2学期が始まり、一之瀬、神崎、姫野、二宮と屋上でご飯を食べながら船上試験について振り返っていた。各グループの経過を話していたが、答え合わせを始めていた。何故、このメンバーかというと、静かな生徒と頭が良い生徒を集めたからだ。浜口も呼んだが、都合が悪かったらしい。
一之瀬「干支の動物の順番と生徒の名字が優待者を探し出す鍵だったんだね!」
二宮「その法則ってとてもシンプルじゃない?」
神崎「答えを知ったからそう思うだけだろう」
綾小路「神崎の言う通りだ。試験中にこの法則まで辿りつける奴はそうはいない。これは自クラスだけの優待者だけだと予想はできても確証は得られない」
予想できても答えられるはずはないだろうな。オレでも確証を得るまで解答しなかった。万が一、外せば大きなダメージ受ける。いわばこの試験は、ハイリスクハイリターンだったというわけだ。
姫野「それなのに龍園はそれに気づいたんだ...でも何で気づいたなら全部当てなかったの?そうしたら+450ポイントでしょ。今頃Aクラスになってたでしょ」
姫野は気づいていないようだが、今回の試験で大事なのはそこじゃない。龍園がどうやって確証を得たかだ。龍園はそこまで勉強ができるわけではないが、馬鹿ではない。Cクラスにオレが知らない優秀な参謀がいるか、もしくは、他クラスから情報を得たか。後者であれば異常かつ緊急事態だ。クラス対抗の試験で自クラスにデメリットしかなく教えるメリットがない。しかし、なんらかの協力関係にあることも否定できない。今後、このような試験があれば確実に詰むためBクラスじゃなかったとしても突き止めるべきだろう。
綾小路「さあな。龍園と話すことがあったが、その時はAクラスを狙っていると言っていたぞ。何故かBクラスも当てられたが、高円寺は事故だから置いておく」
一之瀬「Aクラスは独走状態だったもんね。それを止めようとするのはわかるよ」
Aクラスを狙うのはわかるが、それはBクラスとDクラスの場合だ。Cクラスは学年で孤立しているため、全クラスを攻撃してもデメリットがない。そもそも信用など1学期に失っている。龍園も気にするような奴ではないだろう。
神崎「Cクラスは龍園の独裁政権だ。だから、当然不満に思う人間もいる。Cクラスは1枚岩になっているように見えてもまだ統率しきれてない線もあるんじゃないんのか。他クラスに攻撃したのは足元を見られないためのカモフラージュか...」
一之瀬「確かにね。龍園くんは1学期に全クラスにちょっかいかけてるもんね」
神崎と一之瀬が言っていることはおかしいことは何1つない。龍園が残した中途半端な結果がいろんな憶測を生んでいる。遊びでやっていたか、オレと同じように他クラスの動きを見ていたか堀北への挑発のためだけにやった線も否定できない。とにかく意図を理解しようとすることは時間の無駄でしかない。
二宮「私も神崎くんの言う通りかな。答える権利は生徒全員にあるわけだから、龍園くんの方針に従わなかった生徒や統率しきれなかった生徒が失策した線は捨てきれないと思うよ。自分が正解すれば受け取れるポイントは多いからね」
神崎と二宮の言い分は正しい。ただ、そうだと言い切れないのもまた事実。裏切り者が出たら龍園は徹底的に探し出す。メールを削除したとしてもプライベートポイントまで確認してくるはずだ。
姫野「あんたはどう考えてるわけ?」
綾小路「どうだろうな。気まぐれなんじゃないか?」
神崎「もしそうなら、たちが悪すぎる」
かなり適当に言ったが、神崎は真に受けて思案していた。
姫野「何してくるかわからくても、問題ある?いっそのこと、あんたが潰せば全部解決するでしょ」
綾小路「無茶言うな。何にせよ、龍園の当面のターゲットはDクラスだ。手口を見ながら防衛していくしかない」
一之瀬「そうだね」
二宮「助けないの?」
綾小路「Bクラスは見物に決め込む。独断で助けることは許さない」
