「流石は便利屋68だな。たった四人にも関わらず、あれだけの敵を圧倒している」
激しいまでの銃撃戦が繰り広げられる中、セツラは愛銃『クローズ・ファイティング』のボルトを後退させながら、大軍を相手取る便利屋68に感心した声を上げた。
戦いが始まってからというもの、圧倒的な戦力で前線を押し上げる便利屋とアーサーに対してカイナ農場学園のメンバーはどちらかと後方支援に徹していた。
余り前に出過ぎては互いのカバーがしづらくなるといった意味合いもあるのだが、カイナ農場学園のメンバーが持つ銃が弾幕形成や長距離射撃に適しているからといった意味も含まれている。
「正しく少数精鋭といった所ですね。彼女達の存在は本当に心強い」
「だな」
眩しいまでのマズルフラッシュ。重く響く連射音。飛び出す無数の薬莢が地に落ちる度にその音を奏でていく。
開戦の火蓋が切られて早々、ハヅキは愛銃『オーバーファイア』を小刻みに撃つのではなく最初から全開と言わんばかりにフルオートで弾をばら撒いていた。
その弾幕は銃弾の嵐を飛び越えて銃弾の大嵐とも言える程に凄まじく、彼女を狙おうとする敵或いは彼女の前に立ちふさがった敵は反撃する間もなく、いとも容易く一蹴されていた。
普段の様子からは想像できない程の戦いっぷりではあるが、彼女を知るセツラや轟音とも言える発射音を響かせるライフルを放つクロカからすればこれが当たり前だったりする為、今更驚くような事でもないのだ。
「とは言え、一番前を一人に任せるのは荷が重いな」
バルコニーに敵は居ないとはいえ、暴れ回るハルカがいる洋館広場前は敵は多く居た。
幾ら耐久力があろうと彼女一人では荷が重いと判断したセツラは専用のベルトに提げた一振りの銃剣を引き抜いた。
だが、それは銃剣と言うには余りにも大型と言えた。
装着するよりも普通に持って戦った方が良いのではと言える程に、その見た目は銃剣らしくなかった。
カヨコと共に銃撃戦を繰り広げているアーサーが、セツラが持つ銃剣を見れば恐らくこう言うだろう。
──銃剣じゃなく、山刀の間違いじゃないか?──
そう言われても可笑しくない程に大きいのだ。
そんな大型とも言える銃剣だが実は特注品であり、たった一振りしかないセツラ専用のものであるが、専用のカバーを刀身に覆わせて、あえて刃を潰しているのが特徴。
そんな銃剣をセツラは突撃を行う際は必ずと言っていい程に装着しているのだ。
そして今、その瞬間が訪れようとしていた。
「前に出るんですね、セツラ」
「後ろよりも前に出て殴りに行く方が性にあっているからな。言わずとも知っているだろう?会長」
「でしたね。では、こちらは何時もの様に」
「ああ──」
──任せた──
クローズ・ファイティングに特注品の銃剣が装着される音が静かに鳴る。
その瞬間、風影セツラは闇夜を潜む影となって消え、洋館広場前で大暴れを繰り広げるハルカの前に立つ敵の集団の間を一陣の風が駆け抜けると先ほどまで銃撃を繰り返してきた敵の集団がピタリとその動きを止めて、そのまま地面に崩れてしまった。
「何が起きて…?」
突然の事に思わず足を止めたハルカ。
どうして敵の動きが時を止められたみたいに止まってしまい、そのまま倒れてしまったのか。
自身の目の前で起きた現象に困惑していると、前方から声が響いた。
「やはりこっちの方があっているな。……良い暴れっぷりだな、便利屋のハルカとやら」
「え、あ、は…はい。ど、どうも…?」
「何故疑問形なのか分からんが…さて──」
特注品の銃剣を装着したクローズ・ファイティングを肩に担ぎながら、周囲を軽く一瞥するセツラ。
未だ多く居る敵。それらを前にしてもセツラの様子に変わりはない。
誰しもがそう思った。先ほど何をしたのか、そんな疑問を頭の片隅に置いておきながら。
「此処からは大暴れ役を一名追加だ。今まで以上に酷くなるが構わないな?…行くぞ」
最後に放った一言と共にセツラは敵集団へと突撃。
まるで瞬間移動したのかと思える様な速さで敵との間合いを詰めた時、まるで何かに殴られたような打撃音と銃声が連続して響き渡り、次々と敵が薙ぎ倒されていく。
突然前に飛び出し、ハルカと交代と言わんばかりに暴れるセツラ。そんな彼女の姿に便利屋もアーサーも思わず困惑を覚えるも、攻撃を再開。
次第に敵の数は減っていき、残りは中に潜んでいるであろうと思われた時だった。
「アレだ!アレを出せ!アイツらを吹っ飛ばせ!」
(アレ…?)
