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大阪・関西万博技術記事―ムラタ、万博を『未来社会の実験場』に新技術を続々投入

本記事では大阪・関西万博での「ふしぎな石ころ“echorb(エコーブ)”」体験を支える、鼓動検知技術と位置検知技術についてご紹介します。
ミリ波レーダーセンサや荷重センサを使った微小振動の検知技術や、LFアンテナを活用した途切れづらい位置検知技術など、パビリオンの見えないところでも、最先端技術の応用が進んでいます。未来社会を切り拓いていくムラタの姿をご覧ください。

鼓動によるミリ単位の微小振動を検知 ミリ波レーダー・荷重センサが共鳴体験生み出す

シグネチャーパビリオンBetter Co-Beingに訪れた来場者は、まず「ふしぎな石ころ“echorb”」を手に、エントランスのイスに腰を下ろします。echorbでの体験はパビリオン内に足を踏み入れてから、と思われるかもしれませんが、実はすでにイスに座ったときから、「共鳴」体験は始まっています。
披露されるのは、鼓動のセンシング技術です。来場者が座るイスの中に、ミリ波レーダーセンサ、そして荷重センサが組み込まれていて、座った人の鼓動のセンシングができるのです。

エントランスに設置されているイス。実は鼓動の検知ができる
エントランスに設置されているイス。実は鼓動の検知ができる

「心臓の鼓動によって、人の身体は1ミリ単位で細かく揺れている。その微小振動を検知できるのが特長だ」と話すのは、鼓動検知技術のリーダーを務めた安武誠氏です。
検知した来場者の鼓動に関する情報は、来場者が手に持つ石ころに共有され、『自身の鼓動をechorbに宿す』という体験を提供しています。

ミリ波レーダーセンサは車の衝突検知などで利用される部品です。レーダーの検出精度は数十μmレベルで、対象物との距離を正確に割り出すことができます。
そして、荷重センサでは1グラム以下の微小な変動も計測することが可能です。一般的な体重計などに使われている仕組みと比べて、はるかに微弱な荷重の変化を捉えられるのが特長です。
今回の大阪・関西万博では、このミリ波レーダーセンサと荷重センサを組み合わせて使うことで、より正確な鼓動の検知を実現しています。

1ミリ単位、1グラム以下という微小な身体の変化を検知するセンシング技術が、ふしぎな石ころの体験価値を支えています。

ミリ波レーダーセンサと荷重センサを組み合わせて、イスに組み込んだ
ミリ波レーダーセンサと荷重センサを組み合わせて、イスに組み込んだ
鼓動による微小な揺れの検知を実現した
鼓動による微小な揺れの検知を実現した

デモ体験考案しPR、イスも自作 専門領域飛び越えて提案

そんな今回の体験をどう作りだしたのか。開発の苦労について、機構設計を担当した類家右希氏は「なかなか仕様が決まらなかった」と語ります。そんななか指示を待っているのではなく、チーム一丸となって「こんな使い方ができます」といった積極的な提案を繰り返しました。
例えば、そのひとつが呼吸による身体の微小振動を検知して、その情報を3Dの波として表示するデモ体験です。大きく息を吸い込んだら、その分大きな波を作れ、視覚的にも楽しい装置を作りました。

考案したデモ。呼吸の大きさにより3Dの波が表示される
考案したデモ。呼吸の大きさにより3Dの波が表示される

そして、チーム内では電子部品メーカーという領域を大きく飛び越えた提案活動にも取り組みました。
その最たる例が、冒頭に登場したイスです。実はこのイス、どのようなデザイン・設計のものが適しているのか、様々な方が座るが耐久性などのリスクは問題ないのか、そういった「本来ならば家具づくりの専門家の方が担当される領域の仕事」(類家氏)をムラタメンバー内で確認していきながら、作り上げたものになります。

また、今回のプロジェクトでは、屋外での使用という厳しい条件に加えて、開幕の半年前にメカ設計がほぼ白紙に戻り再スタートになるという難題が発生しました。
通常であれば大幅な遅れや品質低下につながりかねない状況でしたが、様々なリスクに耐えられる高い品質基準を守りつつ、迅速に対応をしました。

安武リーダーは「どのような価値を体験してもらうべきか、お客様が万博期間中に安心してイスを使い続けられる耐久性が確保できるかなど、悩みながらも一つひとつ最適解を探った。ムラタの『納期を守る』姿勢はもちろん、品質を犠牲にしない『巧みなモノづくり力』も発揮できた」と振り返ります。
こうした対応力については、他社の方からも「仕事が早いだけでなく、難しい状況でも高品質な成果物を出してくれる」と高い評価を受けたといいます。

置き去り検知などに活用を 車社会支える技術に

こうして万博で展開されている各技術ですが、今後は車向けの応用を視野に入れています。
ミリ波レーダーセンサについては、子どもの置き去り検知といったアプリケーション向けに提案をしています。
子どもが車内に残っているのか。カメラで捉えようとしても、死角に隠れてしまうと検知はできませんが、ミリ波レーダーセンサを使えば、すぐに分かります。心臓の鼓動を検知するため、乗っているのが人なのか、それともただの荷物なのかといった判別も可能です。

今後はドライバーモニタリングの用途として、運転手の眠気検知でも応用用途を探っています。心拍の揺らぎから、眠気に襲われているかどうかを探ります。

また、荷重センサも同様にドライバーモニタリングで用途開拓をしていきたい考えです。担当の中土井貴英氏は「1グラム以下の変動から、心拍を測ることができる。その情報を取得していくことで、例えば飲酒検知に応用できるかどうか考えていきたい」と力を込めます。

