86歳で感じた「長生きする人」の素質 病気と心の関係とは
やはり長生きした人の話を参考にすることだ
50歳の頃に心臓が痛くなったことがある。冷や汗も出てくるほどで、心配になって病院に行って調べてもらった。すると医者は、「これは大変ですね」という。 私はすっかり心配になってしまい、順天堂病院でカテーテル検査をしてもらうことにした。検査後に心臓の動きを見せてもらったが、実に元気よく動いている。医者からも「大丈夫です」といってもらったが、それより大きかったのは、自分自身の目で元気に動く心臓の様子を見たことであった。 自分の心臓についての確信が持てたのであろう。それっきり治ってしまったのである。 特に心配事があった時期ではないが、忙しくて神経を遣っていたから、心臓に痛みを感じたのだろう。しかし、元気に動いている心臓を見たら、痛みは消えていった。それ以降は、心臓が苦しいと感じたことはない。 「病は気から」というが、「気」から来ている部分があったのだと思う。 80歳を過ぎてから旧制中学校の同級生が集まったときに、飛び抜けて元気な人間が4人いた。そのうち2人は禅宗の僧侶、1人は広島の原爆被災者、もう1人が私だった。他の人はどちらかといえば元気がなくなっていた。 私の知り合いに、広島で原爆に被災したもう1人別の人がいる。その人とは、上智大学の寮でも同じ部屋で、その後もつきあいが続いた。彼は原爆の爆風を受けて耳は片方が聞こえない。そのくらい爆心地に近いところにいたが、病気で休んでいる姿を見たことがない。彼からいろいろと話を聞いて、原爆は必ずしも放射線で亡くなるわけではないと知った。 偶然、彼とはドイツにも一緒に留学することになったが、ドイツでも元気だった。原爆に被災した彼はドイツでは珍しがられて、医学部からしょっちゅう呼ばれていた。 若いときに健康だった人が長生きするとはかぎらない。私の同級生でいちばんに亡くなったのは、相撲部の主将だった。身体が大きくて元気だった人が最初に亡くなったので印象的だった。 その一方で、「身体が弱い」と診断された私や原爆被災者が快活に長生きしているのだから、人生はわからないものである。 健康のためには、やはり長生きした人の話を参考にすることである。 そういえば、ある長生きした人が、いちばん身体にいいのは仕事で成功することだと書いていた。成功して浮かれていてはダメだが、そうでなければ、仕事の成功がいちばんの健康の益になる。その反対に、仕事で失敗することは健康の害になる。私はこれは当たっていると思う。 定年退職したあとでも少しでも仕事をして成功すれば、生活が楽しくなるし、健康にもつながるはずである。
渡部昇一(作家)