light
The Works "【場照図】眠れぬ夜は【acjk】" includes tags such as "鯨人", "場照図" and more.
【場照図】眠れぬ夜は【acjk】/Novel by 西塚

【場照図】眠れぬ夜は【acjk】

2,833 character(s)5 mins

モラル大崩壊のacjkです。二人とも既婚者設定。直接的な性描写はありませんが、とにかくacくんに抱かれたいjkさんがいます。なんでもありな方のみどうぞ。

※実在する人物、関係者及び団体には一切関係ありません。
※公開ブクマはお控えください。

1
white
horizontal

深夜3時を回った頃、布団にくるまれながら少しずつ焦りを感じていた。眠れないことへの焦りだ。明日は早朝入りのロケがあり、そのあと立て続けに劇場での仕事が入っている。寝返りを打っては、何度もスマホで時間を確認する。

「あかんわ…」

不眠症で眠れなかった日々を思い出す。究極の寂しがり屋が原因だったせいか、結婚してからは改善されていた。今は単身赴任で一人暮らしをしているが、昨年末の賞レース大会以降は有り難いことに忙しい日々が続いていて、その疲れから布団に入ると苦労なく眠れていた。…その、はずだった。ここ最近、そのバランスが崩れている。

きっかけは何だったかと聞かれると、それもよく分からない。充実した日々を送っているはずなのに、この生活に慣れた頃、なにか物足りなさを感じるようになって、そしたら不安に駆られるようになって、気づけば眠れない日々が再発した。

頭を真っ白にして、なにも考えないようにする。なんども寝返りを打ち、何度も時計を確認する。

「もう朝やん」

気づけば外は明るくなっていた。


*****


この真夏に外でのロケはキツい。その上眠れていないとくれば、このダルさは致し方ない。炎天下の中、隣の相方は身体を張って盛り上げている。その様子を呆れながらツッコミを入れる。大丈夫、なんとか仕事をこなせている。

「お疲れさまです!」

スタッフの一声で、どっと力が抜ける。すぐに移動しないといけないのは分かっているが、身体が思うように動かなかった。心配したマネージャーが慌ててこちらへ駆け寄ってくるが、その様子を最後まで見届ける前に目の前が真っ暗になる。その瞬間、後ろから誰かに支えられたのが分かった。周りが騒がしくなり、自分の名前を呼ぶ声が聞こえる。心配かけて、すんません。はよ、謝らんと。あと、誰か分からんけど、抱えてくれて有難う。


*****


目を開けるとそこは見慣れた部屋だった。眠れずに何度も寝返りを打って朝を迎えた部屋。自分の家だった。現状を把握するのに頭をひねるが、ロケが終了した後何があったのかよく思い出せない。カーテン越しの窓を見れば外は真っ暗。ハッとして携帯を手に取ると画面には21時と表示されている。ドクドクと心臓の音が速くなる。

「え、ロケやった後、劇場の仕事あったよな…?」

朝起きて、ネタのチェックを何回もしたはず。あれ…?記憶がない…。速まる心臓に、ギュッと胸を抑える。落ち着け、落ち着け俺…


「寺家くん、起きた?」

「うわぁ!!」


とうとう心臓が止まったかと思った。そこにはここに居るはずのない相方、エースの姿があった。

「失礼やなぁ、」

「すまん、でもエース、なんでここにおんの?」

「覚えてないんすか?」

「覚えてないから聞いてんねん」

エースはポリポリと頬を搔きながら、今日あった一部始終を話してくれた。自分が倒れた後、病院へ連れて行ってくれたこと。ロケはなんとか終了していたが、その後の仕事はエースや他の芸人たちの助けもあり無事に開演できたこと。

「ありがとう、エース。皆にもお礼言わなあかん」

「それより体調どんなですか?」

「大分楽やで、俺、熱中症やったん?」

「いや、寝不足」

「え?」

「いやまぁ、睡眠不足による軽い熱中症とか何とか」

「やってもうたなぁ」

「また眠れんのんすか?」

「んん…」

最近眠れていなかったことは、エースには言えなかった。心配をかけるからとかではなく、繊細なやつだと思われたくなかったからだ。それともう一つ、思い出したくない思い出があったから。

「昔、寝る為によく角のウイスキー飲んでたでしょ」

「懐かしいな。でも酒は辞めてるから、飲まれへんし」

「薬とかは?前飲んでたやつ」

「あー」

逆流性食道炎患ってるから、これ以上薬も増やしたくない、と伝えると怪訝な顔をされる。

「それじゃあ、解決方法ないやん」

「そやねん」

「家族に早く来て貰うとか」

「俺のわがままで、そんなん出来へんよ」

せめて誰かが側にいてくれたら、と思う。ちらりとエースを見ると、その強い眼差しでこちらを見つめている。思い出してしまう。あの夜を。不眠症で酒浸りになりながら、エースにすがり付いて抱いて貰ったあの夜を。俺がエースに好きだと言って、フラれて、忘れるから抱いてくれとせがんだ夜を。違う、エースじゃなく、まだ角だった頃。

「なんも変わってないっすね、寺家くん」

「え?」

「俺を見る目、あの頃のまんまや」

「…どういうこと?」

近づいてくるエースに、思わず尻を着いたまま後ずさりをする。

「俺に抱かれたくてたまらんって目」

「アホ言うな、今の俺には家族が…っ」

「…なんで俺のこと好きなのに、結婚したんですか」

そんなん、お前が振ったからやろ。次の恋に進むと決めて、好きな女性と出会えた。子供も出来て幸せなのに、何でそんなこと言われなあかんの。

「お前やって、結婚したやろ…」

「そりゃ、好きな女が出来たらするでしょ」

「じゃあ何でそんなこと聞くん」

「やから、寺家くんが未だにそんな目で見てくるから」

そんな目って、どんな目してるん。俺はお前を断ち切って、好きな女性と結婚した。お前に未練もない。ただ眠れなくて、あの夜を思い出しただけだ。

「…なに?じゃあ抱いてくれんの?あの時みたいに…好きでもない男を?」

自分でも何を言っているのか分からない。考えていることと、口から出た言葉は全くの別物だった。自分を卑下しながら、まるで期待しているような。昔の自分になど欠片も戻りたくないくせに。

「俺は好きでもない人は、抱けません」

「分かってるよ、冗談やから」

「そういう意味ちゃいます、昔、俺が寺家くんを抱いた理由です」

「……なん、て?」

「好きやから抱きました」

「いや、お前、俺のこと振ったやん」

「そりゃ、コンビが付き合ったら駄目でしょ。全部仕事に響きますよ」

「お前、ほんまリアリストやな…」

肩の力が抜けた。それは良い知らせなのか、悪い知らせなのか、どちらにせよ聞きたくなどなかった。絶望なのか、希望なのか。近づいてくるエースの肩を制止する、駄目だと分かっていた。俺にとっても、こいつにとっても。

「寺家くんが、眠れるようになるまで、それならええでしょ?」

…アカンに決まってるやろ。

「何も考えれんようにしてあげます」

「あかんよ…」

「好きでした、ずっと」

「ずるいわ」

「寺家くん」

最低や、お前は。俺がどんな思いで、お前を諦めたか知らんやろ。…でもお前は?俺のこと好きやったんなら、俺が結婚して子供出来た時どう思ってたん?なぁ、お前も俺と同じやった?

「かど…、抱いてくれ、あの時みたいに、」

もう一度、眠れるようになるまで



Comments

The creator turned comments off
Potentially sensitive contents will not be featured in the list.
Popular illust tags
Popular novel tags