IDEA
2025.9.24
”決まるセットアップオフィス”の作り方とは? ヒトカラメディアが8年間で培った成功の法則
近年、オフィス市場で注目を集める「セットアップオフィス」。しかし、せっかく内装やデザインにこだわって作ったのに、なかなか入居者が決まらない物件も少なくありません。一方で、確実に入居者を獲得している物件との違いはどこにあるのでしょうか。 2017年からセットアップオフィス事業を手がけ、企画から内装デザイン、リーシングまで一気通貫サービスを展開する弊社。今回は、企画・リーシング担当の三川、内装設計を担当する半沢、江川の3名に”決まるセットアップオフィス”の作り方を聞きました。
1. なぜ今、セットアップオフィスが人気なのか?


――まず、セットアップオフィスが注目されている背景を教えてください。
三川 慧(以下「三川」):セットアップオフィス自体の歴史はそれほど長くありません。高度経済成長期を経て、2000年以降も、オフィスビルは入居するテナント側が自分たちで内装を作ることが大多数でした。セットアップオフィスが本格的に増えたのは、ここ7〜8年のことです。特にコロナ禍以降は、リモートワークの普及でオフィスの空室率が上がり、従来の賃料減額やフリーレントだけでは差別化が難しくなりました。そこで、新たなリーシング施策として、セットアップオフィスが注目を浴びるようになったんです。
――オフィスを借りるワーカー側の変化もあるのでしょうか?
三川:そうですね、働き方の多様化が大きく影響しています。以前は「マンションの一室で起業してイケアの家具で揃える」といったような起業スタイルが多かったのですが、今は最初からWeWorkなどのシェアオフィスやコワーキングを拠点として起業する方が増えています。そうした環境では家具もラウンジも最初から整っているので、次のオフィスに移る際も”家具付きの環境”を求める傾向が強くなるということです。
この流れは今後も続くと考えており、100坪以上のセットアップオフィスのニーズも増えていくのではないでしょうか。
――セットアップオフィスのメリットを改めて教えてください。
三川: テナント側のメリットは大きく3つ。「コストの削減」「時間の削減」「業務負担の削減」です。
まず「コストの削減」では、内装構築費用を大幅に削減できます。家賃にその分が上乗せされるので、月額の賃料は通常オフィスより高めであることがほとんどですが、家具を購入する費用が浮くこともありますし、メリットは大きいです。
「時間の削減」は、内装を一から検討する時間が不要になること。住宅にたとえると、注文住宅と建売住宅の違いのようなものです。
「人員の削減」は、特にベンチャー・スタートアップにとっては重要ですよね。ベンチャー・スタートアップの場合、代表の方やバックオフィスの方が移転担当を兼任するケースが多く、通常業務に加えて移転業務を行うことになるので業務負担がかなり大きくなります。セットアップオフィスを選ぶことで、その負担を大幅に軽減できます。
――オーナー側のメリットについても教えてください。
三川: オーナーにとっては「収益性の向上」と「空室期間の短縮」というメリットがあります。
「収益性の向上」では、あらかじめ内装を構築して付加価値をつけることで賃料を高く設定することができます。また、投資回収期間をどう捉えるかにもよりますが、バリューアップして売却益を狙うオーナーさんとも相性が良いですね。
「空室期間の短縮」というのは、2回転目以降のリーシングの際、入居中に内装付きの状態で案内できるため、空室になってしまう期間を短縮できるという意味です。がらんどうの状態では働くイメージが湧かないテナントでも、セットアップされていれば意思決定しやすくなり、結果、空室期間の短縮に繋がるという側面もあります。
2.”決まるセットアップ”のポイントは、10人中1人に刺さる企画

