みりんの名産地の愛知にて、蔵元で買ったみりんで晩酌する旅

 

新橋のバー玉箒でみりんと焼酎を混ぜて飲む、本直しという古風なスタイルで酒を飲んでいた。玉箒は日本の酒を主に取り扱っていて、行くたびに、そんな酒があるのか!?という謎と感動を起こさせる不思議なバーで、昔ながらの方法で酒が飲みたいという謎のオーダーをしたら、本直しが出てきたのだ。

 

僕が、甘くなった焼酎をなめていると、マスターはニヤリと笑い、みりんと言えば愛知なんですよ。愛知のみりん蔵めぐりなんて楽しいでしょうねえとつぶやいた。そのマスターの言葉が頭のどこか深くに沁み込んでいて、ふと思い立って愛知にただみりんを飲むことを目的にやってきたのだった。

 

みりんについて全く詳しくなかったのだけど、たしかに「みりん 愛知」と調べるとたくさん情報が出てくる。どうも三河地方というのがアルコールが入っているタイプのいわゆる本みりんの発祥の地とされているらしい。

まずは名古屋到着の儀式であるところのコンパル

 

とりあえず腹ごしらえだ。僕は、名古屋の喫茶チェーン店コンパルのエビフライサンドを溺愛しているので、名古屋に来ることがあれば、絶対に一回は行くようにしている。このサンドイッチがたまらないのである。コンパル自体は何回も来ていて、毎回名古屋駅から近い所で適当に食べてしまうのだけど、今回はせっかくなので張り切って、本店に行ってみることにした。

 

本店は大須にあるようだ。店の前までやってくると、ドアの前に3人ほど並んでいる人がいた。やはり本店は人気のようだ。10分ほどで中に入ることができた。名古屋の老若男女が賑やかに会話を楽しんでいる。よそ者の僕は、さっと席に着くと、メニューを見ることもなくエビフライサンドを注文した。

 

 

名古屋だ、これだよなあ。名古屋に来てこれを食べずにはいられないのだ。エビフライは機嫌よくカリカリしている。エビの香りもよく出ている。パンは軽くトーストされ、たまごとキャベツがエビフライをはさんでおり、ケチャップベースのソースがそれぞれを一体化させている。パン、キャベツ、エビフライ、ソースがそれぞれのリズムを持っていて、にぎやかで楽しい。その混然一体とした状態がもたらす味わいは文句のつけようもないものである。僕はもう、このエビフライサンドがあるという一点において、他の追随をゆるすことなく名古屋が大好きなのだ。

 

アイスコーヒーは、コーヒーが氷と別で出てくるので自分で注ぐ方式である。コンパル独自の歴史を感じる。このひと手間が自分側にあることがなにか愛おしい。

 

 

やはり、コンパルは完璧な喫茶店だ。

 

みりんを飲みに愛知南方へ

 

さて、みりんだ。事前に調べていたところによれば、碧南市にみりんを作っている蔵があるとのことで、名古屋を出て南へ向かうことにした。電車に乗り込んだ。

 

 

車窓を眺め、うとうとしていると、一時間程度で碧南駅に到着した。九重味淋という蔵を目指し歩いていく。あまり、観光地という感じではないのか、自分以外に旅行で来ましたという感じの人は目に入らない。どうやらこの碧南は歴史ある地域のようで、歩いていると厳かな建物がいろいろと立ち並んでいる。

 

 

蔵のあるエリアは、それっぽい感じに整備されていた。レトロな感じの街灯と電柱が立ち並んでいると、新版画の世界に入り込んだような感じがしてくる。

 

 

九重味淋は安永元年(1772年)の創業とのことだ。歴史のありそうな門をくぐると、カフェエリアと物販エリアがあった。事前に予約をしていると蔵の中も見学させてもらえるようだ。まず、物販のエリアを見てみることにした。ちょっとしたみりんの展示があった。経過日数の熟成度によって色が変化していく様子がわかる。一番長い熟成期間を経ているみりんはコーラのような色をしている。

 

 

煮切りみりんのプリンで休憩

併設のカフェで一息つくことにした。窓の向こうにはよく手入れされた日本庭園が広がっている。みりん関連のメニューがいろいろ味わえるようだ。僕の行ったタイミングは、もうランチメニューは終わっていたのだけど、お昼に行くとみりんの角煮御膳などが出ているらしい。おいしそうだ。

