「誤情報が混じるとグーんと伸びる」「今は自民党叩き」政治系配信者、闇のクマさん(下)

闇のクマさんのユーチューブチャンネル(スクリーンショット)
闇のクマさんのユーチューブチャンネル(スクリーンショット)

政治系ニュースの発信はおカネになるらしい。過去、有力政治家に関する偽情報を発信し、現在はスタンスが変わったユーチューバー「闇のクマさん」に収益を上げる仕組みなどについて話を聞いた。

政治ニュースはバズる

──政治系ユーチューバーを始めたきっかけは

「もともと動画撮影が好きで、子供やゲーム系の動画をアップしていた。ただ、編集がしんどい笑。しゃべるだけの動画が作れないかと思い、2020年4月、アライグマのアイコンで時事ニュースをしゃべりだしたら、やたら政治のニュースがバズることに気が付いた」

「英国のタブロイド紙に書かれていた台湾に関するデマニュースを信じて発信したら50万、60万再生された。4カ月後にはフォロワーが10万人になって、素人ながら『政治系インフルエンサー』とされるようになった」

──政治系インフルエンサーはユーチューブ発信でどの程度もうかるのか

「僕は最初の3年で1億円くらい収益を上げた。単価は人やコンテンツによって異なるが、長尺動画だと1再生当たり0・5円。10万再生で5万円。僕は1再生当たり1・0円を超える時期もあった。月間500万再生で収益650万円だ。今は8割減、9割減になっているが…」

──バズらせるコツとは

「最初の10秒で何を言いたいのかが全部わかるよう、端的に説明すること。ネットの場合は全体の0・1%に受ければ十分な収益になる。そこだけに響けばいい。あとは自分が面白いと思える言葉をしゃべれているかどうか」

「事実が混じる話は再生数は伸びない。こうに違いないと考え、多少誤情報が混じる内容だとグーンと伸びる。伸びるとうれしいし、テンションも上がるだろう」

「特に今は自民党を叩くとみんながほめてくれる。少しでも自民にとって悪い情報があればガンガン流そうという状況でしょう」

LGBT理解増進法と稲田朋美氏が契機

──「誤情報系」のスタンスが変わった契機とは

「タイミングとしては(23年6月に施行された)LGBT理解増進法案が騒がれた時期。僕もなぜ自民党がこの法律を作るのかが不満だった。法案が成立することで、体は男性で心は女性の人間が女風呂に入ってくるといわれ、完全に反対に振り切っていた。ただ、知り合いの地方議員から『理解増進法案』は、(LGBTの人たちに過度に権利を付与する)『差別禁止法案』と成り立ちから違うことを教わった」

──差別禁止法案と混同していたと

「(当時)今の騒ぎは勘違いに基づいていると気が付いたが、正面から『それは違うよ』と発信しても、誰も聞いてくれないし、大炎上して、影響力も消えてしまう」

<施行に合わせて厚生労働省は「浴場や旅館の営業者は、例えば、体は男性、心は女性の者が女湯に入らないようにする必要がある」との見解を通達で各自治体に示した>

「影響力を保ったまま、軌道修正したい。そこで、『この通達さえあれば、女の子たちは守られる』みたいな形でポストした。この問題ちゃんと捉えたらそんなに大きな問題じゃないと当時の立場のまま発信したら、うまくバズった」

──LGBTで叩かれたのが稲田朋美元防衛相

「稲田さんといえば、僕がいた界隈の方々から親の敵のように叩かれている。叩くことでめちゃくちゃ儲けた人も多かったと思う」

自民党の稲田朋美元防衛相(矢島康弘撮影)
自民党の稲田朋美元防衛相(矢島康弘撮影)

──現在は稲田さんと関係良好だと聞く

「当時、僕はネットで世の中を変えられると勘違いしていた。ただ、ワアワアと中国だなんだやっても何も変わらなかった。ユーチューブに飽きていた時期があった」

「年金の脱退一時金制度(=永住資格のある外国人が一時金を受給し帰国、再入国した際に生活保護の受給が制度上可能となっている)の改善について、地方議員らと稲田さんに相談する機会があった。稲田さんはロードマップを示してくれて、今年6月に法改正に至った」

「僕も稲田さんを後押しする動画を発信し、正しいネットの使い方に気が付いた。稲田さんはあっけらかんとしていて、(LGBT理解増進法を巡り)批判していた立場の僕に対し、一言も恨み言を言わなかった」

新聞記事を理解できれば…

──一般ユーザーはインフルエンサーによる発信をどう見極めたらよいか

「リテラシーを高めていくしかない。僕もユーチューブでコツコツ発信しているが、誤情報を真実だと信じ込んでいた数年前に比べ、リテラシーは高まったと思う。シンプルな話をすれば、ちゃんと新聞を読むことだ」

「誤情報を流していたときは、新聞のタイトルだけをみて、あとはネット上の有名人の発言を信じていた。新聞記事をちゃんと理解できれば、意外と誤情報にだまされなくなる」

「ただ、最近はデマ系インフルエンサーが増えましたね。知らなかった人たちが20万、30万再生を取っているが、中身は危うい」

──例えば

「兵庫県の斎藤元彦知事に関する発信に目立つ。(内部告発問題について)正確な情報を一般のインフルエンサーが取れるわけがない。なのに断定調で語っている。ネット世論は一般に15万~20万再生で動き始めるが、『その話の真偽はなに?』というレベルでも、それをはるかに超える数字をたたき出している。自殺者も出ていて、怖くて近づけないはずだが、もうかると思って突っ込むユーチューバーが多い」

誤情報のマーケットは拡大

──5年後のネット空間の雰囲気をどう想像するか

「悪い方向に行っている可能性は高い。事実かどうかは別に、自分はこう思うという意見があふれ返って、まとまりがつかなくなっているのでは。今はXやユーチューブで情報を取っている人はまだまだ少ないが、既に真実より誤情報を面白おかしく語る人のほうが受ける状況がある。その規模が広がっている気がする。怖いですよね」

「自分の発信がデマと気が付いても、インフルエンサーで食べていこうという人ほど言ってきたことを曲げるのは怖くて仕方がない。再生数が落ちて、インフルエンサーとして終わる人いっぱいいる。僕も謝罪したらフルボッコにされた。誤情報として気が付いても突き進むしかない」

「一方、デマ系インフルエンサーが巨大なマーケットを作ったが、そこに対抗するマーケットもできている。「それはデマだよ」という真実の情報を伝えるマーケット(事実発信系インフルエンサー)だ。おもしろくはないけど大切だ」(聞き手・奥原慎平)

林芳正氏=リンホウセイ「名づけ親は僕、誤情報に踊った」闇のクマさんインタビュー(中)

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