小さな天使と抜け身の剣   作:時空未知

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高評価、コメント、ここすき、ありがとうございます!


ここで、作品の時系列に関してなんですが、プロット考えた結果カルバノグの兎1章途中からだったのが変更になって、それに伴いその事を印象づける部分を修正しています。

……じゃあ何処になったかって?

エ デ ン 条 約 3 章 前 で す




勤務初日

 

 

朝。

 

……とは言え、未だに空は厚い灰色の雨雲に覆われ、周囲は薄暗い。街を見渡せば、立ち並ぶ建物も照明がついているものが殆どだ。

 

その建物の中の1つ、シャーレと呼ばれるビルの上階のとある一室の扉の前に、1人の背の高い少女が立っていた。

 

「ここ、か?」

 

少し窮屈なエンジェル24の制服を着た少女……

グラングは、扉の近くの表示板を見てぽつりと呟く。

そこには、[シャーレ執務室]と銘打たれていた。

扉のガラス越しに見る限り部屋の明かりは消えており、中の様子は明瞭には伺えない。机らしきものの上に何かがうず高く組み上がっていることはわかるが……

 

「……」

 

グラングは少しばかりの疑問を覚えながらも手元に視線を落とす。その手には、履歴書と書かれた1枚の書類があった。

 

ソラと共にエンジェル24で働く事を決めたはいいものの、何やら手続きというものがいるらしく、この紙を手渡されたのがつい先程。

年齢を正直に書いたらソラがひっくり返りそうになった後必死に止められた為、結局18であると偽ったのは記憶に新しい。

 

……この地で商いをするのは、

斯くもままならないことなのか。

 

商売とは今の今まで関わりのないグラングだったが、少なくとも元暮らしていた場所では、仕事をするのに一々手続きをする、といったことはなかったように思う。

 

……まあ、それはさておき、だ。

 

ここに来た目的は、件の書類をこの部屋の主に手渡す為。

これをこなさない事には働けないらしいので、

帰るわけにもいかない。

 

「……失礼する」

 

グラングはそう一声かけると、扉の取っ手に手をかけた。

 

 

キィ

 

 

鍵がかかっていることもなく、

扉はほんの少し軋む音を立てたのみで、

然程力をかけることもなく開く。

……しかし、薄暗い部屋の中には誰かがいる様子はなく、窓に打ち付ける雨の音だけが響いている。

 

「……不在であろうか?」

 

今考えられる中で、

一番尤もらしい可能性をグラングは呟いた。

その時だった。

 

 

「"ん、んん……?"」

「?」

 

 

正面の机の上の山の中から、何かのうめき声が聞こえた。

それと同時に、紙が擦れるガサガサとした音がする。

……どうやら、何かは居たようだ。

それが部屋の主かまでは判別がつかないが。

 

「"モモイぃ?今日は……随分と、早いねぇ"」

 

今度は山の中から、明確な言葉が聞こえた。

しかし、寝ぼけているのか若干声が弱々しい。

その弱々しい声と同じぐらい緩慢な動作で、山の中からその人が何かが起き上がった。それと同時、部屋の中に白い光が灯る。

それによって、漸くグラングは声の主の姿を視認した。

 

「"あれ、モモイ随分と背が高……く?"」

 

そこにいたのは、

ボサボサの黒髪にくたびれた服を着た大人の男性だった。

その頭上には今の彼女やソラのように、光輪が浮いているわけではないらしい。

今にも鼻からずり落ちそうになっている薄いガラス(?)の装飾品の奥にうつるのは黒い瞳。その目元には、かなり深い隈が刻まれている。少なくともあまり健康的な生活は送っていなさそうだ。

どうやら男性は未だ寝ぼけているらしく、グラングの事をモモイという人物と間違えたらしい。

 

……まあ、ソラをマリカと見間違えた自分も、人のことは言えない、か。

 

グラングはそう思い直すと、

ポカンとしている男性に声をかけた。

 

「我は、モモイではない」

「"あ……れ、ほんとだ……というか全然違うや。

ごめんごめん、ちょっと寝ぼけてて……"」

 

あはは……

と、少し気不味そうな笑みで男性はそう言った。とは言え不快感はなく、顔立ちも相まって寧ろ親しみやすそうな印象を受ける。

グラングは、少しばかり感じていた警戒をここで解いた。

さて、問題はこの人物の正体だ。

グラングの予想通りであれば、この人物はソラが言っていたこの建物の主。

名前は……いや、あれを名前と言っていいのか疑問ではあるが。少なくともこの場所ではそれで通じるらしい。

グラングは短く息を整えると、改めてその人物の名を呼んだ。

 