一之瀬「堀北さんたちを見捨てるってことかな?」
綾小路「そうだ。うちとは不戦協定を結んでいるに過ぎない。向こうから助けを求められれば考える余地はあるがな」
しかし、オレは確信している。堀北が助けを求めることはないと。
□□□
放課後、オレは生徒会室にいた。生徒会長や副会長をはじめ生徒会のメンバーが勢ぞろいしてるわけだが、思ったよりも少なくて意外感を覚えていた。生徒会に入ることを一之瀬に言うと、手を取られて喜ばれた。まあそれはいい。生徒会は何するかも答えれる範囲で聞いたが、それなりにやることは多いらしい。
学「今日から生徒会書記に任命した綾小路だ」
綾小路「はじめまして。1年Bクラスの綾小路清隆です。よろしくお願いします」
南雲「綾小路なら問題ないと副会長として判断するっすよ」
桐山「同感だ。実力、実績を示した人材を野放しにするほうがもったいない」
学「南雲、桐山の言う通りだ。綾小路、今から現生徒会メンバーを紹介する」
オレが知ってる人物は堀北学、橘茜、南雲、一之瀬。前の3人は特に反応はないが一之瀬は笑顔で会釈をしていた。さすが1年のマドンナ(と言われてるらしい)。1年がオレと一之瀬だけだから同じ業務になることはまずないだろう。桐山は2年Bクラスのリーダーをやっているらしい。
学「生徒会の仕事は事前に説明した通りだ。例年と比べて人数が少ないから有志による手伝いの生徒も来る。綾小路には余計な世話かもしれんが、紹介くらいはしてやってくれ。任期はもうすぐで終わりが近いが体育祭が控えているから忙しくなる。役職は与えるが、どの役職の仕事も把握してる橘の下でやってもらうから形式上のものになると思ってくれ」
綾小路「わかりました」
堀北兄から、指示がでたあと橘の指示に従って動き出す。橘が山積みになってる資料を持って隣の部屋に行く。淡々と教えてもらいながら仕事をこなしていく。どう見ても生徒が処理するような量ではないし、生徒が手を出していいのかと疑問に思うことはあった。何故かオレに敵意を持つ橘だが、今は仕事中だと割り切っているのかいつものような敵意を感じなかった。数分後には撤回することになった。
橘「どういう吹き回しですか!?まさか貴方が本当に入るとは思いませんでした」
一段落して、急に怒鳴られた。理不尽だ...そこまでオレを敵視する理由がわからない。あいつ経由以外で関わることはなかったはずだ。
綾小路「オレもです」
橘「じゃあ、何で入ったんですか?」
綾小路「南雲副会長に勧誘されました」
橘「また、南雲くんですか?」
綾小路「また?ああ、そういえば、一之瀬を勧誘したのも副会長でしたね」
橘「そうですよ!会長は断ったのに、何で南雲くんにはちゃんと返事したんですか!!会長のことが嫌いなんですか?それとも、南雲くんに何か脅されたんですか?」
確かに堀北兄は断ったのに南雲の誘いには受けたんだからな。この場で言い返す材料は持ち合わせていない。別に堀北兄が嫌いでも南雲に脅されたわけでもない。普通に答えても同じことを繰り返し。話を収拾するように誘導する。
綾小路「会長と副会長に勧誘されたのに断ればいろいろ面倒なことは避けられないで」
橘「それは事実でしょうけど、やりようはあったはずです!」
その言い方は、あなたなら断れたんじゃないですか?と聞こえるのは気のせいだろうか。そんなことを言うが、オレは天秤にかけて選んだに過ぎないのだが。学年対抗のシステムと採っているこの学校では他学年との関わりがほぼない。関わりがあると部活に入ってる生徒くらいだろう。こういうときに情報を取っておかないとな。
綾小路「先輩のクラスはずっとAクラスなんですか?」
橘「そうですよ。とはいっても、いつ抜かれてもおかしくはあい状況ですし、いばれるほどでもありませんが」
AクラスはAクラスでいることが当たり前ということだろうか。それはどの学年に共通することなのか?
