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海外諸国の非実在ポルノ規制と性犯罪率

背景

 非実在の表現に対する規制が懸念されています。表現規制派は、非実在児童ポルノによって、「未成年に対して性的な犯罪をしてもよい」という社会通念の形成を懸念しているようです。実際に先進国における非実在児童ポルノの規制と性犯罪率の関係を調べてみました。なお、国別の児童の性的虐待のデータの取得が難しかったため、性犯罪率で代用しています。


検証方法

 「ポルノと性犯罪の関係」については、すでにいくつも論文があります。ポルノと性犯罪については、関係がある派とない派はどちらも存在します

しかし、「非実在児童ポルノの規制と性犯罪率の関係」については、検証されている論文が見つからなかったため、今回簡単な検証をすることにしました(見つけられなかっただけかも)。

いくつかの先進国から、非実在児童ポルノの規制について「制作」「配布」「所持」の観点から表現の自由度を算出し、性犯罪率との比較を行いました。表現の自由度は、完全に自由であれば1、何かしらの制限がある場合に0.5、完全に禁止であれば0です。各3項目について3段階評価を行っており、その平均を表現の自由度としました。全7段階評価になります。

表現の自由度には、各国のウェブサイトや判例、および下記サイトを参考にして点数をつけています。ただし、非実在児童ポルノに関してのデータや規定がそもそも無い国に関しては、暫定で0.5をつけています。

 例えば、アメリカ合衆国では、非実在児童ポルノは公序良俗に反するとされています。販売・流通・単純所持どれも禁止されており、実刑判決となります。ただし、その性的な漫画や彫刻・フィギュアなどが文学的、政治的、科学的、芸術的価値を持つと判断された場合は、その限りではないようです。このような場合の表現の自由度のスコアですが、なんらかの価値がある限り自由が認められるとして、制作・配布・所持を0.5点ずつつけています。これらの得点の平均値を表現の自由度としています。実際にはなんらかの価値が見いだされるのは難しく、実質0点のように思いますが、主観が入るのを防ぐため、このようなルールとしています。

 なお、各国の性犯罪率はUnited Nations Office on Drugs and Crime(UNODC: 国連薬物犯罪事務所)のSexual violenceのデータを用いました。性犯罪率とは、10万人あたりの性犯罪の件数です。(未成年に対する性犯罪率の適切な参照先があればどなたか教えていただきたいです。)

アメリカのデータがUNODCには無かったため、こちらのデータと人口から算出しました。


性犯罪として認知されない、いわゆる暗数については、各国とも調査を行っております。日本では法務省などが定期的な調査を行っており、アンケートによって「性的被害を受けたことがあるか」という調査をしています。この数字と、認知された件数を比較することによって暗数を明らかにする、というものです。下の表は2005年の調査になります。

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この暗数は調査によって数字が異なり、諸外国も媒体によってばらつきがあります。これを使ってよいのかすぐに判断がつかないこと、またすべての国を調べきれないことから今回は保留とさせていただきます。ただし、日本は比較的低水準で、後述する分析について、何か不都合のあるものではないとして、今回は認知された件数をそのまま性犯罪率として扱います。

性犯罪の基準についてですが、各国の法規定が異なるため、単純に件数を比較する際は慎重になる必要がありますが、今回は統一された基準での比較になります。The International Classification of Crime for Statistical Purposes (ICCS) という統計目的のための国際犯罪分類があります。ICCSは犯罪に関する統計を作成するための包括的な枠組みで、ICCSにおける犯罪行為の記述は、法律上の規定ではなく、行動に基づいています。今回のデータも、ICCSの犯罪行為のカテゴリーに準ずる形で報告がなされているので、性犯罪の基準はほとんど問題にならないと考えます。


表現の自由度と性犯罪率

 先進国として、30ヵ国を選択し、表現の自由度と性犯罪率を表にしました。

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これを、グラフにすると次のようになります。

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日本は、表現の自由度が高く、性犯罪率の「比較的」低い右下に位置しています。性犯罪率は各国の教育水準、経済状況、社会情勢、性犯罪抑制への取り組み、道徳観念、...など、多数の結果表れるものです。これは、その変数のうちのただ1つ、表現の自由度という軸で切り出したグラフです。

表現の自由度が高い(低い)国ほど、性犯罪率が低い(高い)という関係が見えます。しかし、ここで注意しなければならないのは、このグラフのみで、「性的表現の規制(自由)によって性犯罪が増える(減る)」という因果関係は断言できないことです。ただ、「性表現の自由度が低い(高い)国では性犯罪率が高い(低い)傾向がある」ということだけが言えます。

疑似相関の可能性もあるので、相関関係にも注意しなければなりません。例えば、「タバコをよく吸う人はコーヒーをよく飲む」「タバコをよく吸う人は病気になりやすい」という2つの相関があったとして、「コーヒーをよく飲む人は病気になりやすい」とはなりません。今回の表現の自由度vs性犯罪率の相関も、他の変数によって媒介された相関である可能性があります。