――昨今セットアップオフィスが急増していることもあり、セットアップ化してもテナントがなかなか決まらないケースもあると聞きます。
三川: 残念ながら、年単位でテナントが決まらない物件も実際にあります。コロナ前はセットアップオフィス自体が希少だったので”作れば差別化”できていたのですが、今は右も左もセットアップオフィス、という状況です。なので、中身の作り方、つまり、どんなセットアップオフィスにするかという企画が重要になってきています。最近見かけたもので言いますと、坪数が60坪で執務席が10人分しかなく、なのになぜか10人用の大会議室がある物件がありました。
――なぜそうした見当違いが起こるのでしょうか?
三川: 根本的な問題として、まず、オーナーさんが普段からテナントさんのリアルな声を聞く機会が少ないということがあります。また、セットアップを計画した時、内装設計やデザインを内装会社に依頼してコンペで決めることが多いのですが、判断基準がパースの格好良さや、有名な内装会社だからという理由になりがちです。
内装会社さんは移転企業の要望に応えるプロではありますが、セットアップオフィスを企画/設計する際は、まだ具体的な顧客がいない中で”売れる商品”を企画することになるので、全く異なるスキルが必要になってきます。どんなに見栄えの良い格好いい内装にしても、すぐに入居してもらえる”決まるセットアップオフィス”でなければ意味がないですからね。
――ヒトカラメディアは、8年も前からいち早くセットアップオフィスの企画/内装を手掛けてきましたが、その”決まるセットアップオフィス”を作るためにどんな工夫をしているのですか?
江川 郁美(以下「江川」): 大きく4つのポイントがあると思います。私は内装デザインを担うプランナーですが、リーシング担当と一緒に次の4つを踏まえながらセットアップオフィスの企画/設計を行っています。
①徹底したリサーチ
江川:まず、エリアの賃料相場や、周辺にどんな企業が入居しているかを詳細に調査します。設計側では「ボリュームチェック」といって、この面積だったら何席取れるか、ワンフロアをラウンジにするのか、会議室フロアにするのかなど、様々な可能性を図面を引きながら検討します。これを「スタッキング」と呼んでいますが、フロアの配置や組合せでより物件価値を高められないかを考えることが重要です。
②ターゲット企業の具体的な想定&インタビュー調査
江川:どんな企業をターゲットにするかを明確にすることもとても大切です。私たちは、立地や物件特性からターゲット企業を設定して、それをより具体的にイメージするためにインタビュー調査を行うこともあります。
三川:これはヒトカラメディアが仲介事業をやっているからこその強みですね。オフィス仲介を行っている事業部と連携を取り、賃料の妥当性や企画案を相談するのはもちろんのこと、過去の仲介実績から具体的な企業を抽出して、実際にその企業にヒアリングをさせて頂き、リアルな声を反映させていきます。
昨年、私たちが企画/設計させていただいた『第4田町ビル』は品川に近く、新幹線アクセスが良いという特徴から、地方への出張が多い企業が来ると想定できました。地方への出張が多いということは、クライアントやパートナーが地方にいたり、出張先のメンバーとオンラインミーティングを行なったりと、オンラインで使える会議室の需要が高くなる傾向にあります。そういったことを踏まえて、周囲は会議室が2室の物件が多いのに対し、3室の設計を考えて、61坪の物件に6名用会議室2つ、8名用会議室1つを配置しました。会議室を事業の特性に合わせて多用途に使いたいというニーズにも刺さってすぐに入居が決まりました。

▲写真:前テナントではブラインドを閉めて使用していたが、公園ビューを活かすため、景観を積極的に取り込む仕様に設計した田町ビルのオープンスペース。
江川:神田のセットアップオフィス(該当物件はこちら)を企画した際は、神田ならではの「東京駅に近い割に賃料が安い」「古い街並みだが味がある」という特徴から、地方への出張が多い企業やモノ作り企業、地方企業の東京支店として使われる可能性を考えて、1階ショールーム+地下1階事務所というプランを企画しました。


▲写真:一般的に賃料設定が低くなりがちな地下1階フロアを、1階のショールーム機能と組み合わせることで、付加価値を高めた。
③コンセプト設計とデザイン
江川: ターゲットが明確になったら、そこでどんな体験をしてほしいかを考え、コンセプト設計をします。そしてそれを具体的なデザインや仕様に落とし込んでいきます。
三川: 重要なのは”尖らせすぎない”ことです。10人中3人くらいが「これめちゃくちゃいいですね」と言ってくれる程度の塩梅が理想的。尖らせすぎると誰にも刺さりませんが、無難すぎると競合物件に埋もれてしまいます。確実にターゲットに刺さる内装を作ることで、早期の入居決定を実現しています。

④テナントが確実に決まる企画なのかどうか
三川: そして、ヒトカラメディアが手掛けるセットアップオフィスにおいて、最も特徴的なのが、自社でリーシングも行っていることです。仲介会社は物件探しから契約まで、内装会社は工事完了までと、それぞれ責任範囲がありますが、弊社はそのふたつに加えて、物件のテナントを探すところも一貫して請け負っています。ですので、作ったは良いけどテナントが決まらないようなものは作りたくないんです。
半沢広道(以下「半沢」): プランナーの立場からすると、正直”好きなようには作れない厳しさ”があります。例えば、400坪の物件で100坪のラウンジを作ったらカッコいいかもしれませんが、収支を計算してみると投資回収に10年かかってしまう。オーナーさんが5年での回収を希望していたら、ラウンジを縮小して貸室面積を増やす必要があります。このように、常に数字と向き合いながら企画を作らなければいけません。同じオフィスの内装設計でも、企業から依頼を受けてプランニングする通常のオフィス設計とはそもそも捉え方が違ってきます。
ベンチャー・スタートアップ向けのオフィス作りを長くやってきた経験値は、セットアップオフィスを手掛ける時にもかなり活かされていると思います。オフィス市場も働き方も常に更新され、変わり続けていますからね。その変動を最先端でキャッチしながら企画・設計を行うことができています。
――最後に、これからセットアップオフィスを検討するオーナーさんに一言お願いします。
三川:セットアップオフィスを作るのは「目的」ではなく「手段」なので、まずは現状のオフィスビル運営における課題や目指したい姿を一緒に整理しながら、「目的」に対してセットアップオフィスという「手段」が最適か、その答えを一緒に見つけていければと思います。
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取材・文/坂口 ナオ
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