「お主が、[先生]か?」

「"うん、私がシャーレの先生だよ"」

 

その言葉に先生はあっさりと頷いた。

 

……少なくとも、この場所に来たことが徒労で終わることはなさそうだ。

 

心の中で何気なくそんなことを考えているグラングだったが、

そんな彼女に先生は問いかけた。

 

「"っとそれはさておき、君とはこれが初めましてだね。

もしよければ名前って教えてもらえないかな?"」

「……すまぬ、名乗り遅れた。我は、グラングという名だ」

「"わかったよ。よろしくね、グラング"」

「う、うむ」

 

出会ってすぐだと言うのに気さくに話しかけられてこられて、グラングは少しばかり戸惑った。というのも、彼女の故郷ではそういう明るい人物はかなり少なく、唯でさえ人付き合いの薄いグラングは慣れていないのだ。そもそも、立場上好き好んで話しかけてくる人物が……

 

……いや、幾人かいた。

 

グラングの脳裏に、遠い昔の記憶が蘇る。

 

黄金と星砕き、そして最初の王。

もう会うことも、話すこともできない。

それに、黄金の彼に関しては、自分が手にかけたようなもので……

 

 

「"あれ、グラング、どうしたの?"」

「……む」

 

 

その時、ごく短い返答を返した後に何も言わなくなってしまったグラングの様子を疑問に思ったのか、先生が声をかけてきた。その声により、グラングは我に返った。

 

「……すまぬ。少し、物思いに耽っていた」

「"……もしかして、悩み事?

もし良ければ相談にのるよ"」

「いや、そう言った類のものでは、ない」

 

……少なくとも、悩み事ではない。

もう、戻ることはないのだから。

 

グラングは先生に向けてそう返答した。

そう、別に自分は相談をする為にここに来たわけではない。ソラには、ついでに狭間の地について先生に相談してみてはどうかと提案されたが……

……ともあれ、本題は別にある。

 

「……これを、お主に渡せば良いと聞いた」

 

グラングはそう言うと、先生に向けて書類を手渡した。

突然の動作に首を傾げつつもそれを受け取る先生。

しかし、書類の名称を見て納得が行ったようだ。

 

「"お、履歴書……だね。なるほど、それでエンジェル24の制服を……"」

 

先生はグラングの姿……正確には、着込んだ制服を見てそう呟いた後、にっこりと笑った。

 

「"いやー、良かったよ。あそこってソラ……じゃないや、小さい女の子1人だけで接客から管理まで全部しててね。私も偶に手伝いに行くんだけどものすごく大変そうだったから、グラングみたいな体力がありそうな子が来てくれたらものすごく助か……"」

 

グラングに向けて嬉しそうに言葉を紡ぎながら、改めて書類の確認作業に移った先生。

……しかし、次の瞬間。その言葉がガチリと硬直した。

その様子に、一抹の不安を覚えるグラング。

 

「……何か、問題があったか?」

「"え?あ、いや、問題といえば……問題しかな……うむむ"」

 

グラングからの問いかけに、考え込む先生。

問題しかない、と言いかけたようにも聞こえたが、当の本人は尚も考え込んでいる。

 

 

…………

 

 

「"……そうだね"」

 

そう言って先生が再び顔を上げたのは、

しばらくの時間が経ってからのことだった。

その瞳は先程迄と違い、何処か真剣だ。

……グラングの心に、俄に緊張が走る。

 

「"ねえ、グラング"」

「………」

 

先生が、短くグラングに呼びかけた。そして……

 

 

「"一回、耳を触らせてもらっていいかな?"」

 

 

きわめて真剣な表情のまま、先生ははっきりとそう告げた。

 

「…………??」

 

……今、目の前の人物はなんと言った?

 

いや、グラングとて言われた言葉の羅列自体は、(一拍遅れてではあるが)理解したのだ。ただ、その言葉が全く予想できていなかった且つ、何の脈絡もなくあまりにも突拍子だったために脳が情報の正確な意味の処理を拒んだのである。

 

「……お主、今何と?」

 

先生に向けて改めてそう問いかける。

 

「"えっと、出来れば耳を触らせてほしいんだけど……いいかな?"」

 

少し言い方は変わったものの意味としては仔細変わらず。

ここまでくれば流石に、

グラングも先生の言った言葉の意味を理解した。

した、が……

 

……何故?