前述したように、今回の統計データは、ICCSによる、「法規定でなく犯罪行為基準」の性犯罪率になっています。「性表現の自由度が低い(高い)国では性犯罪率が高い(低い)傾向がある」のは事実です。他の因子を考慮した詳細な分析が必要ですが、ただこの時点でも規制派が主張するような「性犯罪を減らすために性表現を規制する」というのはまったくデータに基づいていないことがわかります。

日本は、海外諸国から性的な創作物にあふれていると揶揄されているようですが、むしろ国際的に性犯罪の少ない国です。国連の是正勧告などを根拠に性表現の規制を主張する方々には、権威を笠に着るのではなく、表現規制に足りうる根拠を示していただきたいと思います。


日本の性犯罪について

ただし、国際的に見ても、日本は「比較的」性犯罪率が低いとは述べましたが、依然として性犯罪に苦しむ人が多くいるのは事実です。公開の許可をいただきましたので一部抜粋して掲載しますが、次のようなDMをいただきました。(言うまでもないですが、最初から最後まで丁寧に対応していただきました。)

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この他にもいくつかやりとりは続くのですが、この方のコメントを要約すると以下の2点になります。

「性犯罪を減らすために表現を規制するのはデータに基づかない」という主張には同意する。しかし、自身も知人も多くが性的な被害にあっており、ほとんど泣き寝入りの状態。このような実態を見て、日本の性犯罪が少ないとは言えない。

国際的に見て日本の性犯罪が少ないのは認めるが、そもそも日本は犯罪そのものが少ない。「全犯罪数から見た性犯罪の割合」を比較するべきでは。

1点目について。

私も「日本の性犯罪数は絶対数として少ない」とは主張したつもりはなかったのですが、そう解釈されかねない、あるいは性犯罪の被害者の方を傷付けるような文言だったかもしれません。お詫びして訂正します。

性犯罪の被害にあわれた方を軽視するつもりはまったくありません。「国際的には日本は性犯罪は比較的少ない」ですが「日本の性犯罪は実感できるほど身近にある」のです。この方から次のようなアンケート結果をいただきました。

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投票数20,617票のうち、選択肢にあるような「性的被害にあったことがある」と回答した人は74%にのぼります。「対象が女性のアンケートでも男性ユーザが回答が可能」なこと、「Twitterユーザの(女性の)分布は、実社会と異なるであろう」こと、また「オンライン上のアンケートは複数アカウントによって一人が複数回答することも可能」なことから、この結果を鵜呑みにはできません。また、この数字は法務省の暗数の調査結果と大きく異なるため、どう理解すればよいかは議論が必要です。しかし、多くの女性が性的な被害にあっている実態がうかがえます。


2点目について。

そもそも日本は犯罪そのものが少ないので、「全犯罪数から見た性犯罪の割合」を比較するべきではという意見です。失礼な意味ではなく、非常におもしろい意見だと感じました。これらデータを集めるのは容易ではないので、少し時間はかかりますが、検証してみようと思います。


最後になりますが、(度々勘違いされましたが)私は性的な表現を社会にあふれさせたいわけではありません。また、「性的な表現が社会に増えることによって性犯罪が減る」というわけでもありません。あくまで、「性犯罪を減らすために性的な表現を規制するのはデータに基づかない」という主張です。


まとめ

・非実在児童ポルノについて、一定のルールに従って各国の表現の自由度(規制度)に得点をつけました。

・因果は断言できませんが、規制の厳しい国ほど性犯罪率が高い傾向があります。

「性犯罪を根絶するために表現を規制する」はまったくの無根拠。現状、性犯罪に苦しむ方が多数おられます。表現規制などではなく、性犯罪を減らすための適切な対策を求めます。データは割愛しますが、例えば、性教育にリソースを費やす方が、性犯罪の減少に効果があるようです。

・重ねて言いますが、「性的な表現が社会にあふれることによって性犯罪が減る」という主張ではありません。


今後の展望

暗数各国の性犯罪の基準が違うという問題を回避する手法として、ひとつの国に絞ってデータを見ることが考えられます。例えば日本の性犯罪率の経年データですが、年々低下しています。

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一方で、非実在児童ポルノの規制の厳しい国ではどうでしょうか。韓国とフランスの例を見てみます。

韓国

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韓国では、「児童・青少年の性保護に関する法律(アチョン法)」が2000年に施行されています。また、2011年には、「青少年に見えるキャラクターの性描写があるマンガ・アニメの頒布等を禁止」「単純所持も同時に禁止」「厳罰化」と、規制が厳しくなっています。


フランス

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フランスでは、もともと児童ポルノは禁止されており、実在する未成年者のポルノの特性を持つ画像の製造と配布が禁止されていました。この法律が1998年に改正され、非実在青少年の描写も禁止になっています(厳密には「representation」という曖昧な言葉により、広義に解釈すると実在人物とは何の関係もない絵画や描画も規制となっている)。結局、非実在青少年の「描写」は1998年に、そして単純所持も2002年に禁止されました。