綾小路「会長がいるのにですか?」
橘「いいえ、会長がいるからAクラスなんです。全て私たちが足を引っ張ってしまってるせいです。そのせいで堀北くんに大きな負担をかけています」
綾小路「あいつが倒れればAクラスから落ちるということか」
オレの問いに橘は頷いた。どうやら、本当のことらしい。というより、リーダーが倒れてもやっていけるクラスのほうが珍しいだろうな。
綾小路「クラスでも1人なのか?」
橘「はい。だから、貴方が堀北くんを助けてあげてください!堀北くんに認められてる貴方ならできるはずです」
綾小路「どう助ければいいんだ?1年のオレが3年の試験に干渉のしようがない」
特別試験は学年ごとの試験で他学年が介入できる余地なないと思うが。仮に試験の概要が事前に発表されても3年にどんな生徒がいるかわからない以上、助けようがない」
橘「そうでもないんです。南雲くんが堀北くんに仕掛けるのはほぼ間違いありません。もちろん、ただでとは言いません。なので、不甲斐ない私たちに代わってお願いします」
唖然としてしまった。まさか、橘から頭を下げられるときがくるとはな。ただ、これは朝比奈先輩からの依頼の内容が違うだけで手段は同じだ。
綾小路「今すぐには返事はできません」
橘「わかっています。いいお返事をお待ちしています」
生徒会はこの学校では花形だが、その分闇は相当深そうだな。クラスを率いてる身としては遅かれ早かれ知ることにはなっただろう。
昇降口で一之瀬が待っていた。
一之瀬「おつかれー」
綾小路「そっちもな」
一之瀬「初めての生徒会はどうだった?橘先輩なら大丈夫だと思うけど」
綾小路「疲れたの一言だな」
一之瀬「にゃはは、私もだよ。この後予定は?」
綾小路「ない」
一之瀬「観たい映画あるんだけど、いいかな」
このあと、特に予定はないしいいだろう。どんな映画か聞かなかったが、まあいいだろう。
綾小路「わかった」
一之瀬「やったー」
綾小路「今から観る映画は恋愛ものだよな?」
一之瀬「そうだよ。みんなおすすめだって」
綾小路「それは期待できそうだな」
一之瀬「そうなの!私も楽しみにしてたんだ!」
同級生と恋愛映画を観るか...恋愛は俗世間における代表例。どんなものか興味はあったが、とりあえず見てみるか。
一之瀬「綾小路くん?」
綾小路「なんだ」
一之瀬「わ、私と2人でいいの?で、デートになっちゃうよ」
そう言うと、一之瀬は顔真っ赤にして盛大に自爆した。
綾小路「オレにはこれがデートなのかただ遊んでるだけなのかわからない」
一之瀬「むぅ~そこはデートって言うんじゃないのかな?女の子と一緒なんだよ」
綾小路「じゃあ、これはデートか」
一之瀬「だから、言わせるんじゃなくて綾小路くんが言わないと意味ないんだよ」
正直なところ、どうでもよかった。言い方が違うだけで、結局のところ同じではないのだろうか。チケットを買って、指定した座席に着くと他の映画の広告のテロップが流れていた。オレは購入した飲み物のカップを手にしようとしたがないことに気づいた。隣を見ると、一之瀬が飲んでいた。
綾小路「それ、オレのやつだぞ」
一之瀬「んぐんっ!?けほけほっ!」
綾小路「大丈夫か?」
一之瀬「大丈夫だよ!って、そうじゃなくて」
綾小路「間違いは誰にだってある。気にするな」
一之瀬「そういうことじゃないよ!ど、どうしよ。間接キスになっちゃった...私、初めてだったのに...」
綾小路「すまない...」
一之瀬「う、ううん。間違えた私が悪いから。もしかして綾小路くんも?」
綾小路「ああ。初めてだ」
再び顔真っ赤にして、背けてしまった一之瀬にオレはどうしたらいいのかわからなかった。
映画を観終わると、オレと一之瀬は寮に戻ろうとしていた。それも一之瀬は若干距離を置くようにオレの3歩くらい後ろを歩いている。キスのことを未だに引きずっており、「女の子にとって初めては特別なんだから!」と怒られてしまった。
ここは何とか打開しなくては。自分で言うのも虚しいが、オレに話術はない。今この場でできることは話題を変えるだけ。知り合いに遭わないことを願いつつ頭を回す。