 

K庵|九重味淋株式会社

 

 

プリンとみりんのドリンクを注文した。煮切ったみりんが付いてきてソースとしてかける。キャラメル代わりである。煮きりみりんはかなり色が濃い。熟成度が高めなみりんのようだ。プリンにかけると、少し紹興酒のような香りがした。なるほど、こういう感じなのだな。プリン自体は甘味は控えめで、みりんソースがプリンを盛り上げていた。こうやってじっくりと味わってみるとみりんには複雑な印象があるものだなあと思った。

 

 

ドリンクは、Rinchaというみりんベースのリキュールをソーダで割ったものを注文した。みりんは基本的にはアルコールなわけでこういう飲み方をしても美味しいのだ。みりんというと和食になんでも使える調味料という印象だけど、デザートにもドリンクにもよいみたいだ。

 

 

みりんの飲み比べをする

土産物コーナーにいくと、みりんの飲み比べができるエリアがあった。一通り飲ませてもらう。熟成度によって味わいが全然違くておもしろい。日数が経つにつれ重厚になっていく。料理をするにしたって、どれを使うかで全然味わいがことなるだろうなと思う。ミニボトルのみりんセットがあったので買って帰ることにした。

 

 

九重味醂を後にした。あたりをぶらぶらする。心地よい風がふいている。船がタプタプ揺れているのを眺める。雲がちょうどいいくらいに出ている。天気がいいことは素晴らしいことだけれど、日光は照りすぎていても旅に良くないなあと思う。ずっと先のほうに焦点を合わせて何をするでもなくしばらく座って過ごした。

 

 

近くに別のみりん蔵があるようなのでそちらのほうへ歩いて行ってみることにした。この碧南のエリアは本当にみりんが強いのだなあと思う。歩道の横をはしる川を見下ろすと、亀が首だけかくかくと動かして、じっと地べたにへばりついていた。

 

 

残念なことに、目的のみりん蔵は閉まっていた。また、来るときの楽しみにしよう。

 

 

味噌に浸かったどろどろの串カツとおでん

ホテルは名古屋で予約していたので、名古屋に戻る。昼ご飯がサンドイッチだったので小腹が減ってきたのに加えて、みりんで口の中がたいそう甘くなっていたのでしょっぱいものが食べたくなった。しっかりとしたみりんは、しっかりと甘いのだ。名古屋だし、味噌っぽいものたべたいなあと思って、調べてみる。名古屋駅から須植木のところに、味噌串カツなるものが見つかった。美味そうではないか。

 

電車で移動する。

 

なかなか渋い感じの店構えだ。ちらっと覗くと、奥のほうでおっちゃんたちが飲み会をしているようだけど、手前側の席が空いていた。恐る恐る入ってみた。テキパキとした女性が、「はいはい、ここどうぞ」とカウンターに通してくれた。

 

 

入り口には、大鍋で味噌おでんがぐつぐつと煮込まれていた。壮観である。物体としての強さがある。存在の力だ。ぬめっとした質感がどこか妖艶ささえ感じさせる。名古屋の食べ物というのは、なんというか、あなたたちには負けません!とでも話しかけてくるような迫力がある。

 

 

とりあえずビールを注文する。どんとでかいジョッキが置かれる。いい具合に汗をかいている。見るからに美味しそうなビールであり、見るからに美味しそうなビールが出てくるということはこの店はいい店である可能性が高いということである。

 

 

カクテキと味噌おでん、そして味噌の串カツを注文した。味噌おでんには串が付いていて、卵と豆腐は黒々と鈍い光を放っている。すごいビジュアルだ。食べてみると見た目ほど味が濃いわけではなく、おつまみにちょうどいいなと思った。串を片手に冷えたビールをくっくと飲むなんて言うのはとても素晴らしいことだ。

 

 

そしてこれが串カツである。味噌味とソースが選べたのだけど、ここは名古屋なので味噌にした。肉部は少なくて、かなりころも部が多かったのでちょっとお菓子っぽい感じがした。これもつまみにいい感じである。地元の人がちらほらとやって来ては、テイクアウトで味噌おでんや串カツを買って帰っていた。周辺の人たちには根付いている味なのようである。

 

 

おっちゃんたちは、地元の工事が云々かんぬんの話で盛り上がっていた。僕はそんな喧噪を背後にひとりビールをすすった。

 

