Blue Redemption   作:白黒モンブラン

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静けさが舞う その2

静寂が訪れ、硝煙の臭いが薄っすらと漂う。

地面に倒れ伏し、動く気配を見せない相手を前にして数分。

これ以上の戦闘はないと判断したのかアーサーは肩の力を抜いて小さく息を吐きながら手に持っていた銀のキャトルマンリボルバーをホルスターへ差し込んだ。

 

「これ、返すわ」

 

「ああ」

 

隣に立っていたアルが黒のキャトルマンリボルバーをアーサーへと差し出す。

それを受け取り逆手ホルスターへ納めると彼は尻もちをついたまま動かずにいる少女へと歩み寄った。

 

「もう大丈夫だ。…動けるか?」

 

片膝をついて手を差し出すも、少女に動きはない。

その様子を見てアーサーは無理も無いかと胸の内で呟いた。

ついさっきまで人質にされて、その前までは長い間、暗く息が詰まる様な場所で監禁されていたのだ。

助けを求めようとしても求める事が出来ない状況。

それからようやく解放されたと実感すれば力も出なくなるものである。

今すぐにでもここから出るべきなのだろうが、無理に動かすのも如何なものかというもの。

落ち着くまでアーサーはアルと共に周囲の警戒をしつつも少女から少し離れた位置で待機する事にした。

 

「彼女…トリニティの生徒ね」

 

「トリニティ……ああ、クロカ達にスマホとやらの扱い方を教えてもらっていた際に検索の練習でそんな学校の名前を調べた覚えがある」

 

「調べなくても普通に有名校なんだけど?それにスマホの扱い方を教えてもらってたって…どんな時代を生きていたのかしら」

 

そういう時代(1 8 9 9 年)だ。このキヴォトスからすれば、全てが原始時代に見える様な時代さ」

 

「いや、どんな時代よ」

 

俄かには信じられないといった表情を見せるアル。

このキヴォトスにおいて当たり前にある物がアーサーが生きていた時代にはなかったのだ。

寧ろ彼からすれば、何世紀進んだらこうなるんだ?と思う程にこのキヴォトスは先を行っている…いや、行き過ぎていると言っても過言ではないのだ。

 

「有名校に在籍する生徒が誘拐された。これを聞いてトリニティとやらが何もしないと思えんが」

 

「動いているとは思うわ。下手すればカイナに居ると言うのも向こうは知っているかも知れないわね」

 

「仮にそうだとして、何故動かない?」

 

「詳しい事は知らないわ。でもこういう事(人助け)って何かにつけて理由や書類がいるみたいな話を聞いた事があるわ。…そういうの私からしたら好ましくないけど」

 

まるで政治だ。

アルの台詞を聞いて、アーサーが一番に感じたのがそれだった。

だがこのキヴォトスに暮らし始めてから、思い当たる節が無い訳ではなかった。

カイナ農場学園の生徒会長たる嘉納ハヅキは学校の運営方針やその行政を担っているのを以前話した際に聞いた。

そして学校という存在が、ただ勉強や心身の発達を学ぶだけの場所ではないというのを薄々気付いていた。

 

「…学校の存在が、そしてその学校が収める区が言わば国みたいなものか」

 

子供が学区という国を治め、そして他の学区や学園との間で高度な政治を執り行う。

だからこそ大義名分には理由や書類、長期間による交渉が必要になってくる。

本来それを行うべき大人に代わって…身に余る程の責任と重圧を背負う子供がいる。

当然ながら好き放題する子供もいる。

自由と称した無責任を行使する者、行き場のない怒りをぶつけるかのように不法行為を働く者。

否応なしにその道へと進まざるを得ない者もいるだろう。

そして大人たちは本来担うべき責任を放棄し、騙し、搾取し放題とやりたいようにしている。

 

(透き通る様な空をしている割に…)

 

そう思いかけた所で、アーサーはその先の言葉をあえて口にはしなかった。

もしそうなのであれば、こうして運よく過ごせている自分はどうなんだろうかと。

誰かしらの善意や優しさがあったからこそ、こうして生きている。

このキヴォトスを一概に優しくない世界だと決めつけるのは気が早い…そう思ったのだ。

 

