大阪・関西万博
大阪・関西万博技術記事―ムラタが万博に協賛したワケ 未来社会への想いを胸に
大阪では55年ぶりの開催となり、多くの来場者が訪れ盛り上がりをみせる大阪・関西万博。村田製作所(以下、ムラタ)は大阪・関西万博でシグネチャーパビリオンBetter Co-Beingにふしぎな石ころechorbを提供しています。では、なぜムラタは万博に協賛しているのでしょうか? 今回の技術記事では、ムラタの万博推進事務局への取材を中心に、ムラタが万博に込めた想いやechorbの生産を手掛けたハクイ村田製作所(石川県羽咋市)の取り組みについて紹介します。
未来社会を描く大阪・関西万博 ムラタのVision2030との親和性
「大阪・関西万博への参画を通じて、従業員や来場者の方々に未来社会のありようを考えてもらって、『こんなふうに未来を変えていきたい!』という火を心にともしてもらいたいと思った」。ムラタの万博の取り組みを統括する、万博推進事務局の林田貴司事務局長はこう話します。
その上で、大阪・関西万博でシグネチャーパビリオンBetter Co-Beingにゴールドパートナーとして協賛し、ふしぎな石ころechorbを提供する理由について、「ただ、お金を出して参画するだけではつまらない。ムラタとしても積極的にパビリオンの全体構想に携わり、こんな未来を実現するんだ、という『未来社会の実験場』として万博を活用できればと考えた」と狙いを話しました。
協賛する「シグネチャーパビリオン」は大阪・関西万博会場の中心に位置し、8人のプロデューサーが主導するパビリオンのことです。ムラタはその中でも、データサイエンティストで、慶応義塾大学医学部教授の宮田裕章氏が手掛ける「Better Co-Being」に協賛しています。
このシグネチャーパビリオンの「いのちを響き合わせる」というテーマのもと、「来場者同士のデータを共鳴させ、一人ひとりが輝くことができる未来社会を目指す」という考え方が、ムラタの長期構想Vision2030と親和性が高いと判断しました。
Vision2030では「未来を切りひらくムラタ」として、ムラタのイノベーションによるもっと自由で、暮らしやすい未来の実現の加速を目指しています。
このムラタの目指す方向性と宮田裕章氏の手掛けるパビリオンのテーマのあり方とが文字通り『共鳴』し、万博への取り組みを進めていくこととなりました。
パビリオン体験内容の決定に四苦八苦 創業者につながる「ふしぎな石ころ」構想
万博への参加が社内で正式に承認されたのは、2022年5月までさかのぼります。その後、ムラタの社内にどのような技術があり、パビリオンへのどういった応用が可能なのか、打ち合わせを重ねることとなりました。
ただ、当時は新型コロナウイルスによる影響により、打ち合わせはほぼオンライン。約1年間は「何も決まらなかった」(林田氏)と言います。
そんななか2023年4月からは「月に1回は顔を突き合わせて話をしましょう」と打ち合わせのやり方を変えていきます。
そして生まれたのが振動により引っ張られているかのような感覚を引き起こす「3Dハプティクス(触力覚)技術」を使った、パビリオン内の誘導という案でした。
『この誘導デバイスを「ふしぎな石ころ」と呼称してはどうか?』
事業インキュベーションセンターセンター長の安藤正道執行役員の発案に異議を唱える人はいませんでした。
というのも、この「ふしぎな石ころ」という名称は、社内にとって非常になじみ深いものだからです。
ムラタの祖業である「コンデンサ」には「セラミックス」という原材料が用いられており、創業者の村田昭がこのセラミックスに誘電性や磁性、圧電性など、さまざまな特性を持たせることができる様子を『ふしぎな石ころ』と呼んでいたためです。
今回の万博についても、3Dハプティクス以外にもさまざまなムラタの技術を反映した「ふしぎな石ころ」を作ろうと、議論は盛り上がりをみせました。
「1970年の万博では月の石が注目を浴びた。2025年は『ふしぎな石ころ』が話題となるようにしたい」(林田氏)。こうして、どのような技術を盛り込むのかについての議論が加速していくこととなります。
部門を超えた連携 活きたムラタの総合力 垂直統合型のビジネスモデル
