「こんなに雑用が続くなら辞めます!」
次の日、C松課長にプロジェクトメンバー入りを直訴したA村さんだったが、反応は鈍かった。
「メンバーになると責任が出るし、一気に残業が増える。部署に入って1年もたっていない新入の君にそんなことさせられない」
「学生時代ずっと運動部で体力はMAXありますから残業は平気です。B中主任に相談したらOKもらいました。いいアイデアを出せるようにがんばるし、何でもしますからメンバーに入れてください。早く主任の実力に近づきたいんです」
「さっきB中主任が君をメンバーにしたいと言ってきたよ。しかしねえ……プロジェクトの進捗によっては休日も出てもらうことになる。それに耐えられるの?」
「じゃあ、いつになったらプロジェクトのメンバーになれるんですか?」
C松課長は不機嫌な顔になった。
「そんなこといいから、自分の席に戻って私が頼んだ仕事をやりなさい」
「C松課長はなぜ雑用ばかりでプロジェクトの仕事をさせてくれないのか。もしかして俺、嫌われているのかな?これはきっとパワハラに違いない。課長がいる限り、企画マンとしてのキャリアアップは無理かも……」
C松課長の態度に失望したA村さんは仕事に対するモチベーションが失せ、1週間後D森総務部長(45歳。会社の人事・総務部門の責任者)に退職を申し出た。
A村さんが話した退職理由に驚いたD森部長は、彼が退席した後すぐにC松課長を呼んだ。A村さんが退職届を出したことと、その理由を聞いたC松課長は怒りをあらわにした。
「A村君の前に配属された入社3年目の若手社員は、配属3か月後プロジェクトメンバーにしました。しかし1か月もたたないうちに『こんなキツイ仕事自分には無理。できない量の仕事を押し付けるのはパワハラです』と文句を言い会社を辞めた。今度は『プロジェクトメンバー入れないから辞めます』だと?じゃあ私はどうすればいいんですか!」
「A村君は前任者と違ってすごくやる気があるみたいだし、B中君も了承済みならチームに入れてもいいだろう?」
「冗談じゃない。プロジェクトのメンバーになれば残業は多いし休日出勤もあります。退職した課員にはパワハラ呼ばわりされ、D森部長だってその時私に『仕事に慣れていない部下に過剰な仕事をさせるのはパワハラだ』ときつく言いましたよね」
「しかし最近ネットの記事で読んだけど、やる気のある人間に仕事を与えないのもパワハラになるらしい。この状態を『ホワイトハラスメント』と言うそうだ」
「そんな言葉知りませんよ。とにかく新入りの部下に振り回されるのはもう御免です。いっそ私を他の部署に異動してください」
* * *
これまでA村さんに対してC松課長は配慮して仕事を振っていたつもりだったが、残念ながらその思いは伝わらず、「ホワイトハラスメント」扱いされることになった。
そもそも、ホワイトハラスメントの加害者となる上司には悪意がなく、自分がハラスメントをしている自覚もないため、「部下思い」の上司こそホワイトハラスメント扱いされる危険があるのだ。
では、実際にどんな行為がホワイトハラスメントにあたるのか?部下指導のさい「ホワハラ」を予防するポイントとは?
つづく後編記事〈やる気マンマンの入社3年目社員が「ホワハラ」を理由に退職を希望…どうしたら予防できた?どうやって引き止める?〉で事例をもとに解説する。