「そろそろ移動しよう」

 

そろそろここから移動すべきと提案したアーサーに隣に立っていたアルは肯定を示す様に頷く。

するとアルは地面に座り込んだまま動かずにいる少女の元へと歩み寄った。

 

「立てるかしら。無理なら肩を貸すわ」

 

「だ、大丈夫。あなた、もしかしてゲヘナの…」

 

「ええ、そうよ。けどそこを気にしているのであれば言っておくわ」

 

少女の手を握り、そのまま立ち上がらせるアル。

そして少女の目を見つめながら、彼女は言葉を紡ぐ。

 

「ゲヘナだから、トリニティだから、そんなものは関係ない。書類も理由も、長ったらしい交渉なんて無い……私がそうしたいからそうしているだけよ」

 

そこに邪なものなど無い。

只々、純粋に。己が思った事を行動に移しているだけ。

そんな姿を見て少女は目を丸くし、そしてアーサーはふと思う。

自身を救い、様々な事を教え、息子の様に思っていると言っていた(ダッチ)が陸八魔アルという少女の生きざまを見たら、どの様に思うだろうかと。

 

 

 

トリニティの少女を連れて、アーサーとアルは途中で合流したハヅキと共に洋館の外へと出ると外での警戒に当たっていた残りのメンバーと合流していた。

手足を縄で縛って逃げださないようにした猫の獣人を引きずりながら、ではあるが。

そんな中で薄っすらと漂う硝煙の臭いが緩やかに吹いた風によってどこかへと連れ攫われていく中でアーサーはふと、ん?と疑問の声を上げた。

 

「クロカとセツラは?」

 

「まだ来ていないけど…合流してないの?」

 

パーカーのポケットに手を差し込みながら二人が来ていない事を伝えるカヨコ。

まだ中に…?と思い洋館へと振り向いたアーサーだが、それと同時に洋館の正面扉が開いたのに気づく。

洋館から出てきたのはクロカとセツラの二人。その事に安堵しながらもアーサーは眉を顰めた。

 

(何故二人なんだ…?)

 

本来そこに居るべきだろう人物がいない。

胸の中で、ざわめきを感じ取ったアーサーは二人の元に歩み寄ると迷うことなく尋ねた。

 

「…ハルノはどうした」

 

「……」

 

その問いに対する答えは直ぐには返ってこなかった。

クロカの顔は俯き、セツラは歯がゆさを表情に出している。

それが何を意味しているのか。考えるまででもなく、アーサーには理解できた。

 

「そうか」

 

ここにハルノはいない。いや…既にいないという事実。

それを察すると彼は意識を失ったまま未だに眠りこけている猫の獣人の元へと向かい、痛みを与えない程度にその頬を叩いた。本来であれば殴って叩き起こそうかと胸の内に宿る怒りを抑えながら。

 

「っ…あぁ、くっそ…」

 

叩き起こされ、目を覚ました猫の獣人だが開口一番に出たのが悪態だった。

だが、そんなものはどうでもいいと言わんばかりにアーサーは問うた。

 

「攫った生徒をどこにやった」

 

「はっ…知るかよ。てめぇらの探し方が悪いだけなんじゃねぇのか」

 

挑発するような物言い。

だが、そんなものは通用しない。確実にこいつは何かを知っている。

誰しもがそれを感じ取り、どうやって情報を吐かせるべきかと思い悩んだ。

銃をちらつかせた所で意味は無い。寧ろ喜びながら撃てと言いかねないだろうと思われた時だった。

 

「どうしたよ…何か言っ、うぐぅ!!?」

 

思い切り胸倉をつかみ、抵抗する間も与える事も無く猫の獣人を引き寄せるアーサー。

そこに映ったアーサーの鬼気迫る表情に思わず猫の獣人は小さくであるが怯えた声を漏らした。

 

「おしゃべりは後だ。…もう一度言うぞ、生徒をどこにやった」

 

「…くたばれ、カウボーイ野郎」

 

「っ!」

 

一向に情報を吐こうとしない猫の獣人に我慢の限界が訪れたのか勢いよく拳を振り上げるアーサー。

一発どころか五発ぐらい殴れば素直に吐くだろう。

アーサーの中に潜むかつての暴力装置としての側面が露わになろうとした矢先だった。

 

