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Chim↑Pomの展覧会がマジでやばかった|「美術館」の概念をひっくり返す回顧展

2022年2、3月は六本木ヒルズ ミュージアムが激熱です。東京シティビューでは「楳図かずお大美術展」、森美術館では「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」が開催中。いやもう完全にヤバい。ハイカルチャー貴族が住むヒルズが、名古屋のヴィレヴァンみたいになってる。絶対に地上52階でやることじゃない。もう最高なんですよね。

もうこんなもん行くしかないでしょう。とはへたたいうことで、今回は後者の「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」に行ってきたので、現地の様子をレポートします。

Chim↑Pomはゆとり世代的には「教科書の人」

Chim↑Pomを初めて知ったのって、たぶん多くの方は「ピカッ事件」だと思うんです(後述)。新聞やテレビでも取り沙汰された。あれが2008年だそうで、私は当時17歳なんですけど、まったく覚えてない。

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市民「不気味だ」でジワる

で、(たしか)大学の日本美術の資料集でChim↑Pomの名前が出ていたんです。それで知って「なにこの人たち? クソおもろ人間やん」って、衝撃を受けました。あの、渋谷のドブネズミを捕まえて剥製にしてピカチュウにする「スーパーラット」が載っていたと思います。

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スーパーラット

その資料集は、土偶とか埴輪から始まり、尾形光琳とか、歌川広重とか通って、いろいろあってコレ。いろいろありすぎだよね。「土偶」から1万年くらい経って「ドブネズミ剥製ピカチュウ」に行き着くっていう。日本美術史がカオス過ぎて笑い転げた覚えがある。

「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」展へ

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すげぇおしゃんでかわいいポスター

で、いざ展示会へ。これは「最大の回顧展」と銘打ってるように、これまでChim↑Pomがやってきたことを総ざらいしている。

スーパーラット

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スーパーラット

初っ端から金ピカのネズミがおり「あっ、これ大好きなやつ」と興奮したのは、もう言うまでもない。隣ではドンキで買った虫取り網でネズミを捕獲しようと奮闘するChim↑Pomメンバーの映像が流れており、ひたすらおもしろかった。めちゃくちゃ嫌がりながらギャーギャー騒ぎながら捕まえてて、みんなかわいかった。

「スーパーラット」という言葉は存在している。長い歴史で、殺鼠剤ではもう死なないレベルに進化を遂げた生命力ハンパないネズミのことを指す清掃業者用語らしい。

わたしは単純に「生きたネズミを無理矢理ピカチュウにする」っていう、シンプルなバカらしさがすんごい楽しいんで、好きなんです。ただ思考をグーっと深ぼると「同じネズミでもみんなに愛されるピカチュウと、嫌われるドブネズミのギャップ」というメッセージが見えてくる。

ドブネズミといえばブルーハーツの「写真には映らない美しさ」だろう。「着飾らない」という意味で、とんでもなく正直な生き物のメタファーとしてドブネズミは美しい。それをChim↑Pomは無理矢理、着飾らせた。さて、あなたにはどちらが美しく見えるだろうか。みたいなメッセージが見えてこないか。ちなみに私はピカチュウのほうが美しいと思います(唐突な単細胞)。

Sukurappu ando Birudo

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Sukurappu ando Birudoプロジェクト
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Sukurappu ando Birudoプロジェクト

Sukurappu ando Birudoプロジェクトは、老朽化による取り壊しが決まっている歌舞伎町のビルで2016年10月に開催された。

数日間の展示のあと、作品をその場に残したままビルごと解体。その残骸を作品として展示するという、まさにスクラップアンドビルドな試みだ。いやもう発想が荒くれ者すぎる。こち亀過ぎてヤバい。

ここでは展示やパーティーの様子、解体される様、そして実際に解体された後の瓦礫の山やゴミがそのまま展示してある。見たまま巨大なゴミなんで「ゴミだなぁ〜」って感じだが、その背景には「都市化ってなんだ」というでっかいテーマがある。

取り壊された歌舞伎町商店街振興組合ビルは東京五輪の1964年に建てられた。TOKYO1964の都市化といえば、私ははっぴいえんどの「風をあつめて」なんです。都市化によってなくなった路面電車の幻影を見るっていう。

今でも日本では色んなものをスクラップしてビルドして……都市化の一途を辿ってますが、1964年に思い描いていた日本になれているのか。都市化って本当にいいことなのだろうか。そんなメッセージが見えてくる。ちなみに私は便利だし良いと思いまーす!(2度目の単細胞)。

ブラック・オブ・デス

もうこれは動画で見てほしい。「んほっ!んほっ!」つってゴリラ語で仲間呼んでたターザン思い出すから。

仕組みは単純で、カラスが仲間を集めるときに出す声を収録。それを大音量で流しながら車やバイクで走る。すると何百羽というカラスが着いてくるっていうものだ。それでカラス引き連れたまま、センター街や歌舞伎町、代々木公園、国会議事堂などを走る。警察に止められつつ走るっていう。この展示ではその動画が延々と流れている。

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ドブネズミとかカラスとか、Chim↑Pomは世間的に忌み嫌われているものが大好きだが、それはおそらく個体に自分たちを重ねているのではないか、と思う。アングラの体現者として生きにくさを感じつつも、それを軽やかに超えていく飄々とした感覚。それが彼らが作り出すドブネズミだったりカラスだったりするのだろう。

このアングラ感がたまらなくかっこいい。そして、今やアングラを抜け出して、現代アーティストとしてメジャーになった姿も素敵だ。

ヒロシマ・東日本大震災・コロナ

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HIROSHIMA
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HIROSHIMA
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May.2020.TOKYO

