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アイヌ民族への中傷 なぜやまないのか 専門家に聞く

2023-12-21 | アイヌ民族関連

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北海道新聞2023年12月20日 11:27

 自民党の杉田水脈衆院議員(56)=比例中国ブロック=がアイヌ民族や在日コリアンに対する差別的な投稿をし、9月に札幌、大阪の両法務局に「人権侵犯」と認定された。杉田氏はその後も「私は差別をしていない」などと自らの言動を正当化。インターネット上には杉田氏に同調し「アイヌ民族はもういない」「人権は利権の温床」などとアイヌ民族を誹謗(ひぼう)中傷する投稿が後を絶たない。なぜ差別的発言がやまないのか。アイヌ民族の研究者とネット差別に詳しい専門家に聞いた。(武藤里美)

■変質した差別 分断を助長 北大アイヌ・先住民研究センター教授・北原モコットゥナシさん

 杉田氏らの「アイヌ民族への差別はすべきではないが、えせアイヌは許せない」という主張は、「アイヌ民族であることを理由に結婚や就職、教育で差別を受ける」という従来の差別の形とは異なっています。

 背景には、国のアイヌ政策の進展に対する反動があると感じます。1997年にアイヌ文化振興法が、2019年にはアイヌ民族を先住民族と初めて明記したアイヌ施策推進法(アイヌ新法)が制定され、報道でもアイヌ民族の権利を取り上げる機会が増えました。そうした流れを受け「アイヌ民族への差別は撤廃された」ととらえる人が出てきたのです。

 実際には、和人とアイヌ民族の間には今も進学率や生活保護を受ける家庭の率に差があります。アイヌ民族への差別的言動をチェックし、対処する制度もありません。ただ、アイヌ民族か和人か、見た目で分からないことも多く、アイヌ語の話者に会うことも少ない。現実に残る和人とアイヌ民族の差は見えにくいのです。それが「あるはずのない差別があると主張し、利益を求める人がいる」と一部の人に映っていると言えます。

 たとえば、よく「アイヌ民族は、なぜアイヌ語を話さないのか」と尋ねられます。それは、日本語は学校教育で教えられ、社会の中で使う機会があるという、アイヌ語との違いを見落とすことによる疑問です。政府による同化政策の結果、アイヌ語は異質なものとされ、今も一般の学校教育では学べません。社会は平等ではなく、多数派はその差に無自覚なのです。

 同様の現象は、20世紀半ばの米国の公民権運動にも見られました。運動を通して人種間の平等が訴えられ、その結果、黒人の公民権を幅広く認める公民権法も制定されました。ですが、その後、次第に差別の種類が変わっていきます。「差別はすでに解消しているにもかかわらず、黒人は政府に過剰な優遇を求めている」という見方です。従来の差別から変質したこの差別を、社会心理学では「現代的レイシズム」と言います。

 アイヌ施策を批判する人たちは「アイヌ民族に数百億円の政府予算が使われている」などと主張します。確かにアイヌ新法で政策推進交付金が設定され、市町村に交付金が入るようになりました。それはアイヌ民族に関する資料館の建て替えや、アイヌ文化に関する施設を周遊するバスの運行経費などに使われています。個人に直接、お金が配られるわけではなく、和人も含めた地域の事業に充てられているのですが、あまり知られていません。

 「えせアイヌ」と呼ぶような人たちは、こうした事実を部分的に利用し、単純化して、曲解しているのです。本当のことを知らせたいのではなく、格差解消策を「優遇」に見せかけ、分断をあおっているのです。自分たちの主張に合わせて現実を読み取ろうとする人が多いと認識しなければなりません。

 インターネット上にはアイヌ民族の存在を否定するような論者が数多くいます。情報を受ける側は、たとえば、論者が主張する数字の元の資料やデータに当たるなど、誰が調べても同じ結論に至るのか、それが本当に正しいのか、検証する手段を持つべきです。

■自身の言動正当化、快楽に 大阪公立大大学院経済学研究科准教授・明戸隆浩さん

 短文投稿サイト「X(旧ツイッター)」など交流サイト(SNS)上では、杉田氏の言動を擁護するような主張が今も続いています。これは、SNSやインターネットの世界で、過激な発言が「正論」であるかのようにとらえられ、注目されることと関係しています。

 なぜそうした傾向があるのか。そこには、ネット上の言論空間ができた時代背景が影響しています。1988年に絵本「ちびくろサンボ」が絶版になり、93年には差別と表現を巡る問題で作家の筒井康隆さんが断筆宣言しました。大手メディアが差別的にみられる表現の自主規制を強めた時代です。

 その反動として「既存メディアでは言えないことを言う」文化が、インターネット掲示板「2ちゃんねる」を中心に形成されていきました。これは当初、一部の人のみが見る掲示板の文化でしたが、11年の東日本大震災以降、旧ツイッターが広く使われ、一気に大衆化しました。

 さらに大きな役割を果たしているのがユーチューブです。一つ動画を見ると、次々に関連動画が「おすすめ」として画面上に出てきます。自分の好みや主張に合った動画ばかりが目に入りやすくなります。その状態でSNS上に自分の考えを書き込むと、それに賛同する人とつながりを持つようになります。

 自分と同じ意見を見聞きし続け、同調する意見がSNS上で反響して増幅すると、ますます自分の意見を「正しい」と信じ、思考が極端になっていきます。こうした現象を「エコーチェンバー」と言います。いったん考え方の枠組みが固まると、批判的な意見は耳に入らなくなります。杉田氏の投稿にも批判的な返信はありますが、杉田氏は全く意に介していません。

 この「正しさ」というのは快楽になります。・・・・・・・

※「モコットゥナシさん」の「シ」は小さい字

https://www.hokkaido-np.co.jp/article/955445/


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