そんなこんなで、満身創痍の我々西ドイツ4人衆は、多摩川を越えて川崎市に入り、なお少し歩いて、午前4時過ぎに、デニーズへとたどり着きました。
もう、休息を取ったらどんどん時間が無くなっていくとか、そんなことはほとんど頭から消え去っていました。勝負を捨てたのでは決してありませんが、ご馳走を前にした飢えた獣のように、極限まで追い込んだ身体を休めることが出来る場所を前にして、激しい欲求を満たすこと以外の想念が吹き飛んでしまったのです。休めると言っても、もちろん寝転んだり出来るわけではありませんが、今の4人にとっては暖かい場所に腰を下ろすことが出来るというだけでもう天にも昇る気分でした。
我々は店内に入り、その暖かさに感動しながら、大きな仕事を終えた後のよう安堵を感じながら座席に着きました。
そうしたら、もう座った瞬間に身体に溜まっていた疲れと眠気が一気に顔を出して、思わず大きなあくびが出ました。
そして身体を芯から温めるためにスープなどを注文して、一息ついたところで再び作戦会議です。全てを忘れてくつろぐのはほんの2,3分で十分です。本当に、本当に、我々は文字通り崖っぷちまで追い込まれてしまっているのですから。この期に及んでソ連を撃てる見込みが果たしてあるのか、何か方法はないか、もしソ連以外を狙うとしたら、どこで、どの国の、誰を狙うのか・・・そもそもソ連以外への襲撃に成功したところで勝算はあるのか。ギリシャからの裏切りに遭ってしまったことにより、西ドイツは現在ダントツの最下位です。朝から動ける数人の国民を加えたとしても、2発撃ちこんで確実に逆転出来そうなのはソ連とメキシコくらい。ソ連襲撃には万策尽きた感がある。メキシコを狙うにしても、メキシコには強力な防御カードがあるという噂が流れていた上に、メキシコもいまいち正確な所在が掴めません(国民が集まって新宿辺りで遊んでいるとかいないとか、真偽不明の情報しかなかった)。しかもメキシコは、サイバーテロでこのセンソウを席巻していたアフガニスタンが唯一メーリスのパスワードを割り出せなかった国であり、仮に情報を知っていたとしてもアフガンはメキシコに特別恨みを持ってはいなかったため、いずれにせよ居場所を掴むことは難しい。点数に余裕がある第三国を説得して二発撃たせてもらうことに成功したとしても、ギリシャからのダメージもあるのでソ連およびメキシコを上回ることは恐らく不可能。
・・・このように理屈で考えてしまえば、完全に詰んでいるとしか思えませんでした。そして、誰も目の覚めるような打開策を考え出せずにしだいに我々の口数は少なくなっていき、そのままの流れで、少しの間座ったまま眠りに落ちました。あたかも、眠って頭を休めたら、きっと良いアイデアが出てくるだろうと期待しているかのように。
ふと目を覚まして周囲を見回すと、眠りに落ちる前と全く同じ光景がそこにあり、少し安心しました。稲中さん、キャノンさん、ぽんぽちさんが同じテーブルにいたというのはもちろんですが、まだ外が冬の闇に包まれており、あまり時間が経過していないことが分かったからです。やはり、状況が状況なだけに身体は眠っていても心は常に強い緊張を保っていたのでしょう。時計を見ると、まだ4時50分くらいでした。
もちろん眠気はありましたが、空腹を満たして少しであっても眠れたことと、何より身体を温めることが出来たことで、逆転への気力を再び取り戻すことが出来ました。もう、こうなったらソ連にもメキシコにも拘る必要はない。もちろんその2チーム(特にソ連)のどちらかを襲撃することが出来ればベストだけど、それ以外のチームであっても構わない。今はたった4人だけど、朝になればもっと人が集まるだろう。西ドイツの総力を結集して2発撃ち込めば、それ以外のチームであっても何とか逆転可能かも知れない。その可能性は決して高くはありませんが、どのチームも正確な点数が分からない以上、ゼロではありません。何としても勝ちたいけど、とにかく勝てるために出来るだけのことをやって、例え負けてしまうとしても最後まで諦めないことを見せて何とか誰かを襲撃し、華々しく散ってやろう。もう、標的はどの国だっていい。西ドイツ対その他全部だ。意地を見せてやる。
このピンチにそう開き直ることで、少し元気が出てきました。ただ、これも絶望の中から何とか絞り出したような元気であり、どことなく痛ましいものがありました。いずれにせよ、いつまでもここにいても時間がなくなっていくだけだから外に出よう、ということで、午前5時過ぎにデニーズを脱出しました。
外は冬の明け方ならではの青い闇で満たされており、変わらない強風が容赦なく我々の身を貫きました。そして、この強く冷たい無慈悲な風が、半分自分の心を誤魔化して元気を出していた西ドイツ四人衆を、一気に現実に押し戻しました。・・・西ドイツ国民が多く集まれる見込みが、全くなかったのです。深夜にワイエスさんが流した「明日動ける人は連絡くださいね」というメーリスへのレスポンスは皆無でした。もちろんチームの心は一つでしたし、捜索に参加してないメンバーも応援してくれていたのですが、親に監禁されていたり栃木にいたりと、これから正午の終戦までの短時間には動くことの出来ない国民があまりにも多かったのです。
このような状態では、ソ連メキシコ以外の国を叩いてもまず勝ち目はありません。ほんの僅かな可能性でも残っているからこそ、華々しく散っていくことに意味があります。どのみち可能性がないなら、結局ソ連とメキシコ狙うしかないじゃん、となります。そうすると、一体どうすればこの2か国のどちらかを襲撃出来るの?という問題が出てきて、そこで行き詰ってしまいます。
仲間が集まれないなら、他国を狙っても仕方がない。でもソレメキを狙うにしても、その策が見出せない。・・・僕ら4人は、自分でもどうすればいいか分からないまま、川崎駅の方角へゆっくり歩みを進めました。もう、このまま他の西ドイツ国民からの合流できるという連絡がなければ、新宿に行ってメキシコを探す(信ぴょう性はともかく、潜伏している場所の候補が全くないわけではなかった)しかない。それか、また御嶽山駅周辺に戻るか・・・。
そんな袋小路に追い込まれ、国籍を問わず有力な情報を持っている人はいないか探りながら力なく歩いていたその時・・・。西ドイツの運命を大きく動かした、そしてセンソウ2008に於ける最大の事件の幕開けを告げる、一通のメールが届きました・・・。
皇国ノ興廃、コノ一戦ニ在リ。各員一層奮励努力セヨ。
日本よりリトルボーイの空襲警報
14/12/23 21:58

