幼馴染にフラれたので旅に出ることにした   作:イグアナ

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52話

「──というわけで、シバリ君のホウエン案内はハルカちゃんに任せたよ」

は?

 

 ダイゴの言葉に、シロナの声が震えた。

 

 突然彼から電話がかかってきて、何かと思って出てみれば、開口一番これだった。

 

「……そんな話、聞いていないのだけれど?」

「言ってないからね。だって言ったら断るだろう?」

当たり前じゃないの!!

 

 シバリを一人で放っておくと新しい女性をどんどん引っ掛けると確信したシロナからすると、ホウエンの観光と、シバリの新しい女性との出会いを抑制できるダイゴの起用は革新的なアイデアだったのだが、まさか始まる前に終わっているとは思ってもいなかった。

 

 ましてや代理を任せたのは同年代の女の子。シロナもこれには頭を抱えるしかなかった。

 

「あ、貴方、わかってるの!? そんなことして、ヒカリちゃんの心労が増えたら──!」

「大丈夫大丈夫。だって、()()ハルカちゃんだよ? 恋愛のれの字も知らないような、あのハルカちゃんだよ?」

「それは……」

 

 シロナも一度ハルカと会ったことがあるが、確かにシロナの視点からしても彼女が恋愛に興味があるようには思えなかった。

 

 何をするにも全力で楽しむような、そんな元気いっぱいな女の子だった。

 

「まあ、元気すぎるあまり異性との距離感が近すぎて、勘違いされることも多いらしいけど」

「……でしょうね」

 

 シロナからしてもそれは想像に容易かった。あの可愛さと元気さで近づかれてしまえば、大抵の男子はコロッと落ちてしまうだろう。

 

「……まあ、とはいえドタキャンしてしまったことへの罪悪感はボクにもある。だからここで宣言しておこう」

「宣言……?」

「そう。もし、万が一、ハルカちゃんがシバリ君を好きになるようなことがあったとしても、ボクは全力でヒカリちゃんを応援すると誓おう」

「……いいの? そんなこと言って」

「いいとも。そんなこと起こるはずがないからね。彼女の父親のセンリさんだって、ハルカちゃんの異性との距離感にこそ苦言を呈することはあれど、恋愛観に関しては『ハルカは恋愛にまったく興味が無さそうで安心だ!』と笑い飛ばしていたしね」

「そ、そう……」

 

 フラグというやつでは? とシロナは一瞬不安に思ったが、普段彼女と接しているダイゴや、他でもない彼女の父親が言うならと、シロナは一旦納得した。

 

「ならそれでいいわ。でも、その万が一が起こった時は……わかってるわね?」

「勿論。そのときはヒカリちゃんのために死に物狂いで働かせてもらうよ」

「……ならいいわ」

 

 そうして、シロナはダイゴとの電話を切った。

 

(とは言ったものの、不安は残るわね……。こんなの、ヒカリちゃんに知られたら──ひっ!?)

 

 考えながら振り返ったその先には、真顔のヒカリが立っていた。

 

「……シロナさん」

「ひ、ヒカリちゃん……? もしかして今の、聞こえ──」

 

 ズンと、ヒカリは一歩前に出た。

 

「詳しく……」

 

「説明してください」

 

「今、私は冷静さを欠こうとしています」

 

「この精神状況でも理解出来る様に、シバリ君が女の子と二人きりで旅をしているという状況を」

 

「簡潔に、客観的に説明してくれませんか」

 

「ち、ちがっ、違うのよ! ヒカリちゃん! これは──!」

 

 今日も今日とて、シロナの苦難は続く。

 

 

─────────────────────────

 

 

 とある地方にある森の前、電話を終えたダイゴがそこに辿り着くと、既に先客が居た。

 

「……先に着いてたのか。待たせたかな、アイゼン」

「そんなことはないさ。久しぶりだね、ダイゴ」

 

  ダイゴがシロナの依頼をドタキャンした理由、それにはこの地方のチャンピオン、アイゼンが関係していた。

 

 二人が友人となったのは数年前のこと。珍しい石を求めてこの地方までやってきたダイゴだったが、偶然アイゼンと出会い、同じはがねタイプ使いのチャンピオンとして、意気投合したのだ。

 

 石が好きという趣味も一致していたため、二人が仲良くなるのにそう時間はかからなかった。

 

 そして今回、アイゼンからの一報を聞き、ダイゴは急いでこの地方までやってきたというわけだ。

 

