【場照図】眠れぬ夜は【acjk】
モラル大崩壊のacjkです。二人とも既婚者設定。直接的な性描写はありませんが、とにかくacくんに抱かれたいjkさんがいます。なんでもありな方のみどうぞ。
※実在する人物、関係者及び団体には一切関係ありません。
※公開ブクマはお控えください。
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深夜3時を回った頃、布団にくるまれながら少しずつ焦りを感じていた。眠れないことへの焦りだ。明日は早朝入りのロケがあり、そのあと立て続けに劇場での仕事が入っている。寝返りを打っては、何度もスマホで時間を確認する。
「あかんわ…」
不眠症で眠れなかった日々を思い出す。究極の寂しがり屋が原因だったせいか、結婚してからは改善されていた。今は単身赴任で一人暮らしをしているが、昨年末の賞レース大会以降は有り難いことに忙しい日々が続いていて、その疲れから布団に入ると苦労なく眠れていた。…その、はずだった。ここ最近、そのバランスが崩れている。
きっかけは何だったかと聞かれると、それもよく分からない。充実した日々を送っているはずなのに、この生活に慣れた頃、なにか物足りなさを感じるようになって、そしたら不安に駆られるようになって、気づけば眠れない日々が再発した。
頭を真っ白にして、なにも考えないようにする。なんども寝返りを打ち、何度も時計を確認する。
「もう朝やん」
気づけば外は明るくなっていた。
*****
この真夏に外でのロケはキツい。その上眠れていないとくれば、このダルさは致し方ない。炎天下の中、隣の相方は身体を張って盛り上げている。その様子を呆れながらツッコミを入れる。大丈夫、なんとか仕事をこなせている。
「お疲れさまです!」
スタッフの一声で、どっと力が抜ける。すぐに移動しないといけないのは分かっているが、身体が思うように動かなかった。心配したマネージャーが慌ててこちらへ駆け寄ってくるが、その様子を最後まで見届ける前に目の前が真っ暗になる。その瞬間、後ろから誰かに支えられたのが分かった。周りが騒がしくなり、自分の名前を呼ぶ声が聞こえる。心配かけて、すんません。はよ、謝らんと。あと、誰か分からんけど、抱えてくれて有難う。
*****
目を開けるとそこは見慣れた部屋だった。眠れずに何度も寝返りを打って朝を迎えた部屋。自分の家だった。現状を把握するのに頭をひねるが、ロケが終了した後何があったのかよく思い出せない。カーテン越しの窓を見れば外は真っ暗。ハッとして携帯を手に取ると画面には21時と表示されている。ドクドクと心臓の音が速くなる。
「え、ロケやった後、劇場の仕事あったよな…?」
朝起きて、ネタのチェックを何回もしたはず。あれ…?記憶がない…。速まる心臓に、ギュッと胸を抑える。落ち着け、落ち着け俺…
「寺家くん、起きた?」
「うわぁ!!」
とうとう心臓が止まったかと思った。そこにはここに居るはずのない相方、エースの姿があった。
「失礼やなぁ、」
「すまん、でもエース、なんでここにおんの?」
「覚えてないんすか?」
「覚えてないから聞いてんねん」
エースはポリポリと頬を搔きながら、今日あった一部始終を話してくれた。自分が倒れた後、病院へ連れて行ってくれたこと。ロケはなんとか終了していたが、その後の仕事はエースや他の芸人たちの助けもあり無事に開演できたこと。
「ありがとう、エース。皆にもお礼言わなあかん」
「それより体調どんなですか?」
「大分楽やで、俺、熱中症やったん?」
「いや、寝不足」
「え?」
「いやまぁ、睡眠不足による軽い熱中症とか何とか」
「やってもうたなぁ」
「また眠れんのんすか?」
「んん…」
最近眠れていなかったことは、エースには言えなかった。心配をかけるからとかではなく、繊細なやつだと思われたくなかったからだ。それともう一つ、思い出したくない思い出があったから。
「昔、寝る為によく角のウイスキー飲んでたでしょ」
「懐かしいな。でも酒は辞めてるから、飲まれへんし」
「薬とかは?前飲んでたやつ」
「あー」
逆流性食道炎患ってるから、これ以上薬も増やしたくない、と伝えると怪訝な顔をされる。
「それじゃあ、解決方法ないやん」
「そやねん」
「家族に早く来て貰うとか」
「俺のわがままで、そんなん出来へんよ」
せめて誰かが側にいてくれたら、と思う。ちらりとエースを見ると、その強い眼差しでこちらを見つめている。思い出してしまう。あの夜を。不眠症で酒浸りになりながら、エースにすがり付いて抱いて貰ったあの夜を。俺がエースに好きだと言って、フラれて、忘れるから抱いてくれとせがんだ夜を。違う、エースじゃなく、まだ角だった頃。
「なんも変わってないっすね、寺家くん」
「え?」
「俺を見る目、あの頃のまんまや」
「…どういうこと?」
近づいてくるエースに、思わず尻を着いたまま後ずさりをする。
「俺に抱かれたくてたまらんって目」
「アホ言うな、今の俺には家族が…っ」
「…なんで俺のこと好きなのに、結婚したんですか」
そんなん、お前が振ったからやろ。次の恋に進むと決めて、好きな女性と出会えた。子供も出来て幸せなのに、何でそんなこと言われなあかんの。
「お前やって、結婚したやろ…」
「そりゃ、好きな女が出来たらするでしょ」
「じゃあ何でそんなこと聞くん」
「やから、寺家くんが未だにそんな目で見てくるから」
そんな目って、どんな目してるん。俺はお前を断ち切って、好きな女性と結婚した。お前に未練もない。ただ眠れなくて、あの夜を思い出しただけだ。
「…なに?じゃあ抱いてくれんの?あの時みたいに…好きでもない男を?」
自分でも何を言っているのか分からない。考えていることと、口から出た言葉は全くの別物だった。自分を卑下しながら、まるで期待しているような。昔の自分になど欠片も戻りたくないくせに。
「俺は好きでもない人は、抱けません」
「分かってるよ、冗談やから」
「そういう意味ちゃいます、昔、俺が寺家くんを抱いた理由です」
「……なん、て?」
「好きやから抱きました」
「いや、お前、俺のこと振ったやん」
「そりゃ、コンビが付き合ったら駄目でしょ。全部仕事に響きますよ」
「お前、ほんまリアリストやな…」
肩の力が抜けた。それは良い知らせなのか、悪い知らせなのか、どちらにせよ聞きたくなどなかった。絶望なのか、希望なのか。近づいてくるエースの肩を制止する、駄目だと分かっていた。俺にとっても、こいつにとっても。
「寺家くんが、眠れるようになるまで、それならええでしょ?」
…アカンに決まってるやろ。
「何も考えれんようにしてあげます」
「あかんよ…」
「好きでした、ずっと」
「ずるいわ」
「寺家くん」
最低や、お前は。俺がどんな思いで、お前を諦めたか知らんやろ。…でもお前は?俺のこと好きやったんなら、俺が結婚して子供出来た時どう思ってたん?なぁ、お前も俺と同じやった?
「かど…、抱いてくれ、あの時みたいに、」
もう一度、眠れるようになるまで