「枕営業はみんなやってる」芸能事務所トップの性暴力 20代女優の後悔…もう一度立ち上がるために
一度は夢破れたあの日、公園のベンチで抱いた思い
東京に戻って渋谷のセンター街を歩いていたとき、思わぬ人物にすれ違った。あの社長だ。目が合った。 その瞬間、体が硬直し、騒がしいはずのその場所で何も聞こえない。時が止まったかのようだった。 被害に遭って以来、脱毛サロンにも行けなくなった。芸能界にいる以上、社長とつながる共通の知人はいて、SNSで社長が写った投稿が目に入ることもある。驚いたのは、自分のSNSの閲覧履歴に社長が出てきたこと。そのたびに心はどす黒く染まる。 「本当に気持ち悪い。この記事が社長の目に留まり、自分のことだと気付いて反省してほしい。せめて芸能界から去ってほしい」 今まで誰にも言えなかった被害の話を、サクラさんが打ち明けた理由は明確だ。同じような被害に遭い、苦しんでいる人に「誰かに話してもいいんだよ」と伝えたい。そして加害の自覚がある人には「おびえてほしい」とも思う。仮に自覚がなくても、被害者からそう思われている可能性があることを想像してほしい。 自分自身への期待もある。過去を話すことで「自分の中で何かが変わればいい」と願った。 理不尽な暴力で夢を追えなくなり、実家に戻った際、公園のベンチでこう思ったことを今も忘れていない。 「いつか乗り越え、口にすることができればいいな」
【取材後記】
サクラさんが取材を受けたきっかけは、性的虐待を受けた女性とその姉を描いた共同通信の連載記事を読んだことだったという。自分も誰かに被害を打ち明けることで、別の誰かの救いになる。そんな循環を生み出そうと考えた、と打ち明けてくれた。 サクラさんにとって、加害者が刑事裁判で罰せられることだけが制裁ではない。民事裁判で慰謝料を支払わせることが救いになるわけでもない。加害者やその予備軍が「自分の悪事が簡単に暴かれ得る」ことを知り、おびえることで、二度と被害を出さない仕組みができてほしいと願っているのだ。 フリーランスになって自分で仕事を探すようになり、気づいたことがあるという。それは、やり手だと思い込んでいた社長が取ってきたのは、結局、エキストラやセリフの少ない役ばかりだったこと。取材の最後に、嬉しそうに教えてくれた。「実は、大きな仕事が決まりそうなんですよ」。活躍を心から祈っている。 誰にも打ち明けられずに苦しんでいる方の情報提供を求めています。 darenimoiezu@kyodonews.jp ※この記事は、共同通信とYahoo!ニュースの共同連携企画です
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