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【青山繫晴の目】(05) 新しい平和は“実戦国家”に宿る

アメリカが仕掛ける世界破壊の勢いが凄まじい。大戦の直後から、戦勝国として造ってきた仕組みを自ら何もかも壊していく。日本は敗戦国であることをむしろ利権としてきた。日米安保条約では、日本をアメリカに守ってもらいながら、アメリカを守る義務は無い。ドナルド・トランプ大統領が繰り返し非難するのは実態通りだ。敗戦利権を捨てるべき時が来た。

その敗戦利権は、教育が支えている。私達日本人は、今の最も若い世代でも、現代史を巡って嘘を教わる。まず、日本は連合国に負けたのではない。連合国とは、今の国連の安保理常任理事国、いわゆる五大国だ。そのうち、例えばイギリスに日本は負けたのか。もし負けていたら、インドの独立はなかった。フランスに負けていたら、ベトナムの独立はなかった。ソビエト連邦は日本に勝てず、戦争が終わってから侵入してきた。

そして、中国はまだ国が無かった。中華人民共和国は大戦から4年後の西暦1949年秋の建国だ。それ以前は中華民国だったが、その蒋介石軍も戦中、日本軍に蹴散らされた。五大国で残るのはアメリカだけだ。そのアメリカにだけ、負けた。視点を変えれば、ナチスドイツと違い、最期まで降伏しなかった日本に原爆を落として勝った合州国こそが、世界で唯一の真の戦勝国となったのだった。

そこでアメリカは経済首都のニューヨークに国連本部を構えた。国際連合とは意図的な誤訳であり、“UNITED NATIONS”は連合国だ。連合国が永遠に世界を支配し、合州国がその中心にいて世界にアメリカ軍を配置するという、ローマ帝国もびっくりの安全保障体制を造った。それを土台として経済では、自国の市場を世界に開放し、アメリカ市場をセンターに置く自由貿易体制を構築して、その利益は最終的に全てアメリカに集中する仕組みとした。

日本は占領軍製の憲法9条で、主権国家の国際法上の根幹である国軍とその交戦権を放棄し、憲法前文で「諸国民に安全のみならず命まで守ってもらう」と明言した。“諸国民に”とは、連合国を国連と言いくるめる手法と同じ嘘だ。事実は“アメリカ国民に”である。この壮大な虚構は日米双方にとって実に上手く稼働した。しかし80年を経て、さすがに賞味期限切れとなってきた。

その象徴が中国の台頭である。アメリカは土地、資源そして人口に恵まれて覇権国となった。中国はウイグル、南モンゴル、チベットを始め周りの他国まで軍事力と警察の暴力で呑み込み、アメリカと同じく広大な土地、豊かな資源、膨大な人口を確保した。アメリカが中国に追いつかれるのは、実は想定内である。

そこへ歴史的必然のように登場したのがトランプ大統領だ。まず、アメリカがひとりで担った安保体制の終焉をして、EUにも日本にも自己負担を求めている。次に、高関税のたった一撃で自由貿易体制を破壊した。90日の猶予があっても、その根本、すなわち安保と貿易をセットにして旧秩序を破壊するトランプ大統領の衝動は変わらない。

ここまで巨視的に見てきた。いわばマクロだ。しかしミクロで見ると、アメリカが覇権を握った秘訣は実は喪われていない。体験例を挙げよう。AGU、アメリカ地球物理学連合だ。宇宙から地球、海洋の奥深くまで、物理学の世界最大、最高権威の学会だ。毎年12月、アメリカに世界から2万8000人を超える第一線の科学者が大集合する。ここで口頭発表することは、科学者にとっては最高の栄誉だ。

では、その発表者を選ぶ審査はどうやるか。これが紙1枚きり。A4の用紙1枚の制限で、そこに国際共通語(=英語)で書かれた発表内容だけを見て、決定する。私は慶應義塾大学文学部中退、早稲田大学政経学部経済学科の卒業だ。大学院に行っていないから、博士号は無い。所属学会も無い。そもそも日本では“文系人間”に仕分けされ、物理学の学会で口頭発表できるはずもない。

ところがAGUでは常に審査に受かり、口頭発表を繰り返し、やがて招待講演者になった。文系理系、博士号、所属学会、学閥や派閥、一切関係なし。紙1枚だ。逆に、日本の著名な大学の著名な教授も1枚の紙の英文がつまらないから、どんどん落とされる。これがアメリカのミクロ、すなわち現場の強さである。

大戦時のアメリカ軍で、戦車に乗った将軍に、泥にまみれた一兵士が文句を付けて将軍が戦術を変えたエピソードに通じる。地位ではなく階級ではなく、実戦なのだ。日本は敗戦で利権だけを手にして、戦争に負けた原因を放置してきた。ここで国家の方向転換をし、乱世の世界の実戦国家となるべきだ。国家観、歴史観、政局観、経済の相場観に不安のある石破総理にそれができるか。


青山繁晴(あおやま・しげはる) 作家・自由民主党参議院議員・近畿大学経済学部客員教授・東京大学学生有志ゼミ講師。1952年、兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部経済学科を卒業後、『共同通信社』に入社。徳島支局、京都支局、大阪本社経済部、東京本社政治部等を経て、『三菱総合研究所』に。2002年4月に『独立総合研究所』を設立し、社長に就任。2016年の参院選に自民党公認で出馬し、当選。著書に『ぼくらの祖国』(扶桑社)・『死ぬ理由、生きる理由~英霊の渇く島に問う~』(ワニブックス)・『ぼくらの選択』(飛鳥新社)等。


キャプチャ  2025年6月号掲載

テーマ : 国際政治
ジャンル : 政治・経済

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Author:George Clooney

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