「……ごめんね。また叩いちゃって……」
「あ、いや、俺もなんかしちゃったみたいで……」
施設の中に入ると、ハルカは頭が冷えたのかシバリに頭を下げた。
(よくよく考えたらあたしがフッたわけだし、シバリくんがどうしようと自由だもんね。フラれてすぐに別の女の子のところに行こうとするのはちょっとアレだけど……)
未だに告白されたと勘違いしている彼女はそう考え、一人頷いた。
「それじゃあ気を取り直して温泉入ろっか! ここ、ポケモン達も温泉に入れるんだよ!」
「えっ? ポケモン達も?」
「うん! だから一緒にリフレッシュして来てね!」
「へぇ……」
ハルカの言葉を聞いて、シバリはチラリと手持ちのボールを見た。
(てっきりムクホーク達はお預けになるのかと思っていたが、そういうことなら良いかもな。
……そういや、シャンデラって温泉入れるのか……?)
「シャン!」
「ついに自力でボールから出てきたなお前」
「シャンシャン!」
「あ、お前も温泉入れる? じゃあいいか」
淡々と話すシバリとシャンデラを見て、ハルカは目を見開いた。
「あれっ!? 色違い!? さっき戦った時は普通の色だったのに……!」
「あー、言ってなかったっけ。今は暖色系なんだ」
「暖色系って何!?」
驚くハルカを余所に、シャンデラは自力でボールへ戻っていった。
「てかナチュラルに俺の思考読まれてなかった?」
「……なんかもう、シバリくんの事が色々とわからないよぉ……」
そんなこと俺に言われても。というような表情がシバリからハルカに向けられる。
言うまでもなくおかしいのはシバリの方なので、ご安心いただきたい。
「じゃあこいつらも一緒に行くとして、これからどうすれば?」
「あっ、もしかして温泉初めて? えっと、あそこに看板があるよね?」
そう言われてシバリがハルカの指差す方に視線を向けると、文字の描かれた看板があった。
「看板に男って書いてあるところが男湯に繋がってるから、あとは中で着替えてお風呂に入ればオッケーだよ!」
「なるほど。わかりやすい」
「……混浴と間違えないでね?」
「そりゃあ勿論。んじゃ、早速──」
シバリはスタスタと男湯の方へ向かっていったが、何かを思い出したかのように立ち止まると、ボールからゴローニャを出した。
「ゴロッ?」
「いや、そういやお前も水4倍だから大丈夫かなって」
「ゴロゴロ」
「あ、大丈夫なのね。りょーかい」
楽しみそうにコクコクと頷いたゴローニャに、念の為シバリは釘を刺すことにした。
「一応言っておくけどさ」
「ゴロ?」
「施設内では"ころがる"と"だいばくはつ"禁止ね」
「ゴロォ!?」
「当たり前だろ」
危うく弁償させられるところだったと、シバリは溜め息をついた。
─────────────────────────
「いやぁ、気持ち良かった……」
こういうの初めてだったけど、ほんとに良かった。
特に露天風呂とか最高だった。冬とかならもっと良いのかもしれないな。
ゴローニャがめちゃくちゃうずうずしてたのがちょっと怖かったけど。あとでその辺で"だいばくはつ"しような……。
「ハルカは……まだ出てないか」
ロビーに居ないってことはそういうことなんだろう。
待合用っぽい椅子とかあるし、座って適当に待ちますかね。
「……ん?」
電話だ。相手は……フウロさん? これまた珍しいな。
「はい。シバリです」
「あ"っ……」
「え?」
確かに相手はフウロさんだったのだが、なんか変な反応だ。
なんだろう、まるで電話に出て欲しくなかったみたいな……。
「っあ、ごめんねっ! え〜っと……シバリ君、今ちょっと大丈夫?」
「今ですか? 今は──」
「も、もちろん忙しいよね!? 旅の途中だもんね!?」
「いや、大丈夫ですよ? 丁度暇してたとこなんで」
「……そ、そっか……。う、ゔぅ〜……」
「……フウロさん?」
もしかして忙しいとか言ったほうが良かったんだろうか。
そんな風に疑問に思っていると、フウロさんの方から応答があった。
「……そ、その、……どーーーーしてもシバリ君とお話ししたいって、人が居てね……?」
「は、はい……」
「こ、こんなこと、急に言われても……や、だよね? や、やっぱり、無かったことに──」
「そういう事なら大丈夫ですよ。どなたですか?」
「あ、あう……あうぅ……」
「諦めてフウロちゃん。心配しなくても取ったりしないから」
「で、でもぉ……」
「?」
どうやら電話口の向こうで会話しているらしい。
もしかして、フウロさんの近くに俺と話したいって人が居るのかな。