「……それで、本当なのかい? 未発見のメガストーンが見つかったというのは」

「本当だとも。この地方からメガストーンが見つかった事例もなければ、今までに見つかっていないメガストーンだと言うんだから驚きだ」

「よく見つけたね」

「だろう? ところがどっこい、僕が見つけたわけじゃないのさ」

「……と、言うと?」

「案内してくれたポケモンがいるんだ」

 

 そう言ってアイゼンが近くの草むらを指差すと、一匹のポケモンが飛び出してきた。

 

「キマーーッ!!」

「……キマワリ?」

 

 キマワリはダイゴの足元まで駆け寄ってくると、ピョンピョン跳ねたりダイゴの周りを走ったりし始めた。

 

「これはまた……随分人懐っこいキマワリだね」

「そうだね。ここまで人懐っこいとなると、過去にこのキマワリと関わった人に随分良くしてもらったんじゃないかな」

「ふむ……」

 

 ダイゴはしゃがんでキマワリと目線を合わせると、キマワリに語りかけた。

 

「こんにちは、ボクはダイゴと言うんだ」

「キマキマ」

 

 キマワリもダイゴに合わせ、礼儀正しくお辞儀をした。

 

「……それ、誰かに教えてもらったのかい?」

「キマキマ!」

「そうなのか。どんな人にだい?」

「キマリ!!」

「キマリ……? なんかどこかで聞いたようなイントネーションだな……」

「ダイゴもそう思うかい? 僕もなんだが、イマイチ思い出せなくてね」

「キマリ! キマリ!」

 

 誰がこのキマワリに関わっていたのかは気になる所ではあったが、今の二人にとって重要なのはそこではない。

 

「教えてくれてありがとう。……ところで、君が珍しい石を見つけたというのは本当かな?」

「キマッ!」

「そうなんだね。なら、そこまで案内してほしいんだけど……お願い出来るかな?」

「キマー!」

 

 肯定を示すような返事をすると、キマワリは森の方へ向けて歩き出した。

 

「……自分の手持ちポケモン以外で、こんなにもスムーズに意思疎通出来たのは初めてかもしれないな」

「僕もさ。きっとあのキマワリと関わった人は、たくさんお話ししてあげたんだろうね」

「そうだろうね。……さて、アイゼン。あのキマワリを追いかけよう。置いていかれては困るからね」

 

 そう言ってダイゴがキマワリの後を追いかけ始め、アイゼンも同じようにダイゴの後を付いていった。

 

─────────────────────────

 

 

「そういえば、どうしてこんなところまで来ようと思ったんだい?」

「へ?」

 

 キマワリのあとを追いかけ始めてしばらく経った後、ダイゴはアイゼンに話しかけた。

 

「いや、この森ってリーグ本部からかなり離れてるじゃないか。だからなんでこんな遠くにまで来たのかなと」

「ああ、そういうことか。……前に話した魔王みたいに強いチャレンジャーのこと、覚えているかい?」

「確か……ドーブルとカクレオンに6タテされたって話だったかな?」

「それそれ。ほんともう、勘弁してほしいものだね」

 

 アイゼンは、チャンピオンにならないよう工作した件をダイゴだけには話していた。

 

 キルネアも止める様子は無かったし、話を聞いたダイゴも何か事情があるのだろうと考え、特に深入りはしなかった。

 

「それで、そんなに強いポケモンを育てた環境に興味があったんだ。だから時間のある時に、彼女の過ごした村の近くまで来てみたら──」

「この森に辿り着いた。ということだね」

 

 ダイゴの言葉に、アイゼンは頷いた。

 

「そんなときに見つけたのがあのキマワリだ。あんまりにもわかりやすく付いてきてくれと主張するものだから、思わず付いていってみたら、メガストーンがあったってわけさ」

「なるほど……」

 

 何故キマワリがメガストーンの場所に案内してくれるのか、そもそもあのキマワリは何なのか、色々と気になったダイゴだったが、今考えても解決する問題ではなさそうなので、一旦思考を止めた。

 

「キマッ!」

「ふぅ、着いたね。ここだよ」

「へぇ、ここに……」

 

 キマワリが指し示す方を見ると、確かにダイゴが見たこともないメガストーンが落ちていた。

 

「なるほど。確かにこれは今までに見たことがないメガストーンだ。それに、2個もある」

「両方とも別の種類だし、キマワリさえ良ければ是非持ち帰って研究したいものだけど……」

 

