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犯罪白書から見る日本の性犯罪

〈この記事のポイント〉
・日本で女性が性犯罪被害に遭う可能性は諸外国に比べ相当低い
・警察に訴えればほとんどの場合は犯人が逮捕され有罪になる
・テレビやSNSの情報に流されて過剰に怯えないでも大丈夫

性犯罪に関する議論はとかくSNSでは白熱しがちで、事実や統計などに依らずもっぱら感情の応酬に終始してしまうことがしばしばある。ここ数年そのような光景を眺めていてこれはたいへん不毛だなぁと思ったので、一度犯罪白書に掲載されているデータから、日本における性犯罪を客観的に把握してみたいと思う。

事実を客観的に把握することはとても重要なことだ。なぜなら、それ無しには適切な支援や立法はできないからだ。たとえば、ある街で殺人がスーパー多発している事実があるのなら、その街に監視カメラを設置することは有効な犯罪対策となるかもしれない。しかし、もしも「殺人がスーパー多発しているというネットの情報やイメージ」があるだけで、実際には殺人がスーパー多発していない場合には、その街に監視カメラを設置しても殺人抑止効果はないだろうし、監視カメラによるプライバシーの侵害という弊害の方が大きくなってしまうだろう。

また、災害ボランティアの例を考えてみてもわかりやすい。災害ボランティアにおいて重要なのは需要と供給の一致であり、最近よく言われることだが、たとえ善意からであっても被災地に不要な物資の過剰な供給であるとか、ボランティア作業能力の無い人が被災地に大量に入れば、逆に被災自治体側の負担が増し、被災者支援に支障を来すことさえある。

こうしたことから、性犯罪の防止や被害者救済を考えるならば、まず第一に把握すべきは客観的な事実であり、SNSでの口げんかや主観的な思い込みなどではないことがわかると思う。性犯罪被害を少しでも少なくしようと思えばこそ、データを見ることが求められるのであり、この記事がその一助となれば幸いである。

※主な図表は「令和6年版 警察白書」から引用したが、「治安に関する世論調査」の図表のみ内閣政府広報室のホームページから引用した

1. 日本の犯罪発生件数は基本的に2003年以降下がり続けている

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まず確認しておきたいのは日本の犯罪件数は平成14年(2002年)以降ほぼ一貫して下がっているということだ。新型コロナ禍が影響しているのか令和3年(2021年)以降は微増に転じているものの、それでも令和5年(2023年)に令和1年(2019年)の水準に近づいたという程度に過ぎない。

こうした統計を頭に入れておく必要があるのは、人々が主観的にそう感じている体感治安は、犯罪統計から導き出される実情(つまり日本はかなり安全だということ)から解離している可能性があるからだ。

内閣府政府広報室は2021~2022年に「治安に関する世論調査」を実施・公表している。それによれば、実際にはその時点2021~2022年から見て過去10年間は一貫して犯罪件数が低下しているにもかかわらず、「ここ10年で日本の治安はよくなったと思いますか」という設問では、「よくなったと思う」44.0%に対して「悪くなったと思う」54.5%と、「悪くなったと思う」の方が多い。

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このように犯罪件数の実際と体感治安の間にズレが生じている理由はさまざま考えられるが、憶測を述べるなら、テレビやネットといったメディアの利用が影響しているのではないかと思う。

たとえば、日本の犯罪統計上もっとも数が多い罪種は窃盗で、これは犯罪認知件数全体の68.6%をも占めるが、にもかかわらず窃盗の犯罪報道に触れる機会はおそらく少ないのではないだろうか。その代わりテレビやネットで多く取り上げられるのは殺人や不同意性交といった凶悪犯罪であり、その結果、それらの報道に触れた人々が「世の中は凶悪犯罪が多発している」と感じるのは、自然なことのように思える。

しかしながら、テレビやネットではあまり取り上げられない窃盗が認知されている犯罪件数全体の68.8%を占める一方で、テレビやネットで頻繁に取り上げられる殺人や不同意性交は認知件数全体からいえばほんの一握りというのが事実であり、殺人は0.1%、不同意性交は0.4%程度に過ぎない。

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すべての犯罪をテレビやネットで報道できる余裕がない以上、報道重要度の高いと考えられる凶悪犯罪ばかりが犯罪報道を占めるのは、仕方の無いことではある。したがって、体感治安と実質治安のズレを正すためには、テレビやネットで報じられている凶悪犯罪は実は全体のごく一部で、実際にはすごく珍しい事件であると、ユーザーの側が理解する必要があるのではないかと思う。

2. 犯罪加害者数と犯罪被害者数のどちらも女性より男性の方が多い

犯罪加害者の男女比を検挙人員から見ると、男性が78.5%、女性が21.5%となっており、犯罪者は圧倒的に男性であることがわかる(とくに不同意性交等はほぼすべてが男性)。これは統計開始以降一貫した、おそらくは世界的な傾向である。

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しかしながら認知された犯罪の被害者統計を見ると、女性被害者が占める割合は34.8%であり、不同意性交等の性犯罪に限れば被害者のほぼ全員が女性であるものの、殺人や暴行といった暴力犯罪においても、被害者は男性の方が多い。

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犯罪加害者の男性比率が78.5%であるのに対して、犯罪被害者の男性比率は65.2%なので、女性の方が加害者と被害者の比率に開きがあるとも言えるのだが、性犯罪を除いては、男性の方が女性よりも被害に遭いやすいというのが犯罪統計からは読み取れるのである。

