夕張へのほぼ唯一の公共交通機関となった「特急とかち・おおぞら」、「攻めの廃線」とは結局何だったのか?

鉄道乗蔵鉄道ライター
札幌ー帯広間を結ぶ特急とかち号(写真AC)

 2025年10月5日、豪雨により池田―白糠間で2週間近くにわたって不通となっていた根室本線の運行が再開した。JR北海道管内においても豪雨災害の激甚化によって、特急列車が運行されている主要路線においてもたびたび不通となる状況が増えており、今回の根室本線の不通はおよそ2週間に及んだ。道床流出の被害を受けた9月21日は、札幌―帯広間を結ぶ特急とかち号と札幌―釧路間を結ぶ特急おおぞら号に運休が生じたが、その後、札幌―帯広間を結ぶ特急とかち号の運行は再開されている。

 この特急とかち号と特急おおぞら号は、現在では夕張市に行くことのできるほぼ唯一の公共交通機関となってしまっている。現在、夕張市の玄関口となっているのは石勝線の新夕張駅で、新夕張駅に停車する札幌発の特急列車が10本、札幌行の特急列車が8本運行されているほか、千歳―新夕張間に2.5往復の普通列車が運行されている。札幌―新夕張間は、特急列車に乗車すれば乗車券が2020円のほか特急券が1680円の合計3700円がかかる現状となっており、札幌―新夕張間にはえきねっと割引の設定は存在しない。

 札幌駅から特急とかち号に乗ると、南千歳駅までは複線電化の千歳線を疾走し、車窓右手側に新千歳空港の旅客機を望みながら、単線非電化の石勝線に入り帯広・釧路方面へと向かう。札幌駅から新夕張駅への所要時間は1時間ほどだ。

 新夕張駅から夕張市中心部へのアクセスは、2019年3月31日までは新夕張―夕張間で石勝線夕張支線が運行されていたが、現北海道知事の鈴木直道氏が夕張市長を務めていた当時、「攻めの廃線」として鉄道よりもバスのほうを便利にするという約束で、鉄道の廃止が行われた。現在は、バスドライバー不足が叫ばれる中で、新夕張-夕張間の鉄道廃止代行バスの運行はかろうじて行われているものの、2023年9月30日をもって夕張から新札幌を結ぶ夕鉄バスの路線バスが全廃されたほか、翌年の2024年9月30日をもって夕張と札幌駅前を結ぶ北海道中央バスが運行する高速ゆうばり号が廃止されている。

 なお、バスがなくてもデマンド交通があるという反論があろうかとは思われるが、デマンド交通は事前登録の方法など自治体によって運用が異なることから、外部から一見さんが利用するにはややハードルの高い交通機関となってしまっていることは否めない。

 「攻めの廃線」の当初の約束では、バスによるネットワークの拡充で市内の交通が便利になるはずであったが、夕張は公共交通機関では行きにくい地域となってしまったことは否めない。そして、この「攻めの廃線」により、その後の北海道内の鉄道路線廃止の流れを加速することになったのは周知の事実である。

 そもそも、JR北海道の経営問題の本質は、国鉄分割民営化のときに想定された経営スキームの崩壊にある。1987年の会社発足時点で約500億円の赤字額を適正な赤字額として、6822億円の経営安定基金を設定し、この基金を7.3%の長期金利で運用することにより赤字補填をすることを前提としていたが、1990年代後半の国の低金利政策により、本来得られるべきだった金利収入が入らなくなったことが本質的な問題だ。現在のJR北海道に対しては一定の国からの支援は入ってはいるものの、それでも本来得ることができたはずの金利収入には到底及ばない金額だ。

 こうしたことから、首長の役割としては安易な「攻めの廃線」ではなく、国に対して、本来得られることができた金利収入分をJR北海道に対して補填するように要請し、特定地方交通線を除く国鉄から引き継いだ全路線を維持・活性化、さらに強靭化できるような策を打つことだったのではないだろうか。

 昨今の緊縮財政から積極財政を望む世論の高まりを背景として、国土強靭化の視点から日本の在来線ネットワークの維持・強靭化にも予算が組まれる社会となることを願いたい。

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鉄道ライター

鉄道に乗りすぎて頭の中が時刻表になりました。日本の鉄道全路線の乗りつぶしに挑戦中です。学生時代はお金がなかったので青春18きっぷで日本列島縦断修行をしてましたが、社会人になってからは新幹線で日本列島縦断修行ができるようになりました。ステッカーやTシャツなど鉄道乗蔵グッズを作りました。

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