「自衛隊は危険な存在」という世界観をいまだに訴える東京新聞と教師たち 有事に彼らは誰に助けを求めるのか
自衛隊員の子どもである教え子に「あなたの父親は人殺しを仕事にしている」と言った教師がいる――そんな話がかつてはよく取り上げられたものだが、災害現場での活動や海外での平和維持活動の実績から、多くの国民にとって自衛隊のイメージは昔とは比べ物にならないくらい良くなった。
が、きっかけがあればネガティブな伝え方をしようとするメディアがあるのも事実。
東京新聞が9月に大々的に取り上げた「子ども版 防衛白書」の記事からは、自衛隊を危険な存在として捉える世界観が透けて見えてくる――その問題点を、ライターの梶原麻衣子氏は指摘する。
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学校で「懸念噴出」?
〈子ども版防衛白書 防衛省が小学校に配布 懸念噴出〉
東京新聞がこう報じたのは2025年9月17日。全日本教職員組合(全教)が10日に開いた会見で「子ども版 防衛白書」の配布を批判したことを受けての記事だ。一部の自治体では、配布された資料を〈配慮が必要だとして職員室で保管して対応するケースも〉あると東京新聞は書く。
せっかく税金をかけて印刷した冊子を職員室で寝かせておくことの意味を問いたいところだが、東京新聞の関心はもちろんそのようなところにはない。東京新聞の記事が〈政府が教育現場に防衛を持ち込む動き〉と仰々しく書くように、「子供に『防衛』や『自衛隊』との接点を持たせるのは、危険極まりない」と考えている節が端々からうかがえる。
記事によれば、防衛省は2021年から毎年作成しネット上で公開してきた子ども向けの防衛白書を24年版から小学校に配布することとした。そこで防衛省は〈各都道府県の教育委員会に相談し、調整できた地域の小学校へ配布した〉という。配布を受けた中には扱いあぐねて保管している学校もあるということだが、何も防衛省が一方的に押し付けているわけではない。
全教は〈7月に防衛省と文科省に送付中止と回収を要請した〉というが、防衛省が〈各都道府県の教育委員会の判断〉に任せると回答したのも当然だろう。全教は批判相手、要請先を間違えているのではないだろうか。
全教側は特に問題だと考える箇所として、ウクライナに関する記述について〈不確実なことに基づいており、軍事拡大を正当化している〉と指摘する。
彼らが問題だとする「子ども版 防衛白書」とはどのようなものか。中身を見てみよう(なお、この白書はネットで無料ダウンロード可能である)。
「子ども版 防衛白書」では〈自衛隊員や装備品、任務や活動について詳しく見てきたけど、なんでこんなにたくさんの人が、いろんな装備品を使って、24時間365日厳しい訓練や任務を行っているんだろう?〉という問いに対し、〈いざという時、他国の攻撃などから日本や国民を守るために自衛隊はいます〉としている。
また〈ロシアによるウクライナ侵略で明らかになったように、国家間の戦争はいつ起きてもおかしくありません〉として、次のページで〈戦争が起きないようにするための抑止力を強くします〉と述べている。
だが全教が言う「不確実」さを問題視しなければならないような、ウクライナに関する細かい記述は見当たらない。
また、ロシアについて「子ども版 防衛白書」にはこう書かれている。
〈(ロシアは)ウクライナ侵略だけでなく、日本周辺でも活発な軍事活動を続けています。軍の装備を新しくしており、北方領土を含む日本の周りで活発な活動を続けています〉
〈最近は、中国とロシアの船や飛行機が一緒に日本の周辺で活動したり、ウクライナ侵略を続けるロシアに対して北朝鮮がミサイルや兵士を送ったり、日本の安全保障環境が厳しくなっています〉
こちらも淡々と事実を記すのみだ。ところが東京新聞の記事では、教育行政学が専門の中島哲彦・名古屋大名誉教授のこんな言葉を紹介している。
〈(教育現場で使うにあたっては)例えばロシアについても「ウクライナ侵攻で悪いように見えるけれど、いろいろな側面があるよと伝えて、先入観を解きほぐす」と教師の配慮を紹介する〉
要するにウクライナ侵攻に関しても「ロシアが悪い」と教えるだけではないことが教育的「配慮」であるというのだ。
