ワクチンで人為的感染の「ヒトチャレンジ試験」 開発迅速化へ政府検討 倫理で課題も
新型コロナウイルスのワクチン開発で日本が出遅れた「ワクチン敗戦」を教訓に、次のパンデミック(世界的大流行)を見据えた体制構築が急務となっている。政府は今年度、ウイルスなどの病原体を人為的に健康な人に感染させて行う臨床試験(治験)の導入の必要性について検討に入った。データが迅速に得られる半面、倫理面の問題もあり、実施基準の明確化などが課題となる。 【ひと目でわかる】薬の開発では臨床試験が特に重要視される 政府は今年2月に決定した医療分野研究開発推進計画(2025~29年度)の中で、健康な人を外部と完全に隔離し、病原体を人為的に感染させ、症状などからワクチンの有効性を確認する「ヒトチャレンジ試験(CHIM)」に言及。「国際的な動向を調査・分析することにより、導入の必要性について慎重に検討する」とした。これを踏まえ、厚生労働省は海外の実施状況や研究者の見解などを調べる。 CHIMはこれまでコレラや腸チフスなどを対象に欧米で行われ、21年には新型コロナワクチン開発のため英国で実施された。一方、日本の製薬関係者はCHIMについて「国内でワクチン開発に実施された例は聞いたことがない」と話す。 製薬業の世界的な中心地である欧州でCHIMの拠点を目指しているのがベルギー。大阪・関西万博のベルギー館でも、ワクチン産業について紹介している。8月、同国政府が企画したプレスツアーでは、アントワープ大が22年3月に開設した研究機関「ワクチノポリス」が公開された。 CHIMを実施する施設としては世界最大級の30床を設け、主に新型コロナやインフルエンザのワクチンを試す。健康な18~25歳の男女を対象者として半分に分け、ワクチンとプラセボ(偽薬)を投与後に少量の病原体にさらし、室内で2~3週間過ごしてもらう。「治療薬が必ず存在するなど適切な医療体制の下で実施される」という。 ワクチノポリスによると、ワクチンの安全性と有効性を示すための一般的な治験では接種後の自然感染を待つため、検証に半年~1年程度かかる。被験者は1千~4万人が必要となる。CHIMでは、被験者は20~200人で期間は数カ月程度。人員や時間を短縮できるため費用を抑えられる。 ワクチノポリスの所長で同大学のピエール・ヴァン・ダム教授は「病原菌を指定した上で、スピーディーにワクチンの効果を見ることができ、早期に有望な(ワクチンの)候補を絞り込んで開発スピードを上げられる」と説明した。