるのが”保護者”というモノであろう?』

 その言葉に監督官が唇を噛む。

 

 レイヴンは監督官へ大丈夫である旨のジェスチャーをする。

 応答がない事で察したのか所長は満足そうに微笑むと通信を切った。

 

 監督官が再度レイヴンに尋ねる。

「本当に大丈夫なんだな? レイヴン」

 

「大丈夫……多分」

『だよね? エア』

 そう相棒に確認を取ろうと試みる。

 

《レイヴンが調子に乗らなければ……問題ないかと思います》

 

『相変わらず、ストレートな物言いですこと』

 

 改めて監督官に問題ない旨を伝え再度スタート地点に待機するため移動する。

 

 戦闘エリアへ歩き出す“渡り烏”は新たな羽を背に、

 かすかに笑った。

『……だって、楽しみだから』

 

 監督官も覚悟を決め傍らにあるタブレットを見ながら配置に着く。

 

 監視ルームに戻った所長は鼻で笑った。

「……壊れてもいい。続行だ」

 

 

 ◇◇◇

 

 

 照明に照らされたテスト区画は、

 遠近に複数の遮蔽物と疑似市街戦を想定したコンクリートブロックが配置された射撃場だった。

 

 正面には自律式のドローンターゲットが一定の間隔で出現し、

 中央部から両サイドへ逃げるように移動する設定だ。

 

 通常のニケはこの遮蔽物を利用し、

 一度に複数のターゲットを捉えながら“止まって狙う”。

 これが基本だ。

 

 速射性を活かし、一瞬で精密に撃ち抜き、

 撃ち終われば即遮蔽に隠れる。

 無駄のない反復こそが量産型ニケたちにとっての“戦術”だった。

 

「……遮蔽物の配置は確認済みだな?」

 

 監視室に集まった研究主任のうちの一人が確認する。

 

「問題ありません、標準的な遮蔽射撃テストです」

 

「NIMPHも異常なしです。突発的な暴走行動は抑えられるかと」

 

 最終確認を終えた若い研究員がそう告げる。

 

 所長はモニター越しにレイヴンを眺め、

 渋い顔で小さく吐き捨てた。

「……飼い慣らせと言われたが、さて、どうなるか」

 

 監視室に付随するオペレーションルーム

 一人だけ、監視席で腕を組む監督官だけは、

 口を噤んだままレイヴンの姿をじっと見ていた。

 

 ──遮蔽物を使って、止まって狙う。

 

 今の“普通のニケ”ならそうするだろう。

 

 だが目の前のコイツは違う。

 背中にあんな小型ブースターと謎の外骨格を背負って、あの無邪気さで、遮蔽物に籠るわけがない。

 

 ……やるな……絶対、突っ込むな……。

 額に手を当て、苦笑が漏れた。

 数秒の沈黙の後、監督官はレイヴンに開始の言葉をかけた。

 

「テスト開始──!」

 

 ────

 

 開始の言葉、信号ライトが青に変わると同時に、レイヴンの背中でスラスターが赤く点滅する。

 

 ゴッ、と低い噴射音が鳴り──

 レイヴンは不規則に動くドローン目掛けて突貫した。

 

「──っ!! おい、なんだあれは!?」

 

「遮蔽物を使わない……!?」

 

「なんで正面から突っ込む──!?」

 

 研究員たちの動揺が広がる。

 モニターに映るレイヴンは、

 遮蔽物などまるで存在しないかのように一直線にドローンへ飛び込んでいた。

 

 監督官はと言えば、ただ一人、肩を落とし、頭を抱えて小さく呟く。

「……やると思ったさ……やるって」

 

 ────

 

《メインシステム。戦闘モードを起動》

 

 信号灯が点灯すると同時に、ブーストを吹かしドローンへ接近する。

 頭の中で射程範囲であると分かった私が引き金に力を籠め引き切る。

 

 と、次の瞬間。

 

 銃口から放たれたのは──

 散弾でもスラグ弾でもなく、赤い粒子が微細に拡散する“レーザー”だった。

 

「……は?」

 今……何が出た? 