その他、スウェーデンでは、1999年時点で強姦件数が約2000件だったのが、この年の規制強化から著しく被害件数が増加しており、2010年には約6500件と3倍以上になっています。

先のデータでは、「表現を規制することによって性犯罪が増える」とは言えないとしました。また、前述した通り、性犯罪率は各国の教育水準、経済状況、社会情勢、性犯罪抑制への取り組み、道徳観念、...など、多数の結果表れるものです。しかし、規制の厳しい各国のデータから考えると、表現を規制することは、性犯罪の抑制に効果がないどころか悪影響もありうるのです。これもまだ断言はできませんが、前述の通り、各国の経済状況などと合わせて調査する必要があります。


各国の性犯罪の経年データと表現の規制については、今後の展望とさせていただきます。

また、経済状況や性犯罪の基準などの他の変数も考慮してデータを集計したいと思います。

また、DMでも助言いただいたように、各国における「全犯罪数に対する性犯罪の割合」も調べてみます。


繰り返しになりますが、決して「性的な表現が増えることによって性犯罪が減る」と言っているわけではありません。また、性的な表現を社会にあふれさせたいわけではありません。

ただ、無根拠な「性犯罪を減らすために表現を規制する」ではなく、性犯罪根絶のための適切な対策を求めているだけです。


参考までに世界のレイプに関する統計も載せておきます。

身近な国で言えば韓国やオーストラリア、世界的に見れば北欧などの強姦件数が非常に多いです。どれも性的表現規制の厳しい国です。

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コメント

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かんざき
かんざき

こんにちは。海外で性に関する研究をしている者です。
記事、興味深く読ませていただきました。
科学的な立場から、単純に相関を見出すことは極めて難しいという分析に至ったこと、おおむね同感です。また、性犯罪被害を軽視したいわけではないという意図や、多くの性犯罪被害者にとって発信のひとつひとつが重大な意味を持つということに配慮して書かれておられると感じました。

ただ、記事の「ポルノと性犯罪率」の枠を出て、「ポルノと性的問題行動・認知の関係」について考えたり、コメントやTwitterについている・いるであろうこの記事の引用され方などを見ると、言いたいことがでてきたのも事実でした。(いちゃもんではなく、自分も意見をしてみたいという意味で)

かんざき
かんざき

・インターネット、グローバル環境の度外視
有名な話ですが、世界の性用語には、日本語由来のものが数多く存在します。Hentai=二次元ポルノ(主に成人向け漫画)、Bukkake=顔面に射精すること、Futanari=ファンタジー上の両性具有などです。また、中国や韓国など、ポルノの製造が日本と比較し厳しく取り締まられている東アジア圏では、日本のポルノが大変な人気と知名度を誇っています。
それに代表されるように、日本における性表現の自由さ=日本にのみ影響を及ぼす、というわけではありません。どちらにせよ、日本における性犯罪率が他国と比較して低いことには影響しないかと思いますが、日本で生産されて海外の性犯罪率に仮に影響していた場合、表現の自由度の高さと低い性犯罪率の関連性は証明が難しくなる可能性があります。こうしたことを考えると、注意する価値はあるかと思います。

かんざき
かんざき

・性的同意、ジェンダーステレオタイプの認識とポルノの関係
性犯罪率に影響がないことと、性に関する知識や認識に影響がないことは別です。
統計という人口の全体を眺める手法ではなく、ケーススタディに話を絞った場合、事実としてポルノの模倣犯罪や犯罪者の歪んだ認知は存在します。ポルノは性行動や認知に影響する場合もあります。
一般大衆に目を移しても、「安全日」という学術的には存在しない、「いやよいやよも好きのうち」は誤りであるなど、ポルノ経由で誤った知識が普及または維持されているケースは往々にしてあるかと思います。

かんざき
かんざき

・発信の仕方次第では、アンチフェミニスト、ミソジニストの餌になりかねない
コメントにもいらっしゃいますが、「お気持ち表明」「ツイフェミ」など、残念ながら社会には、女性が実体験を元に攻撃ではなく意見を発信しただけで口を塞ぎ、攻撃し、事態を矮小化しようとする人たちもいます。(ツイッターの一部には、ミサンドリストで真のフェミニストではない方も数多くおり、その結果彼らの誤解を招いている部分もある思います。)
周囲の知人友人から得た情報も、質や客観的妥当性こそ議論の余地が大いにあれど、データであることに変わりはありません。全くの無価値という論調でコメントされていますが、おによめさんもご認識の通り、ケーススタディの原型であり、まさにこうした気づきや疑問がシステマチックレビューの原点になるのが科学の世界です。
私が残念なのは、おによめさんに防ぎようがなくとも、これら記事が彼らの餌になり、「俺らは何も悪くない、黙ってろ」という主張を増強することです。
但し書きや補足としてではなく、人権問題は明確に存在し、これらの主張とは明確に袂を分かつという前提から出発する記事であったら嬉しかったなと感じました。

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