3. 性犯罪の検挙数は80%程度と高い水準にある

下の図は不同意性交等およびの認知件数・検挙件数・検挙率のグラフであり、これを見てまずわかるのは令和5年(2023年)には認知件数が、とくに不同意性交で倍近く跳ね上がっているということだが、これはこの1年で急激に性犯罪が増加したということではおそらくなく、2023年に従来の強制性交等罪および準強制性交等罪が改正され不同意性交罪が新設されたことにより、それまでは表に出ていなかった性犯罪被害が不同意性交等の罪状で受理・立件されるようになったためだと考えられる(なお不同意性交罪の新設に合わせ、同意のない性行為等の撮影などを罰する通称「撮影罪」も改正されている)

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この検挙率80%程度という数値をどう判断するかだが、殺人の95.6%や強盗の90.5%に比べると低いものの、傷害の81.0%とはさほど差がなく、詐欺の36.2%と比べると著しく高い。

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日本の刑事事件は有罪率が98%とも言われており、検挙=起訴ではないもの(検挙されても検察が証拠不十分と判断し不起訴にすることがある)、検挙率が80%程度であれば、ほとんどの性犯罪加害者は有罪になっていると考えてよい。もちろん検挙数は100%に近いに越したことはないので、今後検挙数をどこまで上げられるかは大きな課題であると考えられる。

4. 諸外国に比べ、日本の性犯罪発生件数は著しく低い

犯罪白書では例年、国連薬物・犯罪事務所(UNODC)が発表している犯罪統計データ「dataUNODC」を参照して、日本の犯罪発生率と諸外国の犯罪発生率を比較している。その中から殺人および性暴力(国連定義に従っているため、この項のみ性犯罪ではなく性暴力で統一されている)の数値比較を抜粋する。

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一見してわかるのはアメリカの犯罪発生件数が鬼エグすぎるということだが、それ以外の顕著な違いは、日本の性犯罪発生件数が比較対象となっている先進国と比べて著しく低い点である。

こうした事実を確認しておくことは次の点で重要であるように思われる。近年SNSを介してインターナショナルな反差別運動が展開されているが、Xやフェイスブックなど主要なSNSはアメリカ発祥であることから、こうした運動は基本的にアメリカの実情に即して、アメリカ在住のユーザーによって主体的に行われているものと推測することができる。しかしながら上記の数値比較からも一部わかるように、社会の中の差別状況は国によってまったく違う。アメリカ、イギリス、フランスの性犯罪発生件数はあまりにも多いが、他方で日本においては著しく低いのであれば、アメリカおよびイギリス、そしてフランスの社会における性差別意識は非常に強いものと考えることもできる。

先に述べた災害ボランティアの例のように、需要と供給の一致しない支援は、効果を生まないばかりか時として逆効果さえ生む。したがって反差別運動もまた各国ごとの実情に即して行われるべきであり、アメリカ社会などに蔓延する性差別意識を世界共通のものと捉え、アメリカ同様の反差別運動を他国で行うことは、誤りであるように思われる……が、SNSという国境のないプラットフォームでは、それぞれの国の実情の違いがユーザーに意識されにくいため、こうした実際のデータを知ることが重要なのである。

5. ほとんどの女性は少なくとも日本では性犯罪に遭うことがない

先程も引用した図を再び参照し、そこから性犯罪に分類される罪種(不同意性交等、不同意わいせつ、撮影罪等)を抜き出して合計すると、2023年に認知された性犯罪の被害者数は1万1345となる。性犯罪被害者はほぼ女性であることは先の項で確認したので、これはとりあえず全数女性と考えてもらって問題ない。

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総務省統計によれば日本の総人口は2024年7月の時点で1億2374万人であり、女性はその半分なので、日本の女性人口はざっくり6000万人ということになる。このふたつの数字を計算機に入れると、日本で1年の間に性犯罪被害に遭っている女性の割合は女性全体の内0.018%となる。

比較のために上記の図から傷害の被害(暴行が適切と思うが図中の数値が誤っており、%表示になっているため)を受けた男性を抽出すると1万3916となり、概ね性犯罪被害者と同じ程度になる。これに暴行の数値を加算すると、1年の間に暴力犯罪(性暴力含む)の被害を受ける可能性は男性の方が高くなり、要するに、ほとんどの女性は男性よりも安全だということが言える。

6. まとめ:心配しないで大丈夫

以上さまざまな統計を見た上で、再び記事の先頭に掲げたこの記事のポイントを確認したい。

・日本で女性が性犯罪被害に遭う可能性は諸外国に比べ相当低い
・警察に訴えればほとんどの場合は犯人が逮捕され有罪になる
・テレビやSNSの情報に流されて過剰に怯えないでも大丈夫

SNSを見れば、日本は女性の安全がまったく確保されていない外を一人で歩くのも危険な超野蛮国だという風に考え、パニックになってしまっているような人も男女問わず散見されるが(むろんそれは単にそうした人は目立ちやすいというだけのことであり、実際の人数はごく少ないと考えられる)、それは事実から言えばまったくの誤りなのである。SNS、とくにツイッターのような拡散行為の推奨されるプラットフォームでは、そうした誤った情報や意識が拡散されやすい。そして一度拡散されてしまうと「現に拡散されているから」と、それが事実であるかのように感じられてしまうものだが、そのことで心身を害す人がいるのであれば、これは悪い情報・意識であると思う。

統計を見れば、こうした誤った情報や意識を修正することができる。犯罪白書は毎年発行されており、誰でも無料でダウンロードすることができるので、犯罪に関して不安なことがあれば、SNSの情報に頼るのではなく、まずは犯罪白書に目を通してみることをオススメします。

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