 

その真意が全く以て理解できない。

これをしなければ、バイトができない。

という規則でもあるのだろうか……?

 

…………

 

「……これでよいか?」

 

長考の末、このまま考え続けても埒があかないと判断したグラングは、先生に向けて軽く腰を折ると、丁度手が届く位置に自分の頭を差し出した。

その行動に対して先生は……

 

「"……あ、あれ?"」

 

言った本人にも拘らず何故だか戸惑っていた。

その様子に、グラングの思考は更なる混迷を極める。

 

「触らぬ、のか?」

「"えと、いやーその、

冗談だったというか……"」

「……?」

 

先生は尚も、言葉を詰まらせたあとに何やら聞き取りづらい声で言っていたが、やがてコホンと大きく咳払いすると、改めてグラングの方を向いた。

 

「"そ、それじゃあ、触るよ……?"」

「……うむ」

 

そう一声掛けて、恐る恐る、といった様子でグラングの耳へと手を伸ばす先生。その手がゆっくりと、白い毛並みのそれに触れた。

 

 

「"……おぉ"」

 

 

先生の口から感嘆の声が零れる。

見た目に違わずもふもふとしたそれは心地よく、気を強く持っていなければいつまでも触ってしまいそうだ。

 

 

もふもふもふもふ……

 

 

「……」

 

因みにグラングの方はと言うと、

耳が触られている間微動だにせず、それが終わるのを待っていた。

多少こそばゆくはあるが、言ってしまえばそれだけ。

それ以上の何かを感じることも一切ない。

 

正直、自分の耳を触って何か楽しいのだろうか?

 

何とも言えない空気感の中、グラングはぼんやり、そうとすら思っていた。

……結局、先生がグラングの耳から手を放したのは、そこから5分ほど経ってからのことだった。

 

「"ありがとう、グラング。何だか仕事の疲れも消えたような気がするよ"」

「……そうか。満足したならば、なによりだ」

 

何故先生がこれで満足したのか皆目見当もつかないが……

まあ、自分の身体を差し出すだけなら安いものか。

 

……グラングがもし、思い浮かんだ言葉をそのまま口に出していたならば、この場に物凄い誤解が生まれかねなかったが、幸いなことにそんなことはなかった。

それよりも彼女にとって重要なことは、果たしてアルバイトができるのかどうかである。

 

「それで、書類のことなのだが……」

「"あ、そのことならもう大丈夫だよ"」

 

グラングの問いかけに対する先生の返答は、至極短いものだった。

 

「"取り敢えず採用面接……みたいなのはこれで大丈夫かな。シフト関係のことはソラに聞いてくれた方が早いしね"」

「……む」

 

どうやら、本当にあれだけでよかったらしい。

予想していたこととはいえ、十中八九他にも何かあると考えていたグラングは、このことに少し驚いた様子だった。そんな彼女へ先生は見定めるでもなく見守るような視線を送っている。

 

 

……ソラといい先生と言い、無償のやさしさと言うものはどうにも慣れない。

 

 

グラングは心の中で小さく呟いた。

うれしくはあるのだが、やはりどうにもとまどってしまう。

 

「……わかった。感謝する、先生」

「"いいのいいの。また困ったことがあったらいつでも言ってね"」

 

先生はそう言って彼女に微笑みかけた。

それに対し、グラングはただ小さく頷くと執務室の外へと向かった。

 

「……」

 

扉の外に出てからふと振り返ってみれば、先生はうずたかく積まれた書類の山と格闘し始めているところだった。しかし、グラングからの視線に気が付くとその手を止め、軽く手を振ってくる。

 

……やはり、慣れない。

 

先生に向けて軽く手を上げて返答しつつも、グラングは再び心の中で呟いた。

 

「……長居は、無用か」

 

グラングは、自らに言い聞かせるようにそう言うと、えれべえたあという名前らしい昇降機へ向けて今度こそ歩き出した。

……その歩みが、廊下の曲がり角へ到達したその時だった。

 

 

「みぎゃっ!?」

「?」

 

 

曲がり角から飛び出してきた何かがグラングの腰辺りにぶつかったのだ。しかし、過去の経験から体幹が鍛えられている彼女は微動だにすることなく、逆に相手の方がそれなりのダメージを負ったらしい。グラングが足元に目を向けると、猫の耳を模した桃色の髪飾りを付けた小さな少女が頭を押さえて蹲っていた。

 

「いってて……こ、こんなところに壁なんてあったっけ……」

「……怪我はな

 

……何やら壁と扱われた気がするが、取り敢えずグラングは少女の傍にしゃがみこむと声かけようとした……が、それは横合いから響いてきた別の声に遮られることとなった。

 

 

「お姉ちゃん!」

「?」

 

 

姉……この少女のことであろうか?