もちろん「ピカッとする」動画もあります。広島の上空に飛行機雲で「ピカッ」と書くというパフォーマンス。もちろん愉快犯なわけではなく、平和の尊さを風化させないようにするためのアートだ。会場には大量の千羽鶴もある。

このほかにも、東日本大震災の際に設置した「サイレント・ベルズ」。これは原発の際に帰宅困難区域、つまりまったく人の住んでいないところに10分に一度インターホンが鳴る扉を設置した試みだ。

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サイレント・ベルズ

誰もいない場所で、こいつだけが「ピンポーン」ってなってると思うと、ものすごくゾッとする。帰ってこない主人を待ってる家みたいな……ディストピアっぽい切なさもある。

こうした分かりやすい「社会に対するメッセージ」をChim↑Pomは発信し続けている。ただ「戦争反対!」「原発反対!」と叫ぶ、どっかのメロコア・パンクバンドとは違う。きちんとユーモアをもってサプライズを仕掛けているのが、Chim↑Pomの非凡なところだ。

展覧会にマッサージ屋来ててマジ笑った

このほかペストに対する抗議としてイギリスで開いた「PUB PANDEMIC」をはじめ、海外での作品も多数あった。その中のひとつが「道」だ。

国立台湾美術館の敷地内から公道にかけてアスファルト製の「道」を作り「公道でも公共施設でもないスペース」としたものである。

実際に台湾に許可を取り「そこでなら飲食可、飲酒も喫煙も可、ストリートパフォーマンスも、アート活動も可」とした。ゲリラだったので美術館側は知らなかったが、Chim↑Pomのやりたいことを尊重することにした……というのが顛末だ。美術館なのに酒飲んでゲロ吐いても許されるわけである。最高すぎんか。わし下戸やけども。

その「道」が、なんと森美術館に設置されていたから驚きである。

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奥に見えるのはゴミ袋型のトランポリン

ここには占い師やマッサージ師がいたり、劇団が稽古してたりする。「すげえでけえ声すんな」と思ったら、普通に劇団が殺陣の稽古しててクソ笑った。美術館で刀振り回してんだぜ。最高すぎる。

一瞬「自由すぎるやろコレ……」と思ったが、いやこれがアートのあるべき姿だなぁと。美術って本来何をやってもいいものでルールなんかない。なるべくしてカオスになるのがアートだ。これを格式高い森美術館がやった、というのは、とんでもなく大きな一歩だろう。すごいですよね。凄まじくいい空間だった。

ちなみに「くらいんぐ・みゅーじあむ」という託児所にも注目。「Crying Museum」ですから。静かなはずの美術館で子どもが泣くことで、日本の育児制度に一石を投じている。

託児所は絶賛クラウドファンディング中である。気になる方は以下のリンクからぜひ参加してほしい。

この作品の本筋からちょち外れるが、私は「美術館=静かに鑑賞する場所」っていう、謎すぎる"基本"が嫌だ。それが「美術=高尚なもの」という意識に繋がり、日に日にアートへの間口を狭めてしまう。もうルネサンスに呪われたオジサンの説教は聞き飽きている。アートは何したっていいのだ。全てを認めてこそアートだ。

なのでChim↑Pomの仕掛けたこと、そして森美術館の懐の広さが痛快で仕方なかったですね。現地で真剣に占ってもらってる人いたもんね。作品より占いってくらいでちょうどいいのである。

Chim↑Pomの「目的」と「ユーモア」

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結婚式でデモをやるエリイ(「LOVE IS OVER」より)

で、最後にはショップもあったんですけど、中古車売られてました。250万円くらいで。あと、1000円入れたらくしゃくしゃの1000円が出てくるガチャガチャとかあった。やることなすことおもしろすぎる。

Chim↑Pomの作品には、意外となんらかのメッセージ性や思想がある。都市化やフードロス、パブリックスペース、戦争への思い、原発への思いが背景にあるうえで作品をつくっている。

「意外と」というのは「いや、そんなこと考えてねえだろ」と私自身が思っていたからだ。「これ、やったらおもしろくね?」みたいな感覚でアートをやっていると思っていた。しかし、この回顧展を見てあらためて「この人ら真剣にやってるなぁ」と感嘆した。何の思想もない「東京ガガガ」みたいな奴らとは違う。

彼らのミソは「ユーモア」だ。真剣なテーマを設けたうえで、それを上回るユーモアがある。「戦争」とか「平和」なんて、想像のしようもない。

しかし上空に飛行機で「ピカッ」と書かれるのを見るとと「おいおい、なんてのんきなんだ。超平和だなぁ。戦時中は同じ飛行機が原爆落としたっていうのに。なんだよ平和最高じゃんかよ」ってわかってくる。急に「戦争」とか「平和」という巨大なテーマがスケールダウンして、私たちでも親しみやすいものになる。だからこんなにおもしろい。こんなに笑える。

Chim↑Pomはやることなすことインパクトあるので、よく物議を醸す。しかし否定している己の頭の固さに気づかせてくれる存在でもある。

これからもそのユーモアで、あらゆる"枠"を取っ払ってくれる様を見ていたいアーティスト集団だ。

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コメント

1
瑪瑙ルンナ
瑪瑙ルンナ

詳しいレポート有難うございます!前から気になってましたが、こうやってみると、本当にすごいですね!!大ファンになりました!

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Chim↑Pomの展覧会がマジでやばかった|「美術館」の概念をひっくり返す回顧展|ジュウ・ショ(アートライター・カルチャーライター)
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