「氷河期世代」が直面する“介護問題” 親と同居する未婚者「約72万人」が経済的に追い詰められる試算も 男性より女性が深刻な理由とは
「24時間365日の介護は、思った以上に大変でした」 関西地方に住む桶井道さん(52)は、介護のつらさを振り返る。 【アンケート結果・氷河期世代に聞いた】自分たちは置き去りにされていると思いますか? 2019年に父親(86)が難病を発症した。当時、会社員として働いていた桶井さん。仕事での成績にも納得し、第二の人生として長年続けてきた投資で暮らしていこうと考えていた。そうした中で父親の介護も必要となり、翌20年に会社を退職。在宅で投資と本の執筆をしながら、母親(80)と共に父親の介護が始まった。 母親は高齢でがんサバイバーなので、母親を気遣いながらの介護となった。父親の症状は日に日に悪化し、23年には要介護5の認定を受けた。 桶井さんは父親をトイレまで抱えて連れていき、入浴も介助した。夜は2階で寝ていたが、1階で寝る父親の部屋から物音がするたび、ベッドから落ちていないか気になった。介護に休みはなく、緊張感が途切れることもなかった。 投資家として成功したので経済的な不安はなかったが、体力的にもメンタル的にも限界に近づいた。朝起きるのがつらくなり、頭痛も続いた。医師から「このままだと介護うつになる心配があるから、対策を考えた方がいい」と言われた。 ■誰にでも起こり得る そこで父親を受け入れてくれる施設を探し、23年11月に、自宅と施設を行き来できる小規模多機能型居宅介護施設を見つけた。 父親はいま、完全に介護施設で暮らす。桶井さんは体力的な負担はないが、障害者手帳の申請や指定難病認定の更新、施設からの連絡の対応など、介護にまつわる事務手続きに追われるという。 「介護は自分に関係ないと思っていました。でも、50歳に近づいたら、誰にでも起こり得る可能性があると考えておいたほうがいいと思います」 桶井さんの経験は、就職氷河期世代に共通する課題の一端を示している。この世代が直面する大きな不安の一つが、親の介護だ。
就職氷河期世代の問題に詳しい、日本総合研究所主任研究員の下田裕介さんは次のように説明する。 「就職氷河期世代には団塊ジュニア層の一部も含まれ人口ボリュームが大きいため、親の介護に直面する人は増えていきます」 下田さんが総務省の「労働力調査」などを基に試算したところ、就職氷河期世代で介護に携わる可能性がある人数は、2023年の約75万人から、28年には約130万人、33年には約200万人に拡大していくことがわかった。 こうした状況下、下田さんは、この世代が親の介護に直面した場合、「上の世代以上に働き続ける必要性が高まる可能性が高い」と指摘する。 「理由は3つあります。まず、金銭的な負担の増大です。物価上昇や高齢化、長寿化に伴う介護費用の高まりで、家計への圧迫が避けられません」 2つ目は、共働き世帯が一般化しているため、家族だけで介護を担うことが難しくなっていることだという。 「3つ目は、賃金水準の低さです。就職氷河期世代は上の世代と比べ正社員の実質賃金が月8万円前後低く、貯蓄が100万円未満の割合も少なくありません。こうしたことから、仕事を辞めて介護に専念するのは非常に難しいのが現状です」 ■手取りで月20万円ほど とりわけ厳しいのが、親と同居する未婚者だ。 「不安しかありません」 関東地方に住む女性(49)は、こんな言葉を口にする。 30年ほど前に短大を卒業したが、正社員への道はなく、非正規雇用で雇い止めを繰り返しながら働いた。いまは事務の派遣をしている。給与は手取りで月20万円ほど。一人で生活するのは厳しいので、母親と同居してきた。 母親は80代半ば。まだ自分のことはできているが、数年前から歩く時は足を引きずるようになった。転んで骨折でもしたら、一気に寝たきりになり介護が必要になってくるのではないかと、心配になる。 女性は独身で、きょうだいもいない。父親は十数年前に亡くなったので、母の介護を担うのは自分しかいない。