「ここは俺に任せて先に行け!」をしたら先生たちが病みました。 作:ヤンデレはいいぞォ
なんかみんなが書けっていうから……
空が綺麗だ。
雲ひとつない大海原。最後に見た空は真っ赤だったから、いつもの空を見ると不思議と落ち着く。
空が蒼いのは太陽光が海を反射しているからだと何処かで聞いたことがあるようでないような。
さて、我ながら暇人でもここまで空に想いを馳せることもないだろう事を考えているわけだが、これはある種の現実逃避であることは否定出来ない。
では何から逃避しているのか。
それは是非とも隣にいる女性を見てもらいたい。それだけで分かる。
「ヨイチ?大丈夫?どこか痛いところとかない?夜中とか辛くないかな?お腹空いてない?トイレも大丈夫?他にも何かあったら全部言ってね?私が全部、全部やってあげるから───」
………………ん〜、怖ぇ。
お隣には別嬪さんがお一人。街を歩けば二度見どころか五度見は固く、キヴォトスでなければ週刊誌からのオファー殺到は確実な女性。
何を隠そう、彼女はこの世界におけるたった一人の
先生は心の底から心配そうに俺の瞳を覗き見る。
こんな美人さんに心配されるなんて怪我の功名に尽きる、もしくは憶えのない前世での徳にでも感謝すべきなのだろうが……とてもではないがそんな気分にはなれない。
───だってめっちゃ怖いんだもん、
見てくれよ、この真っ暗な瞳を。真っ黒すぎて俺の姿を反射しないの。本当に俺のこと見てる?とすら思ってしまうが、瞬きひとつせずに具に眼球が動いているのを見るに、しっかりと身体の異常を確認しているようだ。
というか先生云々より普通に人間がしちゃいけない目してるからね?大丈夫?なんか心配が勝ってきちゃったよ。怪我人のくせに。
「先生……もう目覚めて一週間経ったんですよ?流石にある程度は自分だけでも出来ますって。だから先生もたまにはシャーレに戻って───」
「ふふっ、またそれ?いつも言ってるけど、私のことは心配しないで。ちゃんと仕事もやってるし、シャーレの活動だってちゃんとしてるから問題ないよ。あっ、それとね、ずっと前からヨイチに言われていた通り、最近は食事と睡眠にも気をつけているんだ。だから、むしろ前より健康的になっちゃったかもね!」
「おぉ、そうなんですね!それは良かった───じゃなくて!」
危ない危ない、流されるところだった。
「先生に悪影響がないことは分かりました。それを聞いて安堵したことも否定はしません。ですが、ずっとこの病室でやっていくにも限度がある筈」
先生が超人であるということは十二分に理解している。だけど、やっぱり
キヴォトスでは毎日事件や事故が起きる。むしろ何も起きなかったら嵐前の静けさとして戦々恐々するぐらい、キヴォトスはトラブルに満ち溢れている。
だが忘れること勿れ。どれだけトラブルメーカーの多いキヴォトス──ひいてはその生徒たちだが、彼女たちもまだ成人にすら到達していない子どもなのだ。
色々大人びているところも多い彼女たちだが、歳相応に悩むし、感情も発露するし、人には言えない個人的な問題も抱え込んだりもする。
そんな問題を解決していくのが目の前にいる先生なのである。彼女たちのメンタルケア、及び諸問題を解決出来るのはこの人しかいない。実際、この人がいなかったら絶対どこかで詰んでいただろう。
そして今日も変わらず世界は回るのだ。たかが人間一人のために止まってくれるほど世界は甘くない。
今もこうして世界は回り続け、今日もどこかで爆破が起き、生徒たちは先生に助けを求めにやってくるのだろう。
嗚呼、今もなおシャーレの扉の前で先生を待っている子どもたちが大勢いると思うとなんだか心苦しいなぁ。
………うん、よくよく考えなくても、この人は