 

グラングが声のした方向へと視線を向けると、うずくまる少女とよく似た容姿の、緑を基調とした色合いの服を着た少女が駆け寄ってくるところだった。

その後ろからは、ぶかぶかの服を着た赤髪の少女と、身の丈ほどもある長方形の箱を担いだ少女もいる。

緑の少女は駆け寄ってくるや否や、姉を叱りつける。

 

「前を見ずに走ったら危ないっていつも言ってるじゃん!」

「えぇ、だって、シャーレの当番って久しぶりだし……」

 

……どうやら、先生が言っていたモモイというのは、

彼女らの内の1人のことだったらしい。

 

グラングがぼんやりとそんなことを考えている合間にも、目の前では彼女のことをそっちのけにして双子の少女の押し問答が続いている。その時、横合いから赤髪の少女がおずおずと2人に声をかけた。

 

「ふ、2人とも。相手の人、こ、困ってる、よ」

「「……あ」」

 

そう言われて漸く少女らは、グラングがいることを思い出したようだ。

 

「「「……」」」

 

見つめ合う両者の間に流れる深く、気まずい沈黙……

一番最初に動いたのは、緑色の少女だった。

 

「すいません!うちのお姉ちゃんが迷惑を……」

「ちょ、ちょっとミドリ、ミドリが謝るのはなんか違うじゃん!?まるで私が落ち着きがないみたいな……」

 

慌てた様子で謝罪と共に頭を下げる少女。そんな妹の言葉に、姉である桃色の少女は抗議の声を上げた。

……しかし、その声も虚しく、背後にいる背負いものをした少女が首をカクリとかしげて一言。

 

「……?モモイがとてもにぎやかなのはいつものことではありませんか?」

「アリス!?」

 

思わぬ方向から、円滑に落ち着きがないと言われて、モモイと呼ばれた少女は悲鳴を上げた。

再び騒がしく成り始めた場の様子に、ミドリはジトッとした視線を向けた。

 

「お姉ちゃん……」

「………」

 

これは、いい加減自分が何か言葉を発しなければ永遠に事態が進行しないのではないのだろうか?

 

グラングはあまり自発的に動くことはない。故に先程からずっと彼女らを静観していたのだが、ここで漸くその可能性に思い至った。それに、先程の衝突に対し自分は特に何も思っていないのだ。事を荒立てる気もない。

 

「……我は、問題ない。寧ろ、お主の姉君に、問題はないか?」

 

故にグラングは、一先ずミドリに向けて普段と変わらぬ調子でそう話しかけた。

話しかけたの、だが……

 

 

「「「「!?」」」」

 

 

その言葉を聞いた少女4人の反応は皆一様、何かに驚いた様子でグラングの事を見ていたのだ。当のグランクの方はというと、何故驚かれているかがわからずキョトンとしている。

そんな彼女に、モモイがおずおずと話しかけた。

 

「あ、姉君って……もしかして、私のこと?」

「……?」

 

その言葉に、グランクは益々首を傾げた。

……本人は知るよしもしないが、彼女の言い回しはキヴォトスではかなり独特のものである。故にその口調に違和感を覚えられるのも当然と言えるが、グラングは自分の言った言葉が相手の気に障ったのかと勘違いしたらしく、申し訳なさげな表情になった。

 

「……そうであるが、不快だったならば「そんなことないよ!!」!?」

 

……だが、次の瞬間。

その表情は彼女の言いかけた言葉と共に、急接近してきたモモイにより消えることとなった。

 

「姉君なんて呼ばれたの初めてだし!それに、話し方も何だか古めかしいというかミステリアスというか……」

「う、うむ……?」

 

どうやらモモイはグラングの口調が気に入ったらしく、目を輝かせながら、詰め寄るようにして彼女に向けて矢継ぎ早に言葉を紡ぐ。熱意という名のその勢いに、グラングはたじろいだ。しかし彼女の勢いは止まらない。更に、モモイの横から背負いものを少女も、何処となく嬉しそうな視線を送ってくる。

