「ここは俺に任せて先に行け!」をしたら先生たちが病みました。 作:ヤンデレはいいぞォ
数多くのブルアカ小説を読んできましたが、あんまりこういう展開をした小説がないな(自分が見ていないだけかも)と思い、かつ自分がそれを今一番読んでみたかったというのもあって書いてみました。
───遂にここまで来た、といった感じだ。
俺には成りたいものがあった。
──最強。最も強く、誉れ高い生物に贈られる称号。
その称号に憧れない男児はいるだろうか。いいや、いない。断言出来る。最強こそ男が焦がれる最も原初的な欲求であろう。
俺がこの世界で新たに生を受け。自分の大好きなゲームの世界に生きていると実感し。誰にも負けない
……本当にいろんなことがあった。ひたすら銃に弾を込めて撃ち続けてきた人生ではあったが、前世と比べて遥かに濃い17年を過ごさせてもらった。
それこそ光陰
……そういや、俺って今何してたっけ────
「──チ───ヨイチッ!!お願い目を開けてっ!!」
耳元で叫ばれる奇声と、身体を大きく揺らす振動に意識がハッとする。危ない、三途の川に片足突っ込んでいたみたいだ。
真っ先に目に入った天井は真っ白ではなく真っ黒。こういう時は『知らない天井だ……』と言いたいところだが、今はそんな状況でもないらしい。
……そうだ。そうだった。今は、アレか。
「ぁ、せん、せい……あっち側の、シロコ、は……」
「大丈夫、さっき地上に送ったから!ヨイチもすぐに送るから、だからもう少しだけ待ってて……ッ!」
俺を必死に抱き止めて焦燥しまくった様子でタブレットを触る女性──彼女こそこの世界の主人公。つまり先生だ。
初めて会った時はそれはもう驚いた。なんせ先生は男性だと勝手にイメージしていたから。まぁ、ゲームでも性別が明らかになってないし、そもそも
そんな中で、よく
あっち側のシロコ──所謂、クロコなる存在も無事転送できたらしい。よかった、ちゃんと原作通りで。
それにしても、らしくない。いつもの冷静な彼女はどこに行ってしまったのか。そう思えるぐらいに先生は取り乱していた。
ずっと譫言のように『大丈夫』と呟いていて、その言葉は俺に対して向けられているのか、将又先生自身に言い聞かせているのか。
何はともあれ、無事に終われて良かった───
しかし、そう簡単に問屋は卸されないようで。
「ッ、あ、あれは……」
異形、妖魔、化物。
見ているだけで身の毛のよだつ真っ黒いナニカが俺と先生を見ていた。
……気持ち悪い。気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い。
見ているだけで吐き気を催す。
おそらくアレは色彩由来のナニカだ。実際あんなモノ見たことも聞いたこともないが、俺の身体が恐怖と共に教えてくれた。
だが可笑しい。一応
俺も、何も知らないであろう先生も、これで終わったと確信していた筈だ。なのに、なのに。
………こんな敵、原作にはいなかった筈────
(────嗚呼、そうか。これが
どうやらこの世界はここで完全に俺を仕留める気でいるらしい。これまで順調に進んでいた筈の
今更俺を消すってのも可笑しな話だが、宇宙のゴミになってしまえば一番手っ取り早いってのは理解出来る。無駄に墓も増やさなくていいしな。ぶっちゃけそういう配慮いらないです……
ハァ〜、悲しいね。そこまで嫌われるようなことしたかなぁ……
いや、存在自体が“罪”だと言われたらそれまでだけど。
ならもう仕方ない。
「………先生。俺を置いて先に行ってください。アイツらは俺が全部引き受けますから」
しかし、もはやその前提は崩れ去った。俺が脱出したとしても、今目の前にいるヤツらが先生に危害を加えないなどと誰が信じられようか。
ほぼ死に体でゆらゆらと立ち上がる。話すだけでも全身が痛いので手短に伝えると、先生はあり得ない物を見るような顔をした。
「………なに、言ってるの?ダメだよ、そんな、そんなこと……絶対……」
えっ、こわ。めっちゃこわい。先生がしちゃいけない目なんですけど……
「どのみち誰かがこの場所に残るのは確定していた。それが偶々俺だったってだけです」
「………ダメ、だから。そんなこと私は許さないよ。ヨイチは脱出シーケンスに乗せて地上に送る。それは絶対だから───」
「なら先生は一体どうやって脱出するのですか?あちら側のシロコに脱出シーケンスを使った今、人数分
「私の分は私が何とかしてみせる。だから心配しないで?」
前々から思っていたんだが、やはりこの人はどこかおかしい。
一歩どころか動かずともゲームオーバーな状況に自ら進もうとしてもなお、こんなにも穏やかな笑みが出来るのだから。
それが先生の魅力であり、強さであり──同時に危うさでもあると俺は思う。
しかし、俺たちの眼前にいるのはその普遍を悉く滅ぼす狂気の光軍団。
夢を、希望を、可能性を。遍く全てを黒に塗り潰す厄災の光。
だから───頼む、