まだ残っていた敵の一人が形勢逆転を狙う為の何かを引っ張りだそうと仲間に叫ぶのを耳にし、クロカは訝しげな表情を浮かべる。
まだ何か隠しているのかと身構えていた時、洋館の屋上に何かが姿を晒したのを彼女は見逃さなかった。
そしてその何かへと視界の捕らえた時、クロカは思わずその目を見開き、生前と今を含めて見た事もないソレを前にアーサーは驚きながらも困惑した声を上げた。
「何だ、あれは…」
機械仕掛けの大人と言うのはアーサーも見た事がある。
だが、洋館の屋上に姿を晒したソレは機械仕掛けの兵器と言えるものであった。
このキヴォトスではパワーローダーと呼ばれる代物であり、装備された武装も此処に居る全員の武器を遥かに上回るもの性能を宿したものばかりだ。
(ただの誘拐犯グループがパワーローダーを所有している…?どこからそんなものを得たの?)
一方で、カヨコは誘拐犯グループがパワーローダーと言う巨額の金が必要となる兵器を保有している事に疑問を覚えた。
買えたとしてもせいぜい戦車か装甲車程度。しかし相手はそれを上回るものを持ち出したと来た。
何かがおかしい。そう思えるだけの違和感がそこにあるのは事実だが、今は思考を巡らせている場合ではないと判断しカヨコはアーサーと共にそこから退避を開始。
敵陣のど真ん中で大暴れを行っていたハルカとセツラもパワーローダーの登場を前にして、流石に危険と感じたのかその場から後退開始。
『おい、どうしたよぉ!攻撃してこねぇのかぁ!?』
前線から下がっていく者達を洋館の屋上から見ていたパワーローダーの搭乗者が外部スピーカーを通じて、煽る様にして叫んだ。
とは言え、このまま見逃すほど甘くはない。この場所を知られた以上は逃がすつもりもない。
後退するアーサー達を狙おうと機体に装備された武装を構えた時だった。
「ん?」
遠くからでもはっきりと聞こえる程の轟音。
その音はコクピット内にいた敵にも聞こえた程であり音に眉を顰めた時、何かが風を切って飛来した。
そしてその飛来したソレが向かったのはパワーローダーの足。
弱点になりがちになる関節部分を守るための装甲を容易く貫通しそのまま関節部分に直撃。
そして、あろう事かそのまま穿った。
その貫通力を物語る様に弾丸は外へと飛び出し、暗闇へと姿を消す。
飛来した一撃によって関節部分は内側からスパークを引き起こした後、爆散。その巨体を支える為の足を失ったパワーローダーは右へと傾き始めた。
「な、なんだぁ!?何で機体が傾いて…!!」
出来てきたのは良いものの早々に退場となったパワーローダー。
形勢逆転を狙ったとっておきは失敗に終わり、バランスを崩して倒れ行くパワーローダーを視界の端に収めつつ、その様を見つめていたセツラはフッと笑った。
何が起きたのか知っているかのような笑み。たまたま近くに居たムツキがセツラへと問う。
「な~んか知っている感じだねぇ、その笑みは」
「まぁな。…今のはクロカの狙撃だ。持っている銃の銃種は言わずとも分かるだろう?」
「対戦車ライフルだよね?戦車ならともかく、パワーローダーの関節部分を一発で貫通なんて一体どんな弾を使ったのさ」
「15.2mm装弾筒付翼安定徹甲弾だ」
「ん?」
「聞こえなかったのか?15.2mm装弾筒付翼安定徹甲弾と言ったんだ。…APFSDSと言えば分かるか?」
「え"…?」
装弾筒付翼安定徹甲弾。
言わば戦車で用いられる徹甲弾を銃弾サイズにまでサイズダウンし、そしてそれをクロカの銃『シュナイダー2000』は撃ったと言うのだ。
対戦車ライフルを使っているという事は知っていたもの、まさかそんな弾丸を使用していたとは知る筈も無く、ムツキの表情は僅かに引き攣っていた。
(とは言え、あの銃は──)
諸説はあるが、結果的に計画はとん挫。
試作品が一丁造られただけに留まり、実用されることはなかったとされている。
それ故にこのキヴォトスではお目にかかる事の出来ない代物であるのをセツラは知っていた。
「…お嬢様学校からの転校生が随分と物騒な物を引っ提げてきたものだな」
静かに呟いた台詞。それは片足を失い、バランスを崩した事で洋館の屋上から落下しパワーローダーが地面に激突する際に、破砕音にも近い音を響かせたことで誰にも聞かれることはなかった。