「私たちが襲撃に来るのを知っていたな?」

 

セツラが口にした台詞に、その場が凍り付いた。

そして同時にセツラ以外の面々がその台詞に耳を疑い、猫の獣人の表情が強張った。

 

「お前の仲間を脅して情報を吐かせ、攫った生徒を閉じ込めている場所に向かった時だ。普段から鎖と南京錠で落とし戸の扉を閉じているみたいだが…私たちが着いた時はそれが中途半端に放置されているのが気になった」

 

「ぐ、偶然そうだったとは思わねぇのか…」

 

「お前たちにとって攫った生徒は何らかの価値があるのだろう?であれば、杜撰な管理はしない筈…。現に落とし戸の先にある牢には生徒の姿はなかった。まるでこうなる事を見越して他へ移動させたようにも感じられた」

 

「……っ」

 

「私たちがお前たち誘拐犯グループの隠れ家がここにあると知ったのは今日の昼頃だ。加えて言うと情報を吐いた二人はお前たちと連絡できないように手は打ってあったし、情報もここにいるメンバーと一部しか知らない。だから今、こうして襲撃を仕掛けた。お前たちに気付かれていないと絶対的な自信を持ってな」

 

だが、そこに探している人物は居なかった。

まるでこちらの動きが分かっているかのように、誘拐犯グループはアーサー達が襲撃を仕掛けてくる前に既に行動を起こしていた。

そこから分かるのはただ一つとか言えないだろう。

 

「私が問いたいのは二つだ。攫った生徒をどこに隠したのか、それとお前たちに情報を流した奴の情報だ」

 

「誰が話すかよ…!」

 

「そうか…非常に残念だ。あまりこうした手は取りたくないんだがな」

 

そう言ってセツラが銃剣を差し込むホルダーの隣に吊り下げたものに手を伸ばした。

一体何をするつもりだと思われた時、彼女が手にしたものを見て獣人はぎょっとし、アーサーは目を丸くした。

接近戦を得意とするのは周知の事実。加えて専用の銃剣を所持しているのも知っている。

ライフルと銃剣。セツラが持っているのはその二つだけだと彼は思っていたのだ。

だが、彼女は銃剣以外にももう一つ武器を持っていたのだ。

それもトマホークという投擲武器兼近接武器を。

 

「お、おい…そいつで何するつもりだ!?」

 

専用の銃剣とは違い、トマホークの刃が潰されていない事に気付いたのか猫の獣人は慌てふためく。

 

「お前を脅す為だが?銃をちらつかせた位じゃ吐かないからな…こうするのが手っ取り早い」

 

逃げ出そうとしても手足を縛られている為、逃げ出す事も出来ない。

ジタバタと暴れるだけで無慈悲にもトマホークを持ったセツラが歩み寄ってくる。

一歩、また一歩と地を踏みしめる様にゆっくりと迫ってくる彼女の姿は最早生徒の皮を被った死神にしか見えないだろう。

 

(ちょ、ちょ…ちょっと不味くないかしら!?目が据わっているんだけど!?)

 

(…カイナ農場学園って無名校じゃなかったけ?間違っても戦闘民族の集まりじゃないよね?)

 

(こ、こ、これは…どうすればいいのでしょうか…!?)

 

(…流石にそこまでする気はないとは思うけど。やばかったら止めないとね)

 

カイナ地区と言う田舎。その無名校に属する生徒が見せる一面に便利屋たちは驚きを隠せない。

好戦的ではあると思っていたが、まさかここまでやる様な生徒だとは思わなかったのだ。

流石に一線を越えてしまいそうなら止めるべきと判断し、その成り行きを見守る事にした。

 

「貴様は学園の生徒、ひいては私達の大事な友人を誘拐した」

 