「〜〜っ! ……ご、ごめんねシバリ君。ほんとは代わりたくないんだけど、とっっっっても不安なんだけど、代わるね……?」
「えっと、はい……」
「それでは、どうぞ……。友達のカミツレちゃんです……」
「カミツレさん……?」
確かフウロさんがよく話してた友人の名前だったかな。なんて思っていると、電話口からフウロさんではない声が聞こえてきた。
「初めまして。フウロちゃんの友達、カミツレよ」
「あっ、はい。俺はシバリです」
「ふふ、知ってるわ。貴方のこと、フウロちゃんから耳にタコが出来るくらい聞いてるから」
「カミツレちゃん!?」
「そう、ですか……」
しかしフウロさんのお友達か。俺どんな風に伝わってるんだろ。
電気ショック君の件とか、アローラムクホークがフキヨセジムを出禁になった話とか、アローラパルシェンが髪が邪魔でまともにガトリングの照準を合わせられなかった事とか、まともなエピソードはないと思うんだが。
「それと、あんまり畏まらなくて良いのよ? わたしのジムリーダーやモデルなんて役職、今は関係ないのだし」
「あっ、ジムリーダー兼モデルさんだったんですね」
「……なんだか恥をかいたような気がするわ……」
「あぁっ!? いや、そういうことではなく!! 言われてみれば確かにイッシュで雑誌とかに載ってたような──!」
「……案外傷口に塩を塗るタイプなのね?」
「すみませんでした」
変に言葉を取り繕おうとしても悪化するだけだった。
も、もう少し色んな知識を身に着けるべきかもなぁ……。
「……ふふっ、冗談よ。でも、自分のことを知らない相手と話すのはなんだか新鮮で悪くないわね」
なんと。許してくれた上にフォローまでしてくれた。
なんだか年上の余裕というものを見せてもらった気がする。
「……そ、そういえば、どうして俺なんかと話を? そんなに面白い話とか出来ないですよ?」
「そういう訳じゃないの。貴方には一言、伝えておきたいことがあって」
「伝えておきたいこと……?」
もしかして『何フウロちゃんに近づいてんだ』的なアレかな。
あんなことがあったわけだし、そりゃあカミツレさんも心配になるだろう。仮にそう言われても仕方なくはある。
なんて、思っていたのだが──。
「──ありがとう」
「へ……?」
「フウロちゃんのこと、ほんとうにありがとう。……どうしてもこれは、自分の口から伝えたかったの」
「カミツレさん……」
カミツレさんから言われたのは怒りではなくお礼だった。
やっぱりカミツレさんもフウロさんを心配していたんだろう。起きた事が事だもんな。
……でも、そっか。友人であるカミツレさんから見てもフウロさんは元気になったように見えるってことなのか。それはちょっと安心だな。
「……ほんとはわたしがどうにかしてあげたかったんだけど、わたしじゃ何も力になれなくて……」
「いや、そんなことは……」
「そんなことあるわよ。貴方が居なければきっと、フウロちゃんはまだ……」
「……」
カミツレさんの声音が重くなる。
もしかしたら、カミツレさんはフウロさんが大変な時に何も出来なかったって、悔やんでいるのかもしれない。
……そんなわけ、ないと思うんだけどなぁ。
「……あの、解決したのは俺かもしれませんけど……。……その、俺だけの力じゃないんです」
「?」
間違いなく、俺だけの力じゃなかったはずだ。
セツさんは勿論、カミツレさんや周囲の人の応援があってこそだったと思う。現に──
「実は俺も、フウロさんからよくカミツレさんのお話を聞かされてたんです」
「……フウロちゃんが、わたしの?」
「はい。リハビリ始めたばっかりのとき、フウロさんいつも表情が硬かったんですけど、カミツレさんの話をするときは表情が和らいでて……」
「そう、なの……?」
「そうです。しかも、カミツレさんからリハビリ応援されたんだーって、笑顔で話してました。だから頑張らなきゃって」
こういうのはきっと、本人が言うよりも他人が言う方が効くんだろう。
だからあのときのフウロさんを見て感じたことを、俺はそのまま伝えることにした。
「きっと、カミツレさんの存在が心の支えになってたと思います。リハビリをしたのは俺かもしれませんけど、フウロさんがリハビリを頑張れたのはきっと、周囲の人や、カミツレさんの存在があってこそです」
「間違いなく、フウロさんの力になってたと思います。フウロさんがリハビリに向き合えたのは……元気になれたのは、カミツレさんのおかげです」
「だから、ありがとうございます」
「……もう、なんで貴方がお礼を言うのよ……」
カミツレさんの声が少し軽くなった。わかってもらえたなら嬉しいな。
