Blue Redemption   作:白黒モンブラン

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滲みだした毒

××月○○日 天候 晴れのうち曇り

 

たった一日の出来事だったというのに、こうして日誌を書くのが久々な気がしてならない。

それ程までに大きな出来事だったという事だ。

情報を得る為に町へ赴き酒場で聞き込みした際に、奴らの仲間と思われる二人組に絡まれた。

穏やかな雰囲気で終わる事などある筈も無く、そのまま殴り合いへと発展した。

バレンタインの酒場みたいに客全員との乱闘騒ぎや、あの大男が乱入するような状況にはならず、相手も顔や体格が良い割には大して強くはなかった。

正直な事を言えば、まだあの時代の男たちの方が腕っぷしは良かったとすら思える。

 

殴り合いになった一人が外へ逃げ出し、たまたま外にいたアルを人質にとって見逃すような事を言って来たが、情報が必要かつアルを助ける為に早撃ちで相手の銃を撃ち飛ばして、何とかその場を収める事が出来た。

こういう時、銃を撃ち飛ばす方が難しい。それでこそ決闘みたいにお互いに銃をホルスターに収めている状況じゃなかったので上手くいって良かったというべきだろう。

二人を締め上げて軽く脅したところ、こっちが探しているあの猫の獣人は町から離れた所に廃れた洋館に他の連中と共に身を潜めているとの事だ。

そこに今まで誘拐した生徒もいると口にしていたので、その事をハヅキ達に伝えて今晩中にその場所へ襲撃を仕掛ける事になった。

自分に便利屋68、ハヅキとクロカに加えて、もう一人。今回の戦いに参加する事になった。

名も風影 セツラ。カイナ農場学園では生徒会の副会長を務めているらしい。

ボルト式のライフルに銃剣といった武器を愛用するらしい。ハヅキが機関銃、クロカがあの沼地で見たあの巨大なワニを一発仕留められそうなデカいライフルを愛用しているので本人は至って普通と口にしてはいた。

最もあの戦いぶりを見てからだと、セツラの言う普通が分からなくなった。

 

誘拐犯どもが身を潜めている廃れた洋館へと向かう時、何処となくブレイスウェイトの館での戦いを思い出した。

それを思い出した時からか、或いは銃撃戦が始まった辺りからだったかは分からないが嫌な予感はしていたんだろう。

それを気付こうとしていたのか、或いは本当に気づかなかったかは…正直な所、分からない。

誰しもがハルノを助けようと必死になって戦った。

特に便利屋68やカイナの三人の戦いぶりは凄まじかった。

キヴォトスに住む子供というのは、あんな風に動き回ったり、派手にやるのが普通なのだろうか?

生前の自分が見たら、暫く忘れる事は出来なかっただろうし驚いていただろう。

寧ろびっくり人間のサーカス集団だと言われたら多分信じていたとは思う。

良くも悪くもだが、今の自分はこのキヴォトスに少しだけ染まっているらしい。

 

機械の巨人…このキヴォトスではパワーローダーという呼ぶらしいがそれを敵が出してきた際は流石に焦りはしたがクロカが一発で仕留めてくれたので何とか事なきを得た。

後でセツラから聞いたが、クロカの銃『シュナイダー2000』はあの鉄の塊をチーズみたいに容易く貫けるような弾丸を放つ事が出来るらしい。大砲みたいな銃とは思っていたが…その威力は彼女が実演してくれた通りだろう。

