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御徒町でモスク建設に反対する人々へ:その排斥は「街の基盤」を破壊する

木曽崇国際カジノ研究所・所長
写真:イメージマート

近年、私が専門領域とする観光産業において外国人排斥論が猛威を振るっているが、同様の事例が私の身近にも発生し始めた。東京都台東区御徒町に計画されているモスク建設を巡り、一部の「外国人排斥論者」が反対運動の声を上げている。その起点となったのは、おそらく日本保守党所属の小坂英二氏による以下のポストだろう。

私自身は東上野から秋葉原/神田に至るこの地域で20年以上暮らしている地元民である。そして、その地元民として、このような排他的な動きには明確に反対の立場を取る。御徒町という街の歴史と機能を見れば、これらを異文化として排斥しようとするのは、街の成り立ちを否定する行為に他ならないからだ。

宝飾街のルーツ:下級武士の職人技が国際都市を創った

御徒町に元々住んでいたのは、江戸時代の「御徒(かち)」と呼ばれる下級武士たちだ。彼らは主君から与えられる禄だけでは生活ができなかったため、武具の飾り細工の加工から始まり、寺社仏閣の装飾金具の細工など、武士の傍らで職人として生計を立てていた。こうした職人としての技術や商売の基盤が受け継がれ発展した結果が、後にこの街が国際的な宝飾品取引の街へと発展した礎となっている。

御徒町は現在、日本最大級の宝石街として東京貴金属宝飾品卸協同組合が本部を構え、国内のみならず世界中から取引業者が集まる。宝飾品業はいまやこの街の中心産業となっているのだ。そして、御徒町が「国際的な多文化の街」として栄えたのは、この宝飾品という特殊性による。

経済基盤となった「機能的共生」:ムスリムコミュニティの必然

御徒町の「国際化」の側面に目を向けると、それは南アジア系の宗教コミュニティの変遷によって形成されてきたことがわかる。アジアの宝飾品業経営者にはインド系のジャイナ教徒が多く、彼らが日本最大級の宝飾品の取引地である御徒町に最初に移住した。ジャイナ教は非常に厳格な戒律を持ち、特に「嘘を禁ずる」教義を持つため、アジアの宝飾品業界では「最も信用できる」業者として確たる地位を占めてきた。

このジャイナ教徒が先行して定住したコミュニティへ、主に南アジアを中心としたムスリム(イスラム教徒)が合流してきたわけだが、その背景にはビジネス、生活、文化の三面からの明確な理由がある。まずビジネス面では、宝飾品の原料生産地が南アジアのイスラム教国に多いことに加え、国際的な買い付け業者としても中東系などのムスリムが多く関わっているためだ。そして、インド周辺の南アジアの国から移住してきたムスリムにとって、ジャイナ教徒が築いたインド系コミュニティは生活しやすく、この地に定住する大きな動機となった。さらに、文化的にも両者間の相互理解が働いており、たとえばジャイナ教徒の厳格な菜食は、同様に「食」に対して戒律を持つムスリムにとって食材面で代替となるという側面も存在する。

歴史と実態:モスクは街の機能を支えるインフラだ

こうして機能的共生が実現した結果日本最大級の宝飾街である御徒町には、ムスリムを含む外国人のコミュニティが長年の歴史を持ち、モスクは街の機能の一部として存在し続けてきた。事実、現在話題となっている施設の運営元である宗教法人アッサラームファンデーションは、2008年からこの地でモスクを運営し、地元に根付いた活動を行ってきた。今回のモスクの建設は、近隣で運営を行っていた老朽化した施設の代替えであって、地域にとって新しく降って湧いた話ではない。

御徒町にとって国際的な宝飾品取引の重要な担い手であるムスリムの人々と、その生活の一部に必要となるモスクは、街に不可欠なインフラの一部として長年共生し、成り立っているのだ。事実、私自身、このエリアでの20年余りの生活で、御徒町の外国人コミュニティと地元民との間で大きな軋轢やトラブルが起きたという話は聞いたことがない。

最近、主張が大きくなっている「違法滞在や不法行為を行う外国人には、お引き取り頂くのが当然である」という論理は、私も共有する原則だと考える。しかし、それを御徒町の「宝石商の街」という機能に長らく組み込まれ、共生してきた外国人コミュニティにまで広げ、無差別に「排斥」しようとするのは、あまりにも思慮が浅い。それは、御徒町という街の歴史と経済基盤に対する不理解であり、その行為は単なる差別に他ならない。

御徒町の事例は「江戸の職人文化」という日本の伝統と「国際商業」が結びつき、地域で多文化共生を成立させてきた象徴的な事例である。私は、この地域の歴史を尊重し、それを基盤として地域社会に根付いた外国人コミュニティとの共生を守るため、この排他的な動きに断固として反対する。

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国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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