「ふふ……お礼を言うつもりだったのに、励まされてしまったわね」
「励ますだなんて、そんな……」
「……でも、そんなにわたしのことを話していたのなら、ジムリーダーとかモデルだって伝えてくれても良かったんじゃない?」
「へ?」
「それは……確かに?」
確かになんで教えてくれなかったんだろう。言ってくれても良かったのに。
「だ、だって、カミツレちゃんのこと話してたらあっという間に時間が経っちゃうんだもん……! だから、そんなところにまで考えがいかなくて……」
「ふふ。ソーナノも思わず頷きそうな可愛い理由だわ。"そーなの"ってね」
「うわぁ……」
「うわぁ……」
……こ、これが、噂に聞くカミツレさんのダジャレかぁ……。
ちなみに本人はこれをとても面白いジョークだと思っているらしい。
……か、価値観の違いって人それぞれだよね!
「……そ、それに、カミツレちゃん綺麗だし、もしモデルさんなんて聞いて、シバリ君が興味を持ったら──」
「……ねえ、シバリ君。また今度イッシュに来る予定はある?」
「へ?」
「貴方とは是非直接会って話してみたいわ。そうね、今度二人でお茶でも──」
「わぁぁぁぁぁぁ!!!!! 嘘つき!! カミツレちゃんの嘘つき!! 取らないって言ったじゃん!!!!!!」
「だから取るとかそういうんじゃなくて……。……ごめんなさい、このお話はまた今度にしましょう?」
「あ、はい……」
「今度って言った!!!!!! いま今度って──」
ブツリと、フウロさんの騒ぎ声が聞こえたのを最後に電話が切れた。
……イッシュか。今度行くならいつになるんだろうな。
・ハルカ
いつ勘違い解けるんでしょうね。
・ゴローニャ
我慢した。
このあと誰にも迷惑がかからないところで大爆発三昧した。
・パルシェン
アローラパルシェン……? 実在していたのか……。
・フウロ
友人からの頼みに泣く泣く承諾。
結果的にカミツレがシバリに興味を持って泣いてる。
・カミツレ
フウロに何もできなかったことを気にしていたが、シバリと話して心が軽くなった。二人きりでお茶してみたいなぁと思っている。
・アスナ
本編未登場。
え、何でここに居るんですか?
入り口の看板の位置が実はミスってて、シバリが入った後に看板が変更されるとかいう使い古されたネタをやろうと思い立ち、そのときにシバリの後からアスナが入ってくるみたいな感じにしようと思っていたが、あまりにも展開がベタすぎたので、半分くらい書いて没になった。
せめて名前だけでもということでここはひとつ。
どの手持ちポケが一番良かった?
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シバリ:ムクホーク
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シバリ:ジュカイン
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シバリ:シャンデラ
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シバリ:パルシェン
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シバリ:ゴローニャ
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シバリ:ケッキング
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ラズ:エレキブル
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ラズ:ドドゲザン
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ラズ:ギャラドス
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ラズ:ドーブル
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ラズ:カクレオン
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ラズ:メタモン
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サイトウ:柔道整復師カイリキー