<社説>アイヌ新法 差別根絶へ見直し急務

 アイヌ民族の誇りを尊重し、共生社会の実現を目指すことを掲げたアイヌ施策推進法(アイヌ新法)について、見直しを巡る議論が行われている。
 施行6年となった推進法は、5年を過ぎた段階で必要があれば見直すと規定している。政府のアイヌ総合政策室は6月まで北海道内と東京でアイヌ民族と意見交換を行ってきた。年内にも見直しの可否を検討する。
 胆振管内白老町の民族共生象徴空間「ウポポイ」は7月で開設5年を迎える。文化振興は一定程度進んだ。しかし、生活向上などで多くの課題が残る。
 とりわけ差別の問題は深刻さを増している。交流サイト(SNS)では差別的な投稿が絶えない。ところがそうした言動は事実上、野放しになっている。
 推進法は差別の禁止を明記しているが、罰則はない。北海道アイヌ協会は差別禁止の実効性を高める方策を求めている。
 政府は真剣に受け止めて対策に取り組まなければならない。
 政府が4月に公表した調査では、アイヌ民族に対する差別や偏見が「あると思う」と答えた人は、北海道内で40%を超えた。前回2022年度の調査から12ポイント以上増えている。
 SNSへの書き込みなどで差別や偏見を直接見聞きしたことが「ある」という人は33%だ。
 政府との意見交換では、アイヌの人々からSNS上の差別対策を求める声が相次いだ。
 「表現の自由」は極めて重要な基本的人権である。しかし、尊厳を著しく傷つける言動は決して許されない。
 差別的な投稿は、まずはSNSの事業者らが自主的に規制することが欠かせない。教育現場では差別禁止を徹底する必要がある。国連が求める独立した人権機関の設立も検討する時期に来ているのではないか。
 差別を解消しようとする機運はなかなか高まらない。それを象徴するのが、自民党が参院選比例代表の公認候補に杉田水脈元衆院議員を擁立したことだ。
 杉田氏はアイヌ民族らに対する侮辱的な投稿によって法務局から人権侵犯と認定された。石破茂首相は国会答弁で、杉田氏の言動には「強烈な違和感を持っている」と表明したものの、公認を撤回しなかった。
 今月のアイヌ協会総会で大川勝理事長は杉田氏公認を念頭に「同胞の気持ちを思うと極めて遺憾だ」と述べた。参院選では自民党の人権感覚が問われる。
 アイヌ民族の権利回復に向けた議論は進んでいない。進学率や生活保護率が平均より厳しい現状を踏まえた対応も必要だ。
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