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再帰的といふこと

 国語といふ教科の中の現代文といふ科目は、文化的な伝統を伝へ、自から文章を読めるやうになるための技術的訓練といふ側面は弱く、現代を彩る問題意識はどこにあるかといふ課題提示と悪文をいかに読み取るかといふ技術的訓練の側面が強い。
 悪文といふのは致し方ない面があつて現代日本語を母語とする日本語人を相手に授業をするのであるから、誰が読んでも明解に意味が分かるやうな達意の文章が課題文になることは少ない。つまりは、誰が読んでも一読ではあまり意味が分からないやうな文章を読み解くといふことが必要になるわけだ。

 さて、昨今私が気になつてゐて、今年の授業の中で随分手こずつたのが「再帰性」といふ概念である。社会学者のベックが有名だが、中世社会を変革して近代化を成し遂げた社会(封建社会を打破して資本主義社会にしたり、専制政治に終止符を打ち民主主義社会に挑んだりした社会)は、次の段階では近代化社会を近代化して行かうとするやうになる時代を迎へる。環境問題がその典型だが、自然環境を開拓して都市化や工業化を果たした近代都市が、環境を保全しようと都市化や工業化に
ブレーキをかけるといふことである。
 自然がなければ都市化や工業化は起きない。つまり都市化を推し進めるためには自然がなければならないといふことでもある。それはちやうど、地面から飛び上がるには足のジャンプ力が必要だが、そのジャンプ力を発揮するためには足が地面に着いてゐなければならないのであつて、地面から離れるには地面が必要であるといふことだ。そして、近代化した社会もまた近代化の対象になり、社会とはいつでも近代化といふ人間社会の動力に引き摺られてゐるのである。それは離れた地面に戻ることなしには次のジャンプも不可能となるのと似てゐる。
 このことを再帰性といふのである(と私は理解してゐるのですが、如何)が、これがどうも生徒には分かりづらいやうだ。
 大阪大学の4学部の2020年の問題がこの再帰性の問題であつたが、3時間かけたが手応へがないまま終へることにした。当日の受験生の結果はどうであつたのかは分からないが、阪大の合格者でもどこまで出来たのだらうかといふ疑問はある。
 その文章は決して悪文ではなかつたが、初見の文章で設問を解くのはかなりきつかつたことだらうと想像された。

 再帰的といふ概念は重要である。私たち人間の行為は再帰的にならざるを得ない。それを理解させることが今年も課題とならう。

  追記
 親になるには子供が必要である。子供が出来たから夫は父親に、妻は母親になれるのである。しかし、子供は父親がゐなければ生まれない。親は子供が作り、子供が親を作る。これも再帰的である。子供と親とは同時に誕生する。
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