平和園のちょこっとチャーハン。

ホテルにチェックインをして、少し休憩した。おやつの串カツではお腹いっぱいにならなかったので、夕飯を食べに出ることにした。ホテルから歩いて1分くらいのところに、街中華があるようだったので、そこに向かってみることにした。平和園という店である。

 

 

チャーハンを注文した。いい感じのサイズである。チャーハンというのは店によって腹パンパン系と、ほかの料理の食べること前提系の2パターンがあるので、注文するときに、ああお腹いっぱい食べたいなと思ったら、ちょこんとしていたりする難しさがある。今回はまさに求めていたサイズのチャーハンである。レンゲで軽く仕上げられたチャーハンをしゅっしゅとすくい、威勢よく食べ終えて、店を出た。

 

 

ホテルでみりんで晩酌だ

チャーハンで僕の当座の食欲はたっぷり満たされてホテルに帰った。碧南の蔵で買ったみりんを取り出した。ホテルの前のコンビニで焼酎を調達してきていたので、これでわって、本直しで飲むという狙いである。Wikipediaには、江戸時代には、みりんと焼酎を半々にして飲むのを上方では柳陰、江戸では本直しと呼んでいたというようなことが書いてある。なんともイケている名である。昔は焼酎が今より洗練された味わいではなく飲みにくかったというようなことがあるのかもしれない。

 

 

半々だとちょっと甘すぎるかなあと思い、いいちこををくいくいと飲み、三分の二くらいになったところで、純三河本みりんを入れた。下町のナポレオンのみりん割である。これでもちょっと甘いかなと思ったけど、まあいい感じである。純三河本みりんはよい余韻と、甘さの中にじんと滲むような香りがある。江戸時代はこんなことをして酒を飲んでいたのだなあと思うとなかなか風流なことのように思える。本直しは、日本の伝統カクテルと言えるかもしれない。

 

おかきをかじって、本直しを飲んで、いくらかそれを繰り返していたら、気が付いたら眠っていた。

 

 

おぐらトーストでモーニング

朝、名古屋と言えばモーニングなので、喫茶店に行く。おぐらトーストが食べたいなと思ったので、検索して出てきた、近くのCoffeeモックという店に向かった。

 

 

テーブルに案内された。ちゃきちゃきした感じのおばあちゃんが隣で電子タバコを吸いながら、目を細め新聞を読んでいた。太いトーストにはおぐらが塗られている。ホットコーヒーにゆで卵。ああ日曜日かあ、日曜日なあと思いながらコーヒーを飲む。

 

 

TOUTEN BOOKSTOREへ

数か月後に、本を出すことが決まっていたので、もしかしたら本が並んだりすることもあるのかもしれないなあと思い、名古屋の本屋に行ってみることにした。

 

 

TOUTEN BOOKSTOREという書店だ。オープンしたばかりの時間帯だったので、どうやら一番目の客だったようだ。ぶらぶらと棚を見て、本を一冊購入した。店主の方が話しかけてくれて、埼玉から来たんですと言うと、遠い所から!と少し驚いたような表情をしていた。窓には大きくビールと書いてある。ビールが飲めるのだろうか。昼間に来て本を買って、ビールを飲むなんてすばらしいことだなあと思う。

 

 

鈴波のみりんの粕漬け 銀だら定食

そんな感じでもう一軒、ON READINGという書店にも行っていたら、たちまち昼になった。やはりこれはみりんの旅なので、みりん関係のものがないかなと思い昨晩調べていたら、鈴波というみりんの粕漬で有名な店が定食を出しているとの情報を得た。けっこう人気店と口コミなどで書いてあったのだけど、早めの時間だったので、並ばずに入ることができた。銀だら定食を注文した。

 

隣では頭にでっかいリボンを付けたゴスロリ姿の女性が、小さな赤ちゃんをあやしながら同じく銀だらを食べていた。なんか異様なかっこよさがあった。それはさておき、銀だら定食なのだけど、この銀だらがもううっとりするような美味しさだった。

 

 

みりん粕によって熟した少し甘味をかんじる身に、香ばしく焼き上げられた香り。これと米を合わせて食べる。その余波を感じながら味噌汁を飲む。最高だ。みりんはこんなことまでできてしまうのかと僕は感嘆した。

 

みりんを満喫したなあと思った。愛知はトヨタのみならず、みりんも素晴らしいのだ。

 

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