後は洋館内に突入して残っている連中を締め上げ、漸くあの猫の獣人と遭遇した。

天使のような羽を生やした少女…どうやらトリニティという学園の生徒を人質にとっており、わざわざ部屋まで待っていたらしい。

意外な事に、あの猫の獣人は割かしこういった事には長い方らしく、俺の事を同類と言っていた。

否定は出来なかった。生前の事と言えど、自身がしてきた事は到底許される事じゃない。

分かる奴には分かるのだろう。

素直に認め、今回の一件に介入する理由も告げると正義の味方のつもりか?と言われたが、それは否定した。

生憎と自分は法執行官じゃないし、保安官でもない。どこでもいる古臭い無法者だ。

義賊として動く事もあったが、結局は関係ない人を巻き込んでは怪我をさせ、好き放題やって来た存在。

そんな高潔なものにはなれないし今こうしているのは結局の所、生前に犯した罪の贖罪をするため。

そもそも、この事件を機に生前の罪を清算しようとは思っていない。

こうしているのは恩人とも言える学園と彼女たちを救う為、自身のことなど二の次でしかないのだ。

ただそれを告げただけなのに、あの獣人は逆上。

身を隠していた奴の味方に一発貰うかも知れないと覚悟はしたが、窓を突き破って現れたアルのおかげで難を逃れた。

何故アイツが居たのかは知らないが…アルなりに何かしらの考えがあっての事だろう。

 

…結果だけ言えば、あの洋館にハルノは居なかった。

セツラがあの獣人を脅し、吐かせた情報の中には内通者の存在も出てきた。

最悪だ。二度と経験したくない事が二つも同時に起きた。

ビーバーホローの様に誰しもが不安を抱え、誰しもが疑い合う様な感じにはなって欲しくない。

そうならないように、自分がどうにかしないといけない。

 

余談だが、あの獣人共は山羊の店主がヴァルキューレという警察に通報した事で全員逮捕になったらしい。

それも自分達があの洋館から離れた後に通報を聞いた警察が乗り込んできたらしい。

あの店主はどこまで見えているのだろうか。

それと例のトリニティの生徒は暫くカイナにある病院で入院が決まったらしい。どれ程の間、監禁されていたのかは分からないが、少し痩せこけていたから恐らく体の状態は良い方でなかったと言える。

いつ、トリニティに戻るかは分からないが体調が良くなったら見舞いにでも行こうかと思っている

あの洋館にハルノが居たかどうかを可能であれば聞き出せるかもしれない。

 

 

 

「こんな所か…」

 

時刻は昼下がり。

騒動から一夜明け、タキトゥスは農場兼自宅で長々と記した日誌を静かに閉じた。

そして息を深く吐いて、脱力した様に座っていた椅子の背凭れに背を預けた。

 

「静かだな…」

 

便利屋68の面々は朝からどこかへと出かけており、今この家にいるのは彼のみである。

彼女達が居ないのもあって、賑やかではないが今のタキトゥスからすればこの静けさが丁度良かった。

依然としてハルノは行方不明であるという現実、そして何より自身の無力さとやるせなさも相まって、到底明るく振舞える自信がなかったからだ。

 

──タキトゥスさん!──

 

──スマホ知らないの!?…キヴォトスの外って意外と遅れてるのかな?──

 

──おっきい馬だ!ねぇ、この子の名前は何て言うの?──

 

──貴方は貴方のままでいてね──

 

誰にでも明るく、そして人懐っこいハルノの声がタキトゥスの中で響く。

天真爛漫で、とても良く懐いてくれる子供。血が繋がっている訳ではない。

なのに何故こんなにも歯痒い気持ちになってしまうのだろうか。

胸が張り裂けそうな、下手すれば内側から突き破ってきそうな痛みを感じるのか。

遠い昔に失ったままの何かが、それも大事な何かがタキトゥスの胸の中でざわついていた。

 

「…何を忘れてしまったんだろうか」

 

思い出そうとしても思い出せない感情。

何処かで覚えた筈の感情なのに、それがどうしても思い出せずにいる。

時間をかけて思い出そうとするも、靄が掛かったように思い出そうにない。

こればかりは時間が解決する他ないと思ったのか、タキトゥスは座っていた椅子から立ち上がり、厩舎にいる馬の世話へと向かおうとした時だった。

コンコンと扉をノックする音が室内に響き渡った。来客を告げるその音にタキトゥスは入ってくれと扉の向こう側にいる来客へと伝える。

 

「失礼します」

 

扉の向こう側から聞こえた声。

その声の主は…今回の一件の早期解決を願うクロカのものであった。




今回の短めでございます。

日記部分がやや長くなってしまいましたが…こういうのもあると思ってください。

ではではノシノシ
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