 

 光の束が一瞬にして散開し、触れたドローンの装甲を弾けさせる。

 まるで弾けた火花のように金属片が飛び散り、空気が熱を帯びて震える。

 

 小規模な爆発が弾幕のように連鎖する。

 本来であれば、そのまま隣にいたであろうドローンを倒す予定だったが手間が省けたようだ。

 

 じゃないが!? 

 は!? 

 え? 

 コ、コーラル!? 

 

《粒子弾です。……思ったより綺麗ですね》

『綺麗って……私、普通の弾を撃ったんだけど……!?』

《レイヴンですから》『……何それ!?』

 

 つまりショットガンに変わった時点で動力がコーラル内燃機関に変更されたってこと……!? 

 じゃあ──私が出力を調整しなかったら、あの一撃で“赤ネビュラ”みたいな爆破現象が起きてた……!? 

 

 もし今、力を抜いていなかったら、ここ一帯が真っ赤な霧に包まれていた──

 そんな映像が脳裏をよぎり、背筋が粟立つ。

 

 額に人工汗が滲む。

 それと同時に疑問に思う……なぜエアはここまで冷静なのだろうか……

 そう考えるとふと武器を選ぶ際の事を思い出す……

 

 ……出力はコーラル由来ですので……

 

 まさか……

 

『エア……』

《……?? なんでしょう。レイヴン》

『わかってたな……?』

《はて? なんのことでしょうか?》

 確信犯だった。

 

 頭の奥でくすりと笑った気がして、私の苛立ちは頂点に達した。

 文句の一つでも言ってやろうとしたが、テストであることに気づく。

 

「は~~……もう! 今はテストだテスト……!」

 急いでドローン撃破に戻る。

 勿論、最低限の出力で。

 

 連続射撃で壁に走る熱量データを見て、モニタールームの研究員たちがどよめく。

 

「……通常弾薬じゃないのか……?」

 

「何を出してるんだ……!?」

 監督官も頭を押さえながら無線を繋ぐ。

 

「……レイヴン、何が起こってる……!」

 

「知らない! 私が聞きたい!」

 なんならすべての黒幕はエアだと監督官に言いたい。

 そう悪態をつくと元凶(エア)から声が聞こえる。

 

《あ、そういえばですが》

 

『今度は何よ……』

 ドローンを効率よく撃破しながらエアの声に応える。

 レーザーショットガンと同じ要領で対処できるのが唯一の救いといったところだろう。

 ショットガンに変わったりコーラル製であったりともう粗方驚いた。

 

《そのショットガン。チャージショット撃てますよ?》

『いや撃たないが!?』

《撃たないんですか?》

『撃てるかぁ!!』

 あの状況の後によく提案できたな! 

 コーラル製チャージショットなんて撃ったらこの施設ごと跡形もなくなるよ! 

 なにが「撃たないんですか?」だ! 

 驚愕の事実を定期的にしないで欲しいものだ。

 

 ……撃ってみたくないのかと言われれば「撃ってみたい」……

 

 

 2分ほどドローンを処理したところで、ドローンの動きに変化が出てきた。

 距離を取りながらの射撃にシフトしだしたのだ。

 

 それも最悪なことに今までの間にショットガンの射程距離を理解したのかギリギリ届かない距離を保っている。

 

「距離をとる機能も付いてるとか妙に賢いんだから……!」

 近接で片付けれると思ってたのに──

 遠距離は苦手分野だって……! 

 

「こういう時こそ……ビットとかがあると楽なんだけど──

 でもないんだよねぇ……!」

 あればどれだけ楽なことか……! 