綾小路「一之瀬はゲームセンターに行ったことあるのか?」
一之瀬「あるけど、どうしたの?」
綾小路「ずっと座ってたから体動かしたくなってな」
一之瀬「確かにね!少し寄ってみよう」
少しは落ち着いたところで一之瀬と人生初のゲームセンターにやってきた。中に入ると、ボーリング場ほどではないが、BGMが大音量で流れていた。そういえば、ゲームセンターは初めてのことを言ってないが、まあいいだろう。
一之瀬「まず、プリクラ撮ろうよ!」
綾小路「オレも問題ない」(プリクラの機械を見といたので、写真を撮るものとだけ認知している)
人生で写真を撮るのはこれで5回目くらいか。1回目は学校の証明写真。2回目は入学して早々にクラスで集まったとき。3回目は豪華客船。4回目がプールのとき。全部写真を撮ろうと言われて撮った。理由を聞いたら、思い出に残しておきたいらしい。オレには無縁の感覚だ。毎日、淡々とあの男のいいなりになってカリキュラムをこなしていたからな。
プリクラって400ポイントする割には5回しか撮れないのか。割高なんだな。それなら携帯で撮れば無料なのに。一之瀬が楽しそうにしてるから何も言わないでおこう。普通にピースしたり、腕を組まれたりして撮った。撮り終わると、文字など入れることができるらしいが、オレにそんな知識があるはずもなく一之瀬に任せた。
一之瀬「綾小路くんの不愛想はもはやお約束だね」
もうっ!というかんじで一之瀬に文句を言われる。
綾小路「これでも、頑張ったんだが。次は何するんだ?」
一之瀬「次はエアホッケーしようよ」
エアホッケーとはなんだろうか。
店内を歩いて、台を見つけて配置に着く。数秒後には円盤が取り出し口から排出されゲームが始まった。
一之瀬「よし、頑張るぞー!」
一緒に胸が揺れて、自制している間に失点していた。次は円盤が2つ出てきた。
一之瀬「綾小路くん!覚悟!」
時代劇に出て来そうな台詞を言われた。何て返せば正解なのかはわからないが、一之瀬がノリノリなことはわかった。一之瀬の陣地から来た円盤を打ち返す。何往復のラリーが続くがラリーの主導権は一之瀬が持っていた。このペースでやれば一之瀬が勝ってさっきのことも忘れると思った。が、その考えは甘かった。円盤は真っ直ぐゴールに向かったと思われたが、一瞬、ビュンと風を切るような音がすると、円盤はオレのゴールに吸い込まれていた。
綾小路「!!」
これには大いに焦った。このままだとストレート負けするかもしれない。このとき、数年ぶりに冷や汗をかいた。だが、面白い。コートを脱いで腕をまくる。柄にもなく熱が入ってしまった。僅差でオレが勝った。エアホッケー終了後、休憩エリアのベンチで休むことにした。そこには知ってる顔も何人かいた。
一之瀬「いやー少し汗かいたねー」
飲み物を買いに行っていた一之瀬が戻ってきた。いつもの表情に戻っていた。
一之瀬「はい、飲み物」
綾小路「悪いな」
ペットボトルを受け取ろうと顔を上にあげて気づく。一之瀬の服が汗で透けていた。下着の輪郭だけでなく色までわかってしまうくらいに。
一之瀬「どうしたの、綾小路くん」
綾小路「非常に言いにくいが下が透けてる」
一之瀬「え、にゃにゃにゃ、にゃーー」
一之瀬は自身の体を抱きしめるようにしてしゃがんだ。ちゃんとみてなかったが、凄まじい汗の量だ。
綾小路「大丈夫か?」
一之瀬「うん。ごめんね」
綾小路「??」
帰り道をお互いどこか気まずく無言で歩いていた。あそこで言ったことがそもそもの間違いだったのだろうか。しかし、言わなければ一之瀬は風邪をひきかねなかったし、どうすればよかったのか分からない勉強や身体能力は他者より群を抜いていても、こういう場面で人生経験の浅さが出てきてしまう。
一之瀬「ごめん。事故なのにいろいろ言っちゃって」
一之瀬の言葉に頷きはするものの最低限のことしか言わなかった。
一之瀬はうぶ。ワカルワァ… 最近、投稿頻度が多いのが嬉しいです!