「えっ、な、なんで!?どうして私の身体が……!」
俺は頼みの綱であるタブレットにいるであろう
───この人を地上へ送って欲しい。
心なしかタブレットが震えていたように見えた。
『シッテムの箱』の所有者である先生以外には見えない存在であるらしいが、原作知識を持っている俺は彼女がそこに居るのは知っていた。
だからダメ元で思念とかいう呪術的手段を用いたが、この感じちゃんと伝わったようだ。流石はアロナ様、ガチャ配布以外では超優秀な秘書。
とはいえ、これまで全く関係のなかった部外者が急に語りかけてきたのだ、気持ち悪いなんて思われていないだろうか。ちょっと震えていたから結構ありそうなのが辛い……
「ま、待って……ッ!!ダメ、絶対ダメ!絶対離さないから!」
「先生……」
徐々に光に包まれていく自身の身体を見て半狂乱になりながら、血に濡れた俺の左腕を抱き締める。
なんとか俺を連れて行きたいんだろうが……悪いな先生、その脱出シーケンスは一人用なんだ。
どれだけ足掻こうとも残り数秒で作動するだろう。ただ、その痛ましい姿を見ていると何と声を掛けたらいいか分からなくなってしまう。
……今にして思えば、随分と充実した人生を送れていたように思う。
後悔の多かった前世を払拭出来るぐらい、後悔のない生き様にしようと思った
不相応な夢を見れた。沢山の友達も出来た。前世では送ることの出来なかった青春らしい多くの瞬間も、いつだって彼女たちと共に……
───嗚呼、そうか。簡単なことだった。
これから死に逝く人間が掛けるべき言葉とは、先に逝くことに対する謝罪でもなければ、未練がましく悼ませる言葉でもない。
「先生───ありがとうございました。先生とみんながいたから、俺は心の底から幸せになれたんだと思います。だから、次はみんなが………どうかお幸せに」
「……彼女たちにもそう伝えておいてください」
純粋で、平時では決して口に出すことの出来ない小っ恥ずかしい言葉。
もう二度と告げることのない大切な
涙。
光の粒となって消えた先生が最後に残してくれたのは、彼女の心をそのまま抜き取ったかのような綺麗で透明な涕であった。
人の泪を美しいなんて表現するのは御法度なことも分かっている。だけど、本当に綺麗で、最後まで先生が側にいるようで少し安心出来た。
「………さぁ〜〜て、やろうか化け物ども」
感傷に浸るのもほどほどに。俺は愛銃を構えて眼前にいる化け物どもを見遣る。
相変わらず気持ち悪い見た目をしていやがる。ついでに言えば、アレに少しでも触れてしまえば終わりなのが容易に想像がつく。コイツらは俺という
……だが、俺という
なんせこの俺は本気でキヴォトス最強を目指した飛び抜けてヤバいイカれ野郎だ。自画自賛でも何でもなく、それ相応の努力と実力を手にして、今ここにいる。
「俺もタダでは死なん。お前ら全員ぶちのめして、テメェらの親玉に中指突き立てた後、優雅に宇宙を見ながら死んでやるよッ!!」
生涯最後の戦闘。夢半ばに尽きる俺の命を
「───いざ、参る!!」
結論、生きてました。いや、
なんせたった今目覚めたばかりで。
身体が全然言うことを聞かないと思って見てみたら
「………あの、先生?少し離れて───」
「いやだ。もう離れない。絶対に離れない。あの日から数ヶ月、ずっと目覚めなくて。お医者さんにもこのまま一生目覚めないかもしれないって告げられて、恐怖と不安で頭がどうにかなりそうだったっ。でも、見て?ヨイチが動いてる。声を発して、私の姿を瞳に映してくれている。それがどれだけ嬉しいか、ヨイチには分かっているの?分からないよね、きっと。だって分かってたらあんな遺言残すわけないもん。遺言はちゃんとみんなにも伝えたけど、みんな怒ってたし、泣いてたんだよ。……幸せになんかなれるわけないよッ。私も、みんなも、ヨイチがいないと────あぁ、そうだ。みんなにもヨイチが起きたことを伝えないとね。これからは私たちがヨイチのことを支えるから安心して?おはようからおやすみまで、ずっとあなたの側にいるから。もう二度と一人になんかさせないから。だからお願い、もう二度と私たちの側から離れないで……」
「…………」
その時ちょうど部屋に入ってきたっぽい先生が花瓶を床にぶち撒けた後、ダッシュで俺に抱きついてきたので。
ね?状況理解が出来る状況じゃないでしょ?
ただまぁ、そんな状況の中でも、今もまだ朧げな頭の中ではたった一つの想いが交錯しているわけで。
…………………遺言、取り消せないかなぁ。
【村田ヨイチ】
・年齢:17
・所属:ヴァルキューレ警察学校3年生
・部活:警備局
・誕生日:10月10日
・趣味:訓練
死に場所を選んだ挙句カッコつけて遺言まで残した結果大量のヤンデレを製造してしまったアホ。本人的には死ぬつもりだったので生きてるだけ御の字!と思っているが、周囲の人がどう思うかはゴニョゴニョ……
というのを見たかったんです、私は。
誰かこの概念の続き書いてくんねぇかな……(ぼそっ)