 思考が自然と“欲しい”に染まる。

 

 途端に、背中の外骨格が微かに軋んだ。

 骨組みの先端が発光し、粒子が収束する。

 冷たい金属の骨組みの中で、熱を帯びた何かが脈動している──

 まるで背骨に新しい“神経”が生えたみたいだ。

 

「……えっ……えっ……え!?」

 連結フレームの先から光の球体が“咲く”ように形を成す。

 瞬きの間に砲口が複数展開し、

 自動的にドローンを補足──射撃。

 

「なにこれ……!?」

 

《……自動追尾型遠隔砲台です。通称 “ガンビット”》

 

『知ってるけど……知らないんだけど……!?』

 

 遠距離の敵を追尾する光弾が一直線に飛び、撃破音とともに空が抜ける。

 

「……!?」

 

 監督官もモニタールームで目を見開く。

 

《レイヴン、出力過多です。制御を──》

 

『うぇえ!? ……あ、あぁ、そっか……制御……』

 

 当たり前のようにビットの構成もコーラルでした。

 まあ、ここまでくればもう驚かないよ……

 逆に安心するまである……コラミサじゃなくてよかったなぁ……って

 ……よくないよ。もうどうするんだよぉ……これ……

 

 私が戦闘しながらあるはずのない頭痛に苛まれる中、

 監督官も同様に頭を抱える。

「なんなんだ……あれは……」

 

 無人のターゲットドローンが可哀そうに思えるほど効率化された倒し方。

 ふと目線をそらすとほかの研究員たちが驚愕し騒いでいる。

 

「……何を出した!? あれは……!」

 

「補助外骨格が武装プラットフォーム化してる……!? 

 自律射撃ユニットが……空中に……!?」

 

 はぁ……っと深いため息をつく。

「そんなものは彼女の織り成す事象の一端でしかないと気づかないのか」

 

 確かに、既存の物を変化させ兵器化するというのは驚くべきことだろう。

 だが、一番の異質さは、彼女がそれを短時間で理解し最適化し運用・制御していることだ。

 これは恐ろしくもあり、私にとっての希望でもある。

 詰る所、暴走することが無いという証左なのだ。

 

「ふっ……」

 私もすっかり狂人だな。

 だが、彼女には理解者が必要だ。

 導く者、教える者──

 私だけでは不十分かもしれんが、掴みとしては悪くはない役回りだろう。

 

 5分の制限時間であってもドローンの数には勿論限りがある。

 現在3分ほどしか経過していないが、すでにドローンの撃破数は200を超えていた。

 

 ドローンが射出される所からはもうドローンは出てこない。

 そして残りのドローン残機は2機となりその内1機もショットガンで撃破された。

 

 その一発を放った瞬間ショットガンの排熱が限界に近づき、銃身が微かにスモークを上げる。

 

「……あー……冷却しないといけないのね……」

 すると、その隙をついて最後のドローンが接近してきた。

 

 その行動に待ってましたと言わんばかりの笑みを浮かべる。

「……なら……殴るか」

 向こうから近接を挑んできたのだ。

 受けなければ不作法というもの……

 

 右腕を引く。

 

 拳を固めた瞬間──

 手首の外装が裂け、内部から赤黒い光刃が展開された。

 金属の皮膚が裂けて骨が剥き出しになるような嫌な音がして、私の背筋がぞわりと粟立つ。

 

「……は? 

 なにこれ……!?」

 

 さて、ここで問題です。

 殴ると思って拳に最大限の力を籠めます。

 するとコーラルで形成されたパルスブレードが展開されてしまいました。

 出力はそのままパルスブレードに上乗せされ実行される。

 どうなるでしょ~か? 

 

「あ……」

 パルスブレードの最大出力がドローンを襲う。

 ドローンは跡形もなく、そして背後の防弾壁ごと消し飛んだ。

 轟音の直後、モニタールームの防爆ガラスにもヒビが走る。

 消し飛んだ防弾壁から外の光が漏れ出しレイヴンを照らす。

 

《……私は悪くありません》

 

『私も悪くないよ!?』

 殴ろうとしたらパルスブレードがいきなり展開されただけなんだ! 

 私は悪くない!!! 

 

「………………」

 

 モニタールームに重い沈黙が落ちる。

 

 監督官は頭を抱えた。

「……お前……何を……」

 前言撤回だ。

 暴走することが無いと思ったが、これは十分に暴走だ……。

 私は恐る恐る所長の顔を見る

 

 所長は額に汗をにじませながら乾いた笑いを漏らす。

「……爆弾だな、こいつは……」

 

 その一言に、誰も反論できなかった。




近接に遠距離はハラスメントです・・・
でも遠距離・・・憧れるんだよなぁ・・・

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