 

「なるほど、あなたは序盤の村の司祭なのですね!」

「司祭……」

「ちょっとお姉ちゃんにアリス、相手の人困ってるって!?」

 

いよいよ収拾がつかなくなってきた現場に、遠い目になり始めるグラング。

 

司祭……といえば司祭でもあったが、目の前の少女が言う司祭とはかなり認識に齟齬がある気がする。

……いや、それより。

 

グラングはそこで一旦思考を切り替えた。

そう、ここまで彼女が来たのは、あくまで先生に会って履歴書を渡す為である。余り時間をかけ過ぎると、ソラに要らぬ心配を掛けてしまうかもしれない。

……そう結論を出したグラングは、早めにこの場から立ち去ることを選択した。

 

「……一先ず、お主に怪我は無さそうで良かった。

我は、ここで去らせてもらう」

「あっ」

 

そう言うや否や、グラングは素早く立ち上がるとそのまま足早にエレベーターの方へ向かおうとした……が、

 

「ちょっと待って!」

 

背後から、彼女を呼び止めるモモイの声が聞こえてくる。

……それでしっかり足を止めて振り返るあたり、グラングはかなり律儀な性格である。

 

「……何か、あったか?」

 

極短く、モモイに問いかけるグラング。

そんな彼女に向けて、モモイは元気よく告げた。

 

「名前!せめて名前だけ教えてくれない!?」

「……」

 

その言葉に、グラングはほんの少しだけ考え込む。

褪せた黄金の瞳が少女達の事を一度見渡した後、彼女は口を開いた。

 

「……グラングだ」

「グラングね……わかった!」

 

グラングから告げられた名前をモモイは嬉しそうに口ずさむと、うんうんと頷く。

そしてその後、グラングに向けて軽く手を振りながらシャーレの方へと駆け出した。

 

「また後でエンジェル24に行くから、またねー!!」

「……あの、グラングさん。改めてうちのお姉ちゃんがすいませんでした。

もう、お姉ちゃん待ってって!!」

 

ミドリが姉の姿に呆れつつもグラングに向けてペコリと頭を下げてから去ってゆく。

 

「司祭、またの再会を!」

「あ、ま、待ってみんな……!」

 

その後に続いて、アリスと呼ばれていた背負いものをした少女が、そして結局名前を知ることはなかった赤髪の少女が去ってゆく。

彼女らの足音が消えれば、あっという間に廊下には雨音の静寂が戻っていた。

 

……何故だろう。状況に振り回されていただけだというのに、少しばかり喪失感を感じてしまう。

 

 

「……ソラが、待っている」

 

 

グラングはただ一人ポツリとそう呟くと、エレベーターへと向かった。

 

 

そこからは先程のように、廊下の角から誰かが飛び出してくるわけでもなく、誰かに話しかけられたりするわけでもなく。グラングはソラの待つエンジェル24の前へとたどり着いていた。

ガラス張りの仕切りの向こうには、明るい店内と並べられた商品が見える。

 

……これから、自分はここで商いをする事になる。

 

不意に、そんな実感が押し寄せてきた。

 

「……運命とは、数奇なものだ」

 

グラングはポツリと呟いた後暫く立ち止まっていた。

けれど、やがて小さく顔を振ると、自動で動く摩訶不思議なドアから、店内に戻った。

そして……

 

「ソラ、戻っ……」

 

 

「いいから早くしろって!どうせどっかにはあるんだろ!!」

 

 

……グラングがソラに向けた言葉は、その直後に店内に響き渡った怒声にかき消されることになった。

 

 






どもー、時空未知です。
ということで今回の作品はいかがだったでしょうか?

……いや、遅くなってしまい申し訳ないです。
テスト期間被ったのとちょっとかなりの難病にかかってしまったので投稿遅れてしまいました。


ナイトレインやめられない症候群って言う病気なんですけどね?
重症すぎて飯と寝る時間を忘れてます。
カリゴチャンカワイイヤッター

それはともかく、今回は先生や他のキャラクターとの顔合わせ回でした。次回で今回最後に起こった問題を解決して、プロローグは終わりという形になりますかね。

あ、あと、エンジェル24という立場上、他生徒との絡みを短編という形でやってくつもりです。そのうちアンケート取るかも
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