確かに戦争にいろいろな側面があるのはその通りだろう。だが、戦争を起こさないための自衛隊、抑止力を高めるための備えについて「軍事拡大」と危険視して冊子の配布さえ拒むことを肯定している記事の中にあっては、バランスを欠く。ロシアはこの21世紀の世の中にあって、「軍事拡大」をした上に隣国を侵略しているのだ。
なお、そのロシアに対しては配慮しても、「先の大戦も日本が悪いように見えるけれど、いろいろな側面がある」などという配慮が、教育現場並びに東京新聞で提示されることはめったにないことも合わせて指摘しておきたい。
「自衛隊=危険」という世界観
軍事拡大はまさに中国と北朝鮮が行っていることであり、「子ども版 防衛白書」は平易な言葉ながら、安全保障環境の悪化と、それに備えるための自衛隊という存在を説明しているのだが、「自衛隊=軍=危険」の構図で見れば、「こんなものを小学校で配るなんて!」となってしまうのだろう。
自衛隊という組織やあり方に問題があれば批判すべきである。その点で、パワハラ問題などはメディアも取りげるべきだろうし、自衛隊側も解決すべき課題である。だが軍事について、安全保障について、そして自衛隊について知らなければ、まっとうな批判も検証もできない。まずは土台となる認識を持つべきだろう。
その点でいえば、「子ども版 防衛白書」は大人が読んでもためになる内容だ。自衛隊の組織や自衛官の生活の他、英米やフィリピン、ベトナムとの防衛協力の取り組み、自由で開かれたインド太平洋(FOIP)構想などについても解説している。子供たちに配布されず職員室で塩漬けになっている冊子を、東京新聞社内で配ってはどうか。
人手不足解消を狙うのは悪いことか
防衛省が「子ども版 防衛白書」を作成し小学校への配布を考えたのは、自衛隊の活動や安全保障の実情に関心を持ってもらいたいとの動機と同時に、リクルートに生かしたい面があるのは確かだろう。
冊子で自衛官の食事の様子や音楽祭りのような人気イベント、ブルーインパルスを取り上げているのは、確かに子供たちの関心を引くためであろうし、できれば将来の就職先として自衛隊を選択肢の一つに入れてもらいたい、という思いもあるだろう。
そうした思いの背景には、自衛隊が直面している隊員募集の厳しい現実がある。
2025年6月10日に開かれた「自衛官の処遇改善に向けた関係閣僚会議」では、定員は約24万7000人のところ、充足率は89.1%と発表されている。「なんだ、それでも定員の9割近くもいるなら大丈夫じゃないか」と思う向きもあるかもしれないが、定員は現在の安全保障環境を基に、どこにどれくらい人員が必要かを積み上げた上で算出し、それに基づいて訓練計画や人事を練っている。実際の人員が計画よりも10%も足りないとなれば計画通りの防衛体制を敷くことができない。
「人手が10%足りないので、災害派遣や有事の際に助けられる国民の範囲も10%減でご了承ください」とはいかないため、現場には無理が生じてくる。そうした無理が、東京新聞も問題視する組織内パワハラに影響している可能性も考慮しなければならない。
人手不足と安全保障環境の悪化から、陸上自衛隊は富士火力演習の一般公開を取りやめている。近年、入場券はプラチナチケット化し、一般向けにショー的な見せ方も増えていたが、広報的には大きな意味があった。にもかかわらず、一般公開を取りやめ、より実践的な演習に切り替えなければならないほど、人員確保と安全保障環境という二つの要因で状況が深刻化しているのが自衛隊の現在だ。
日本全体が若手不足、人手不足に陥っている中、高齢者や外国人労働者に頼ることができない自衛隊が人員確保に焦るのは当然だろう。その「焦り」を感じ取ったならばなおのこと、冊子配布に理解を示してもよさそうなものだ。
〈自衛官確保に苦戦…にじむ焦り〉〈若い世代にアプローチして人材を集めたいという意識が透けて見える〉
同じ記事の中で、なぜか上から目線でそう書いて見せる東京新聞。だが、自衛官の確保が難しくなって困るのは日本国民であり、その中には東京新聞社員も含まれるのである。
梶原麻衣子
1980年埼玉県生まれ。中央大学卒業。月刊「WiLL」、月刊「Hanada」編集部を経て現在はフリーの編集者・ライター。著書に『「“右翼”雑誌」の舞台裏』(星海社新書)。
デイリー新潮編集部