高市氏、「保守」鮮明で地方票集中 決選にらみ茂木・小林陣営に接触
自民党総裁選で高市早苗前経済安全保障相(64)が新総裁に選ばれ、憲政史上初の女性首相が誕生する見通しになった。外国人政策などで強い姿勢を示す保守強硬派の高市氏が支持を集めた背景には、保守支持層離れで高まる党内の危機感がある。
原稿読み上げの練習を繰り返す
「昨今、全国各地で厳しい声を聞く。(自民党を)野党の時も支え続けた岩盤支持層の皆様、保守層の方々からは特に厳しい声を頂いた」。高市氏は決選投票直前の演説で自民の苦境をこう述べると、「(総裁に選出されれば)全員参加、全世代総力結集の方針で臨む」と力を込めた。
高市氏はこの演説を同僚国会議員に訴える最大の勝負どころとして臨んだ。原稿は陣営幹部らが事前にチェックし、高市氏は原稿を読み上げる練習を繰り返したという。
1回目の投票で1位となった高市氏。とくに党員・党友票(地方票)で119票と2位の小泉進次郎農林水産相(44)に35票差もつけ、圧倒的強さを見せた。自民が7月の参院選で歴史的大敗を喫した原因について、党内ではリベラル寄りの石破政権の発足で、外国人政策の厳格化など「日本人ファースト」を掲げる参政党に、自民の岩盤保守層を切りくずされたためとの見方が強い。とくに再来年統一地方選を控える地方議員らの方が国会議員よりも危機感を強く持ち、参院選後の「石破おろし」の原動力にもなった。また、昨年1年間の党員獲得数は高市氏を支持する青山繁晴氏が1位、高市氏が2位で、もともと地方では高市氏への支持が広がっているとの見方もある。
「迷いがある」議員をリストアップ
高市氏は、告示日の所見発表演説で奈良公園のシカに対する一部外国人観光客の暴行を主張して外国人政策の厳格化を訴え、「日本をかけがえのない国にしてきた古来の伝統を守るために体を張る」と強調。高市氏陣営内では「極論だ」と懸念する声もあったが、陣営幹部のもとには「あの発言は良いですね」との地方議員の声が多数寄せられたという。この幹部は「高市氏勝利には、地方票の圧倒的獲得が必要だ。『高市氏らしさ』を出して『右』にウィングを広げるのが良い」と手応えを語った。こうした高市氏のタカ派的言動が、地方票獲得に功を奏したとみられる。
高市氏が前回総裁選の反省を踏まえ、最も力を入れたのが国会議員票の拡大だった。安倍晋三元首相の路線継承を訴える高市氏の陣営は、萩生田光一元政調会長ら旧安倍派議員らが中心。自民を離党した世耕弘成氏も参院安倍派の票をとりまとめたとみられる。高市氏陣営はまた、独自調査で「迷いがある」と認定した議員をリストアップ。各議員の関心を調べ上げ、高市氏が直接出向き「ぜひこの分野で力を貸してほしい」と説得して回った。高市氏に投票した衆院ベテランの一人は「ずいぶん私のことを調べていると思った。ここまで言われたら応援しようと思った」と語る。
麻生氏「党員票の多い候補を支持するように」
高市氏陣営は総裁選終盤、決選投票に照準を定め、茂木敏充前幹事長(69)陣営や小林鷹之元経済安全保障相(50)陣営からの支持拡大にも傾注した。党内で唯一派閥として残る麻生派(43人)に強い影響力をもつ麻生太郎元首相のもとに高市氏本人を始め陣営幹部が連日訪問。陣営メンバーは茂木氏陣営や小林氏陣営メンバーにも水面下で接触を繰り返した。
投開票日当日の4日、麻生氏は自身の派閥メンバーに「党員票の多い候補者を支持するように」と電話で伝達。小林氏も陣営メンバーに「(決選投票では)党員の意向を最大限尊重する形で行動する」との自身の考えを伝えた。茂木氏陣営幹部も陣営メンバーに決選投票で地方票で1位の候補への投票を示唆したという。決選投票で高市氏が国会議員票を伸ばしたのは、こうした麻生派、小林氏陣営、茂木氏陣営の票の上積みの影響が大きいとみられる。
一方、もう一人の有力候補だった小泉氏は、党内で幅広い支持を得るため、選択的夫婦別姓導入などの持論を封印した「守りの選挙」を展開したが、とくに地方票は予想以上に伸び悩んだ。小泉氏陣営の衆院中堅は「参政の躍進で党員は保守のリーダーを求めたのだろう」と分析し、「この総裁選の結果、自民は右傾化していくだろう」と語った。
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