⑨ 金沢大学医学部(2006年):助教授が教授の裏金作りを大学に通報。しかし大学本部は「不正はなかった」としたばかりか、その通報の事実を教授に伝達。助教授は教授から、共同研究・実験室から締め出されるなどの嫌がらせを受け、授業のコマ数も大幅に減らされる。その後の調査で、裏金作りが露見し、教授は懲戒処分となったが、助教授にはその後も大学から嫌がらせが続いた。
⑩ 和歌山県の老人保健施設(2015年):施設を運営する医療法人理事長が、悪口を言われたとして入所者に暴力を振るう。警察が捜査に乗り出すが、理事長からの報復を恐れた職員は口を閉ざす。そうした中、理学療法士のスタッフが、事実を伝えるため、賛同する7人のスタッフと共に警察に出向くと、これに対して理事長は理学療法士を解雇した。
トラブルの渦中の人物に群がってくる有象無象
中でもトナミ運輸の闇カルテル(岐阜県の路線トラックの受注価格を大手で話し合って同額にしていた)を告発した串岡弘昭さんが会社から受けた仕打ちは、常識外れのものでした。串岡さんは28歳で告発したのですが、会社は串岡さんを退社に追い込むために、暴力団を使って脅迫したり、家族や親族に圧力をかけたり、さらには役員自ら串岡さん宅に押し掛けて夜8時から翌朝4時まで居座り、家族も寝られないような状況の中でひたすら会社を辞めるように説得し続けたりしたといいます(串岡さんの著書『ホイッスルブローアー=内部告発者』桂書房刊を参照)。
それでも串岡さんは、会社への抗議の姿勢を示すために、会社を辞めようとはしませんでした。その結果、告発以来27年間、閑職に飛ばされ、仕事といえば草むしりや雪かき、ストーブへの給油、布団の整理といった雑用ばかり。会社の席にただ座り続ける窓際人生を送り続けました。
給与は28歳からほとんど昇給しませんでした。名刺も与えられていませんでしたが、息子の就職のため必要になったため社に請求すると、肩書には「係長」とあったとのことですが、実際には係長補だったそうです。
2002年、串岡さんは会社に対して謝罪・慰謝料請求裁判を起こし、結果的に慰謝料200万円、財産的損害約1047万円、弁護士費用110万円で勝訴しましたが、彼の27年間がこの成果で取り返せたとは言えないと思います。
残念ながら、日本はまだまだ内部告発者の保護の重要性に気付いていない組織が多いのです。
私は串岡さんの著書から気になる一節を見いだしました。
告発から2年ほどが過ぎた頃。会社から激しい嫌がらせを受けていた串岡さんが、朝日新聞に自らの境遇を投書したところ、怪しげな人物が電話してきたというのです。
彼は、最初は同情するような話しぶりだったそうですが、途中から本性を剥き出しにしてきて、「告発した資料を渡してほしい。それを会社にもっていけば何千万円ものカネになる。その一部を串岡さんに贈呈する」と言ったそうです。もちろん、彼は断りましたが、渦中の人物の周りには、トラブルを元にカネをかすめ取ろうという輩が集まってくるのが常です。
斎藤元彦知事の出直し選挙でも、斎藤氏の周りになにがしかの利得を求めて有象無象が集まりましたが、串岡さんのケースと構図が似ていないでしょうか。斉藤知事と串岡さんでは立場は違いますが、おカネになりそうなトラブルや揉め事があると、嗅覚がすぐれた人物は必ず出てくるようです。
*初出時記述に、一部、