罪悪感がグサグサと心に突き刺さる。俺がこんな状態になったばっかりに先生にいらぬ心労を掛けさせてしまっている……その事実に申し訳なさが際立つ。
「……先生、やっぱり今のままではいけないと思います。俺のことで心配を掛けさせてしまって大変申し訳なく思っていますが、俺のことは心配しないで下さい。これでも伊達に生き残ってはいませんからね!だから先生はシャーレの部室に戻って、
「───いよ」
「えっ」
「───出来ないよ、出来っこないよ、これまでのようになんかっ……」
一拍遅れて出てきたのは情けない反応だった。
先生にしてはやや強めな語気。顔を見られまいと必死に顔を俯かせ、膝に置いた手はギュッと強く握り締められ新調したばかりであろうスーツは悲鳴を上げている。
何がなんだか分からない状況だが、なんとなく“あっ、地雷踏んだな”と直感する。
「……ヨイチが眠っている間にね、何度かシャーレに赴いて仕事をしようと思っていたんだ。でも、やっぱりダメだった。シャーレの先生になってから、ずっとあなたと一緒にいた
「ヨイチの姿がない。ヨイチの声が聞こえない。ヨイチの淹れてくれたコーヒーがない。ヨイチのちょっと雑な文字で記された書類がない。フィギアを見て目を輝かせるヨイチがいない。自分の銃を自慢するヨイチがいない。笑って、泣いて、巫山戯あって……誰よりも強くなるって、自信満々に語ってくれたヨイチがいない」
「たったそれだけでまるで別の世界のように見えちゃったんだ。可笑しいよね、同じ部屋の筈なのに」
「………
………………あの、いきなり言葉で胃を殴ってくるのやめてくれませんか?
なんか………すごいこと言われたよな?
俺バカだから分かんねェけどよ……やっぱバカだから分かんねェわ……
……と、とにかく寂しかったのかな?
俺の声が喧しくて、『あの時は五月蝿いと思っていたけど、今となっては物足りないわね……』みたいなヤツってこと?
それはそれで心が痛むのはこの際置いておこう。
いや、それよりも今はお目目ぐるぐるな先生に対して何と言うべきか、という難問と向き合わなければ。
確かにさっきまではシャーレの部室に戻ることを推奨していた。口ではああ言っても、やっぱりシャーレの方が先生の負担も少ないだろうと思ったから。
だけど、こんな状態の先生を見て『はいはい分かったから早く戻ってね』なんて言えるほど、俺は鬼でも化け物でもなかった。
「…………まぁ、俺もずっと一人だと寂しいですしね。先生はみんなの先生ですから、俺だけが独占したらいけないと思っていたんですが……折角ですしお言葉に甘えてしばらくは先生と一緒にいても良いですか?」
「ッも、もちろんっ!ずっと側にいるから!私があなたの足になるから!私が……私がヨイチを幸せにしてみせるから!」
「大袈裟だなぁ、HAHAHA」
まるで逆プロポーズみたいだ。まぁ、今回も例に漏れず先生十八番の天然タラシ発言なんだろうけど。
転生者という異質なアドバンテージを持つ俺だから良かったけど、他の
こうやって誰彼構わず粉ふっかけてると、いつか背後からナイフで刺されちゃいそうでとても気が気じゃないんでね。
しかし、なんだかやたらと瞼が重いな……
どうやら折角だからと開けた窓から暖かな風だけじゃなく睡魔も一緒に運んできたようだ。
なんたる怠惰だろうか。運動しなくなってから一気に身体が怠けてしまったようである。
「眠たいの?私のことは気にしないで、ゆっくりお休み」
返事することもままならない程の強烈な睡魔により悉く意識を奪われていく。
先生はああ言っているが、普通に誰かに寝顔を見られるのは恥ずかしいし何とか頑張って瞼を開ける───ことも叶わず、ゆっくりと閉ざされていく。
最後に辛うじて見えた光景は、ゆっくりと俺の頭を撫で回しながら、慈母のように温かい笑みをした先生の姿だった。
次回があったら先生視点かも