 チラリと二人がキマワリの方を見ると、キマワリは両手で大きな丸を作った。

 

「キマッ!」

「あ、いいってさダイゴ」

「なんというかこう、もっと渋られるとボクは思ってたんだけど……」

 

 とはいえ許可が出たことに違いはないので、ダイゴは大切に2個のメガストーンを採取した。

 

「さて、あとは破損しないように持ち帰って研究だね。……壊さないでくれよ、ダイゴ」

「まさか。このボクが大切な石を壊すわけが──」

「──クアアアアアアアアアアアッ!!」

「「!?」」

 

 突然響き渡った鳴き声に振り向くと、野生のオニドリルが二人に向かって迫ってきていた。

 

「いけない! キマワリに手を出されるわけには──!」

 

 ダイゴがモンスターボールを取り出そうとすると、アイゼンがそれを制した。

 

「──ストップだ。ダイゴ」

「何故!?」

「僕達が心配するべきはキマワリじゃない。あのオニドリルだ」

「なにを……!?」

 

 ダイゴの心配はもっともだ。オニドリルはキマワリよりも図体が大きく、タイプ相性も悪い。オニドリルからすれば、キマワリは格好の餌食だろう。

 

 しかし、キマワリは特に恐れた様子もなく、二人とオニドリルの間に笑顔のまま立っている。

 

「クァァァァッ!!!」

 

 その様子を見て、オニドリルがキマワリに襲いかかる。

 

 しかし、このオニドリルはこの森に来たばかりで知らなかったのだ。この森の3つのタブーを。

 

 1つ目のタブーは、エレキブルを連れた女に手を出さないこと。

 

 2つ目のタブーは、ムクホークを連れた男に手を出さないこと。

 

 そして3つ目のタブーは、笑顔を絶やさないキマワリに手を出さないこと。

 

「キマァッ!!」

 

 オニドリルが飛びかかってきた瞬間、キマワリは"にほんばれ"を使用した。

 

 だがしかし、場がにほんばれ状態になったとしても、技を打てなければ意味がない。

 

 そして次の技をキマワリが打てる頃には、オニドリルはキマワリに攻撃を当てているだろう。

 

 しかし問題はない。次の技が打てなかったとしても、にほんばれの日差しがキマワリの顔に当たった瞬間、()()()()()()()()

 

キマァァァァァァァァ!!!

グェェェェェェェ!?!!?

 

 このキマワリの特異性。それは、にほんばれ状態の間は顔からサンパワー*1の乗った極太レーザー(ソーラービーム)が永遠に出続けるという、エンドレスソーラービームとも言えるものだった。

 

 ひこうタイプにくさタイプは効果はいまひとつだとか、そんなのは関係ない。

 

 永続的な火力で焼き尽くすのみ。それがこのキマワリのスタイルだった。

*1
にほんばれの間は特攻が1.5倍になる




・キマワリ
固定砲台のバケモン

サンパワーは特攻が1.5倍になる代わりに毎ターンHPが減るという制約があるが、そこについてはキマワリが"キマリ"と呼ぶ人物が

「体力が減るってことは過剰なエネルギーに身体が悲鳴あげてるってことだろうから、過剰なエネルギーを全部外に出しちゃうようにしちゃえばいいんじゃね? 例えば過剰なエネルギーをソーラービームに変換するとかさ」

とか自分の特訓の途中に助言したせいで、HP減少のデメリットを踏み倒して無限ソーラービームするキマワリが誕生した。

キマリが誰かって? 角なしロンゾではないのは確か。

ちなみにバトルが終わってもにほんばれが続いていたらソーラービームが出続けるので、バトル後は真上を向いてソーラービームが止まるのを待っている。割と絵面がシュール。

メガストーンはなんか珍しそうな石だったから誰かに見せたかっただけ。かわいいね。

・アイゼン
最初に出会った時にこの無限ソーラービームを見て「ここ魔境じゃね?」ってなった。

・ダイゴ
ハルカちゃんがシバリ君を好きになるわけないじゃないか!
……なんだこのソーラービームbot!?

・シロナ
そろそろ休んでほしい

・ヒカリ
ハイライトが消えている

書くかはわかりませんが、番外編とか閑話があったら嬉しい?

  • いらない:そんなことより本編を書け
  • いる:ルリの閑話とか
  • いる:本編IF(永住ルート)とか
  • いる:ヒスイに飛ばされるようなIFとか
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