ふしぎな石ころの位置を検知 LFアンテナ、地中に埋めて

ふしぎな石ころでは、遠隔操作で車のドアの開け閉めができる、キーレスエントリーに使われている「LFアンテナ」も活用されています。使い道は、LFアンテナが発生させた磁界によるechorbの位置検知です。磁界のなかの出入りを正確に検知することができます。

パビリオン内で、echorbの位置を正確に把握。特定のアートに来場者がたどり着くと、それに合わせて手に持ったechorbがふるえるという体験を提供しています。

ムラタのLFアンテナはほとんどが車のキーレスエントリー向けに提供されている部品です。
そんななか、LFアンテナチームの栃木誠氏は「メンバーの多様な価値観・視点から明らかになっていた『LF通信で位置検知ができる』という新たな価値の訴求を狙った。大阪・関西万博の場で実装するという挑戦をクリアすることで、今後様々な社会課題の解決に貢献していく原動力としたかった」と振り返ります。
ふしぎな石ころには、ムラタ社内で様々な技術の搭載が検討されていましたが、その熱意が認められる形で、LFアンテナの採用が決まりました。

パビリオン内で重要な役割を果たしているLFアンテナですが、ムラタのパビリオンのどこにあるのか目で確認することはできません。
LFアンテナの受信回路はechorbに実装されていますが、送信アンテナについては地中に埋められているためです。

地中に埋めたLFアンテナを用いて、石ころの位置を検知する
地中に埋めたLFアンテナを用いて、石ころの位置を検知する

「地面の中に埋められている電子部品は珍しいのでは」。電気回路の設計を担当した黒川崇氏は笑顔で振り返る一方、パビリオンの工事作業に間に合わせる必要があるため、納期は非常にタイトでした。

2023年5月にechorbへのLFアンテナ搭載が正式に決まるなか、その後の製品納入は2024年8月と「1年と少し」しか時間がありませんでした。
また、同チームではLFアンテナという電子部品を手掛けていますが、それを組み合わせてなんらかの機能を持った『完成品』をつくる、という経験はありませんでした。
「自分たちで完成品に仕上げなければならない、しかも時間はあまり残されていない」という重責のなかで、トライ&エラーを繰り返すとともに、関係者と密に連携することで課題をクリアしていきました。

地中30㎝にアンテナ500個埋設 初めての経験の連続も、チーム力で乗り切る

LFアンテナの送信部を埋める深さは地中30㎝。もちろんそんなことをした経験はありませんでした。耐水性能のある筐体の選定などを行った田中健一朗氏は「ムラタの他部門に聞いたり、ホームセンターに行ったり、電気設備の工事を手がける東邦電気産業株式会社の人に尋ねたり……」と様々な関係者にヒアリングを重ねました。

パビリオンに埋める必要のあるLFアンテナの総数はおよそ500個に上ります。
通信性能が担保できるのか。確認のために、村田製作所の野洲事業所(滋賀県野洲市)の土地の一部に実際に機器を埋めて実験を行うなど、初めての経験の連続のなかで知見を積み上げていきました。

パビリオン内の赤いエリアに送信用のLFアンテナを埋めた
パビリオン内の赤いエリアに送信用のLFアンテナを埋めた
ムラタの敷地に埋める実証実験も行った
ムラタの敷地に埋める実証実験も行った

また、受信アンテナを組み込んだechorbがうまく作動せず、位置検知ができないという問題にも見舞われました。echorbの回路変更を迫られ、大騒ぎになったものの、「関係者同士が責任を押し付け合うのではなく、お互いに協力し合いながらチーム力で難問を乗り越えることができた」(黒川氏)といいます。

万博で初実証 途切れにくい性質活かし、アミューズメント施設で活用見込む

今回の万博を通じて、田中さんは「防水用のケースに入れて埋めた状態でも、途切れずに位置検知ができるというLFアンテナの強みが明らかになった」と話します。

地中に埋めても途切れないで通信ができる
地中に埋めても途切れないで通信ができる

LFアンテナの強みは「磁界」を形成するという点です。
電波での通信は雨などの障害物の影響を受けてしまいますが、磁界は磁力の働く空間のことを指す物理的な現象です。そのため、雨などが降っても、直接的な影響を受けません。
黒川氏は「とにかく安定しているとパビリオンの関係者からは評価されている」と話します。

また、栃木氏は「万博への参画を通じて、メンバーの成長や、自分たちの部門を誇りに思えるマインドの醸成にもつながることを期待していた」と振り返ります。そんななか、実際に従業員にもマインド変化が起き始めています。

量産を担当した佐古佳大氏は「大阪・関西万博での積極的な使い方をPRした経験を通じて、お客様に部品単体を提示するのではなくて、『こんな使い方ができますよ』という部分まで考えて提案していくことがとても重要だと万博を通じて気付けた」と話します。
キーレスエントリーが需要のほとんどを占めていたなかで、位置検知という技術を積極的に訴えて、アミューズメント施設やイベント会社での活用を見込んでいます。

夢の技術いつか現実に 大阪・関西万博から羽ばたく技術・ソリューション

『未来社会の実験場』というコンセプトを掲げる大阪・関西万博ですが、村田製作所はふしぎな石ころ“echorb”を通じて、これまで実装できてこなかった様々な技術・ソリューションを提供しています。

1970年の日本万国博覧会(大阪万博)では、将来の夢の技術として「ワイヤレステレホン(携帯電話)」や「電気自動車」が披露されました。これらのモノは現在、当たり前のように普及しています。2025年の大阪・関西万博でムラタがechorbに搭載した技術も、近い将来当たり前のものとして使われるようになっているかもしれません。

未来はどのようになっているのか。今回の技術記事を通じて、一緒に想像していきましょう。

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