「これで洋館の防衛部隊は片付いたわね。残りは…」
「あの猫野郎とそのお仲間たちだ」
誘拐犯グループが出した虎の子、パワーローダーが破壊され、洋館周辺は先ほどまでの銃撃戦から打って変わる様に静けさに包まれていた。
だがまだ終わってはいない。この場には居ないが中に潜んでいる主犯格とそのオマケが残っている。
そしてこの洋館の何処かに囚われているであろうハルノを見つけ出す事も残っているのだ。
気を抜くにはまだ早すぎると言えるだろう。
「ハヅキ、セツラ、クロカの三人は洋館に行ってハルノを見つけ出せ。アル、カヨコ、ムツキ、ハルカは外で待機。奴らのお仲間がこっちに来るようだったら問答無用で撃て」
「タキトゥスさんはどうするのかしら」
「洋館に行って、あの猫野郎と他の連中を締め上げてくる」
「…一人でやるつもり?」
アルの問いにアーサーは静かに頷く。
ヘイローも持っていないと言うのに一人で相手取るのは自殺行為でしかない。
せめて誰か付けるべきだ。そう進言しようとしたが、アルの口からそれが出る前にアーサーは歩き出してしまった。
静かに吹いた風が雲を動かし、隠された満月の灯りが洋館へ向かうアーサーを照らす。
一歩踏みしめる度に響く拍車の音。羽織ったコートを風に靡かせながら突き進むその背はどう言葉にしたものか。
かっこいい大人の背?それとも憧れ止まないハードボイルドでアウトローの風格を現した背中?
分からない。正しい様で、けど間違っている様で……今の彼を表す言葉は出てこないままだった。
ただアルには、その背が今にも消えてしまいそうな雰囲気を漂わせているのを感じ取れて仕方なかった。
「さて…ここからが正念場だな」
「ですね」
そんな視線を受けているとは知る筈も無く、アーサーとハヅキ達は洋館の中へと繋がる入り口にまで来ていた。
廃れた洋館だけあって、中からの灯りはなく、異様な不気味さを醸し出している。
シェイディベルのあの洋館も中々なものだったがな、とあの時の事を思い出すアーサー。
「行きましょう」
先導する様にクロカが洋館のドアに手を掛けた時、アーサーはクロカに待ったをかけた。
突然の待ったに三人の視線がアーサーに向けられる。
どうしたのだろうかと首を傾げていると、彼は静かに口を開いた。
「もし俺の身に何かあったら……構うことなくお前たちはハルノと一緒に逃げろ」
自身に身に何かあったら。
まるで、その台詞は暗に"自分が死ぬ"というものを仄めかしている様でもあった。
突然の台詞にクロカ達は思わず困惑してしまう。
「た、タキトゥスさん…?一体、何を言って…」
クロカたちにとって、大事な友人を助ける為の戦いだ。
しかしその発端となったのは、ろくでもない大人たちが原因なのだ。
幾ら銃が扱えたとしても、降りかかる火の粉を子供がこれ以上振り払う必要なんてない。
ここから先、降りかかるであろう火の粉を振り払う役目は自分一人で良い。
これは生前から続くせめての贖罪である一方で──
「良いな…─」
これは大人としての役目、何より責任でもあるのだから。
「お前たちは振り返るなよ」
念を押す様に、敢えて相手に喋らす間を与えないように伝えるとクロカに代わってアーサーは洋館のドアを思い切り蹴破った。
脆くなった扉は破砕音と共にいとも容易く飛んでいき、外から月明かりが差し込む中、それを背にしてアーサーは洋館へと踏み出す。
同時にクロカ、ハヅキ、セツラは何処か後ろ髪を引かれそうな感覚を覚えながらも囚われているハルノを助ける為に洋館内へと消えていき、アーサーは手に持った銀のキャトルマンリボルバーを上に向かって発砲して、隠れているであろう相手に、そして主犯格である小太りの猫の獣人に向かって大きく叫んだ。
「今から行くぞ、クソ野郎ども!覚悟は出来ているんだろうなぁッ!」
前回の話と比べるとやや長めでございます。
今回は何処かきな臭いのを残しながらですが、カイナ農場学園の三人の戦いと洋館内突撃シーンを書かせていただきました。
次回は…さてどうしたものかねぇ。まぁそこはゆっくりと考えましょうかね。