万博の取り組みを共有する専用グループに参加する人数はゆうに200人を超えます。どんな技術なら活用の可能性があるのか。「あそこの部門なら、こんなことをしているよ」と人づてに聞くことも多かったといいます。
そこから協力依頼を出すことになるのですが、林田氏は「皆さんお忙しいなかにもかかわらず、 どの部門も前向きに対応してくれました。部門の枠を越えて一丸となれるムラタの強みを、改めて実感しました 」と振り返ります。
またふしぎな石ころの生産に関わる業務についてもムラタの総合力を実感したと言います。既製品でないだけに、素材の手配から設計、製造ラインの構築など、さまざまな面で各部門の協力のもと作り上げました。
ムラタの「垂直統合型のモノづくり」の力が発揮できたとも言えます。ムラタは、材料開発から完成品を作るための製造装置まで、必要な機能を自社で一貫して保有している体制を長年築いてきました。林田氏は「短期間のスケジュールでこれだけ高品質なモノづくりができたのは、そうしたモノづくりの強みがあったからこそ」と話します。
ハクイ村田製作所で生産 万博で新たな想いを胸に
こうしたすべてのメンバーが一体になって協力するモノづくりの強みは、ふしぎな石ころechorbを生産したハクイ村田製作所(石川県羽咋市)でも発揮されました。
「どのようにしたらより良い製品が作れるのか。開発担当者とも分け隔てなく、会話をして、皆でいいものを作ることができた」と話すのは、ハクイ村田製作所でふしぎな石ころの生産ラインを担当した山田隆之氏です。「現場のアイデアを積極的に反映してくれたのがうれしかった」と振り返ります。
ハクイ村田製作所は2024年1月の能登半島地震で被災し、設備の転倒や仕掛品の落下などの被害に見舞われました。そんななかで決まったechorbの生産について、同じくハクイ村田製作所でふしぎな石ころの生産を担当した山本重俊氏は「万博の開幕日は決まっており、このスケジュールを厳守しなければならないと気を引き締めた」と話します。
それでも現場のメンバーと協力し、専用の治具の作成や一部工程へのロボット導入などを進めることで、必要とされる数量を確保しました。
2025年2月には、石川県の伝統工芸を活かした金箔と輪島漆器の細工を施した特別品のechorbを報道陣に披露するなど、震災からの復興の象徴としても活用を進めてきました。
そんな山田氏は今年4月に大阪・関西万博の会場を訪問。実際に万博会場でechorbを手にしました。普段は電子部品という非常に小さい製品を手掛けている村田製作所にとって、実際に手に取れる大きさの製品を作る機会はまれです。
万博会場でechorbを手にしたことで「実際にすごいことをやってきたのだと実感できた。自分のやってきたことに自信がついて、前向きな気持ちになれた」と話します。
万博に向けた取り組みは心情の変化だけでなく、行動面の変化にも表れています。echorbの生産では、不具合の発生に備えて石ころ一つひとつのトレーサビリティの担保ができる仕組みづくりを担当しました。この経験を活かし、「この仕組みを工場で手掛けるほかの製品にも応用できるのではないか」と考えています。「コストメリットが釣り合うならば、ぜひ導入したい。万博への取り組みを通じて視野が広がったし、個人的にも成長できた」と胸を張ります。
万博はゴールではない ありたい姿の実現・ビジネスへの展開を
こうした動きを受けて、林田氏は「大切なのは万博がゴールではないと意識すること」を強調します。未来社会のありたい姿の実現や企業として新たなビジネスモデルの創出につなげていくことが今後の最大のテーマです。
同じく万博推進事務局に所属する金川哲也氏は、パビリオンでechorbを手にした来場者の驚きの表情が強く印象に残ったと言います。「来場した人が『こんなこともできるかもしれない』と、未来への希望を胸に抱いたなら、これ以上の喜びはない。この万博での体験を新たな1歩として、ムラタはこれからも『Well-being』あふれる未来社会の実現に向けて挑戦を続けていく」と話しました。
大阪・関西万博を通じて、さらに進化していくムラタに今後も期待してください。
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