先ほどまで猫の獣人の胸倉を掴んでいたアーサーはそのそばを離れ、歩み寄ってくるセツラに道を譲っていた。

その歩みに水を差す様な無粋な真似はしない。その怒りは間違いなく正当なものであると分かっていたからだ。

手にしたトマホークの刃が月明かりに照らされ、ゆらりと輝く。

これから起きる事を暗示している様なそれに猫の獣人は酷く怯え、今すぐにでも逃げ出したいのか無理やりでも体を動かして向かってくるセツラから離れようとしていた。

だがそれも意味はない。ジタバタと暴れる猫の獣人の首元にトマホークが振り下ろされ、その刃が首の薄皮に宛がわれた時、それは告げられた。

 

「お前ここから五体満足で帰れると思うなよ?剥製にするぞ、猫野郎(クソ猫)…!」

 

目は据わり、紡がれた台詞はただの脅しではない。

下手な事を言えば、間違いなく剥製にされるだろう。

セツラの圧に根負けしたのか、或いは命惜しさか目尻に涙を貯めながら猫の獣人は叫ぶように情報を吐いた。

 

「あ、相手の事は知らない!ボイスチェンジャーを使ってたから男か女かも分からねぇ!そいつから突然連絡が来てアンタらが襲撃に来るから攫った生徒を別の所に移動した方が良いと言ってきたんだ!!準備が出来たら後はこっちがやっておくって言ってたから、何処にやったのかも知らない!!嘘じゃねぇ!!」

 

「それで全部じゃないだろう?ほら、吐けよ」

 

トマホークの柄を握る手に力が籠る。

本当に剥製にされかねないと思ったのだろう。思い出せる限りの情報を口にしていく猫の獣人。

 

「か、か、金に困ってたんだ!デカい借金を背負ってて…そこに電話越しでそいつに頼まれたんだ!アンタらの所の生徒を攫ったら借金をチャラにしてくれるって!!」

 

「誘拐を依頼したそいつと、情報を提供したそいつは同じか?」

 

「わ、分からねぇ!情報を寄越したそいつと同じ様にボイスチェンジャーを使ってたんだ!」

 

もうこれ以上は知らねぇ…!もう知らないんだ!と泣き叫ぶ猫の獣人。

此処まで来たら、本当に嘘は言っていないのだろう。

首に宛てたトマホークを下ろし、セツラは周囲に視線を飛ばす。

 

──もう得られる情報はない──

 

飛ばされた視線からそれを感じ取るとアーサーが静かに呟く。

 

「…行くぞ。山羊の店主と合流するぞ」

 

「あれはどうするの?」

 

身を拘束され逃げ出す事も儘らないと言うのに、猫の獣人は狂ったように叫ぶ。

ただ只管に自分はこれ以上は知らない、知らないんだと。

そんな様は余りにも哀れだが、同情はしない。自ら行いに対するツケが今になって来ただけに過ぎないのだから。

 

「放っておけ。…あれはもう救えん」

 

そう告げ、アーサーは踵を返して静かに歩き出す。

彼に続く様に他のメンバーをその後を追った。

後方から聞こえる叫び声が段々と小さくなっていき、夜風が肌を撫でる。

そしてアーサーは思い出す。

 

──放っておけ──

 

──イカれていると言っただろ──

 

あの時もそんな感じだったような気がする、と。

薄っすらと思い出される記憶。燃え盛る洋館に転がる死体、そして泣き叫ぶ老婆。

今との違いを上げるとするのであれば、館は燃え盛ってはおらず、死体も転がってはいないという事だろうか。

そしてあの時と今と同じ所は、探していたものは此処には無いという余りにも非情な現実だった。




前回の投稿から期間が開いてしまいましたが、お久しぶりです。

今作を書き始めて、原作が気になってゲームを購入したという感想や様々な感想を頂けたのは本当にモチベーションに繋がっております。
(感想を返信出来なかった事もあったので…それについて大変申し訳ございません)

評価者数が50人に達し、赤を維持したままゲージがマックスになった事と、お気に入り登録数が500人を超えた事は本当に喜びでしかありません。
拙い文章に加えて、一話における文章量にばらつきがありますが、高評価、お気に入り登録、また誤字脱字報告をしてくださる皆様。
この場を借りて申し上げます。心より感謝申し上げます。
これからもよろしくお願いします。


さて、あの時とは少し違えど、結果は求めたものにはならなかった。
加えて内通者の存在が示唆されてきました。さてはてどうなる事やらか…。

ではでは次回にノシノシ
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