今回の総裁選ほど、つまらない総裁選も珍しいと思います。各候補は、昔のボスの支援を期待して、自分の主張は抑え、個性も隠して、模範的スピーチばかり。厳しい論戦もなければ、目を見張る政策提言もありません。挙げ句の果ては裏金議員の起用まで匂わすありさま。政治記者たちだけが、したり顔で、各候補が、麻生、岸田、菅、石破の元総理の支援を期待し、連立先にも気をつかって守りにはいっていると解説しますが、そんなことでは解党的出直しの総裁選になるわけがありません。一部の人に嫌われても、反発されても理想を貫く、そんな総理の出現を国民は期待しているのです。
私は元月刊文藝春秋の編集長を経験しました。日本の総理候補の立候補宣言や、就任してからの政権構想は必ず「文藝春秋」で発表されるのが慣例になっています。そして、私自身も多くの候補や総理にインタビューをして、それをゴーストライターとしてまとめた経験があります。
今回の総裁選をみていると、全員のスピーチが失格です。候補者の人となり、そして、その人柄だからこそ、出てくる政策がみえてこないからです。守りにはいると、欠点を隠すことばかりに気をつかいます。しかし、欠点にこそ、その人の魅力があり、欠点を自覚していることこそ、リーダーの資質なのです。 そこで、私なら、こういう立候補演説をするとインタビューなしの想像で書いてみました。
記事前編は【小泉進次郎はあえて「学歴」を売りにするべき…「世襲議員」から脱却するための「意外な方法」】から。
高市早苗は本気の勝負をするべき
初の女性首相を狙う高市早苗氏も、タカ派的発言を抑え、大人しい演説に変わりました。私は今回が彼女が首相を狙える最後のチャンスだと思います。彼女より下の世代の女性政治家がだんだん増えてきて「初の女性首相」を売り物にできるのは、今後難しいと思うからです。ですから、聴衆がびっくりするような発言で本気の勝負をしてほしいのです。(以下は筆者が想像で執筆した演説)
「高市早苗は、日本初の女性首相候補といわれておりますが、実は、私を嫌いな女性も多いようです。それは、私の若いころの無茶が原因だと思います。たしかに、当時はやりすぎました。私の若いころの著書がございます。この本です。タイトルは『30歳のバースディ その朝、おんなの何かが変わる』。読み返すのも恥ずかしいのですが、若いころの恋とお酒の思い出ばかりです。たとえば、〈地中海で、海の見えるホテルの部屋で、飲みィのやりィのやりまくりだったときですね〉〈それでウフフフフ……。朝、寝起きに熱いシャワーを浴びながら、彼が選んでくれた極上の赤ワインをいきなり飲み始める。バスローブのまま〉〈ルームサービスを食べるときも当然、ベッドで裸の上にブランケットを巻いたまま〉〈彼がすばらしいテクニックを持っていることは言うまでもない。トコトン、快楽の境地におぼれられる相手じゃないと話にならないわけ>ー。本当に封じ込めたい過去ですが、あえて、今回、私はそれを隠さないでいたいと思います。私が、政界にはいったのは1992年。落選でしたが、当時の女性議員は数えるほどでした。どの女性議員も「あいつは〇〇先生の愛人だから」と噂されていた時代です。
女性議員は、男性議員とちがって、まるでJALのCAか、帝国ホテルの従業員のように品行方正で、礼儀正しく、三歩下がって派閥のボスについてゆくしかなかった時代でした。こんな状態で、女性が活躍できる世の中なんかくるはずがない。女性に支持される議員にもなれるわけはない。私は、あえて、当時の普通の女子大生のように、振る舞っていることを本にしました。世の中そろそろバブルが終わるころ。それでも、まだディスコは大流行で、六本木で踊って、男性に料理をご馳走になって、恋をして、それが当時の女子大生でした。私はそのまま、それを国会に持ち込んで女性議員への見方を変えよう、革命を起こそうと思っただけです。今、考えると将来を考えないバカなことかもしれません」