マガダンの英雄、先生になる 作:コルディアムに脳を焼かれた阿慈谷ヒフミ
ここは...どこだ。電車の中か?もう電車なんて何年も乗ってない。ここ最近は車と飛行機ばかりだった。
辺りを見回す。流れる車窓からは、朝焼けが見える。あれは...塩湖だろうか。
俺と向き合う側にいる女性。青髪でピンクのインナーカラーをした彼女の足元と服は血で汚れている。俺は彼女に話しかけようとするが、体も口も動かない。明晰夢とは、かくあるのか。
左と右の席には、俺と同じ、パイロットスーツを着た人間が2人ずつ。彼らの顔は見えなかった。しかし、俺は彼らを知っている。だから彼らの顔を見る必要などなかった。
「……私のミスでした」
対面する女性が口を開く。いくらかの幼さと同時に、彼女の声色からは重責を担う者が持つ、重みのある声が聞こえた。──なぜ、君が。そんな責務を負わねば
彼女の語りは続く。
「私の選択、そしてそれによって招かれたこの全ての状況。結局、この結果にたどり着いて初めて、あなたの方が正しかったことを悟るだなんて……」
ああそうか。彼女は、この子は選択を誤ったんだ。それが故に、こうなった。俺達も、彼女も。
──なぜほとんど完璧な君が、
「……今更図々しいですが、お願いします。先生。きっと私の話は忘れてしまうでしょうが、それでも構いません。何も思い出せなくても、おそらくあなたは同じ状況で、同じ選択をされるでしょうから……。ですから……大事なのは経験ではなく、選択。あなたにしかできない選択の数々を」
彼女の言葉が、どこか胸に刺さる。こんな傷も、痛みも、俺は知らないはずなのに。──
ただ、痛みと同時に芽生えたのは、責任感。
──俺は守らねばならない。そして、過ちを繰り返してはならない。何を?
「責任を負うものについて、話したことがありましたね。あの時の私には分かりませんでしたが……。今なら理解できます。大人としての、責任と義務。そして、その延長線上にあった、あなたの選択。それが意味する心延えも」
そこまで言って、彼女は一旦言葉を切る。
「あなたは、その本来の責務からすれば重すぎる物を背負ってきました。そして、やり切った。その後に
...K-9のことと、治安維持軍になったことを話しているのか。何故彼女が──ああ、そうか。
...いや、そんなはずはない。初対面の相手には話しようがない。
俺の中の疑問をよそに、彼女は語り続ける。
「...そうです。先生だけではありません。あなた達も...先生に最後までついて行った。そして、負わされた責任にも立ち向かった。先生1人だけでは、もしかしたらどうにもならない時があるのかもしれません。でも、あなた達がいれば、きっと。乗り越えられるはずです。ですから、先生を手助けしてあげてください」
彼女が語りかけたのは、俺の隣にいる彼ら。──そうだ。俺の
「ですから、先生。私が信じられる大人である、あなたなら。いえ、あなた達なら。この捻じれて歪んだ先の終着点とは、また別の結果を……。そこへ繋がる選択肢は……きっと見つかるはずです」
俺が彼らに信頼を寄せるように、彼女に寄せられた信頼を、義務を、責任を、任務を、果たさねばならない。
左から、彼らの胸元に書かれた名前を、己の眼に刻み込む。
パトリック・ミルトン少佐。
エリアス・フォン・ロマンスキー大尉。
アンドレイ・カスパー中尉。
ジョアン・コルト中尉。
俺の胸元に書かれた名前を、最後に見る。
ライアン・ジョナサン・ゴズリング大尉。
だから先生......どうか──
彼女の最後の言葉を聞き届けて、俺は──
キャラクター解説 コブ
コールサイン:K-9C→ヘルハウンド3
搭乗機: VX-23VTL テールコード:FP-00 11916 PEACEKEEPER 00 HWID-8961.26.5
本名、ジョアン・コルト。TACネームの由来は靴屋であることから。その技能を活かし、パイロットブーツを仕立て直したりすることもある。ブッキーに言わせれば、「うちの戦力の屋台骨がドライバーなら、裏方のそれは間違いなくコブだ」とのこと。
既婚者であり、子供が何人かいる。そのため、治安維持軍への昇格には最初猛烈に反対していた。現在は夫に靴屋業と子供の世話を任せている。
ちなみに、ヴィータがクリスタル・キングダムに条件を交渉した際には、彼女が子供達と会えるよう、休暇を増やすように取り計らっている。なおヘルハウンド隊ではドライバーに次いで戦意旺盛。34歳。