現在CEOを務めるセサリオ氏は、アトランティック誌に対し、「人々が物を選ぶ理由の98%は合理的ではない。感情的なものだ」と語る。商品を売るのではなく、感情に訴えかける。その戦略が、単なる水を10億ドル規模のビジネスに変えた。

企業への厳しい道…「死と書かれた商品など置けない」

「缶入りミネラルウォーター」という物珍しいアイデアだが、最初から受け入れられたわけではない。

セサリオ氏が投資家や飲料業界関係者に構想を持ち込むと、反応は極めて冷ややかだった。CNBCによると、「缶のデザインがビールに似すぎているため、顧客を混乱させるおそれがある」「小売店が『Death』と書かれた商品を棚に置くことは、絶対にない」など、否定的な意見ばかりだったという。

セサリオ氏はCNBCに対し、「あまりに突飛なアイデアだったので、誰も小切手を切ろうとはしなかった」と振り返る。

しかし、彼は諦めなかった。2018年、リキッド・デスをまるで実在する商品のように見せかけるゲリラマーケティングで、消費者の反応を探ろうと考案。缶のデザインを3Dレンダリングでリアルに再現し、商品のフェイスブック・ページを立ち上げた。

「どこで買えるの?」架空の商品ページに問い合わせ殺到

さらにセサリオ氏は、妻の友人の女優を起用し、1500ドル(約22万円)のポケットマネーを投じて約2分間のコマーシャルを撮影。その上、貯金を崩して「数千ドル(数十万円)」を捻出すると、動画を有料広告として展開した。

反響は予想をはるかに上回った。セサリオ氏はCNBCに対し、「4カ月で動画は300万回再生された」と語る。「フェイスブックのページには、約8万人のフォロワーがついた。これは当時の(米ペプシコが販売する水ブランドの)アクアフィーナのフェイスブックのフォロワー数よりも多かった」

フェイスブックのページへはメッセージが殺到した。どこで購入できるか、尋ねる内容だ。飲料の卸売業者からも、店舗に置きたいので営業担当者を探しているという問い合わせが相次いだ。

大反響を受け、投資家の目は変わった。2年間アイデアを売り込み続けた末、2019年1月にサイエンス・ベンチャーズから160万ドル(約2億4000万円)のシード資金を獲得。同月からウェブサイトでの販売に漕ぎ着けた。

戦闘機を用意した常識外れのプレゼント企画

リキッド・デスのマーケティングは、時に度を超えた企画で世間を驚かせる。

2024年5月、同社は前代未聞のキャンペーンを発表した。CNBCなどが報じたこの企画は、40万ドル(約5900万円)相当の戦闘機「アエロ L-39C アルバトロス」を1名にプレゼントするという内容だ。当選者には格納庫6カ月分の無料使用権なども付いてくる。

戦闘機が欲しくない場合は、代わりに25万ドル(約3700万円)の現金が詰まったブリーフケースを受け取ることもできるという。企画はペプシコへの皮肉だ。1996年、ペプシコが「700万ペプシポイントでハリアー戦闘機がもらえる」というジョークCMを流したところ、大学生が実際に約70万ドル(約1億円)を投じて規定のポイントを入手。戦闘機がもらえなかったとして裁判に発展したが、最終的には「(CMは)明白な冗談だった」として訴えは棄却された。